水面に跳ねる月兎
私が目覚めた直後、体育館から校舎に行ける様になった。
ルイから話を聞いた所では、寝ている間に何者かに拉致られたようだ。
周りの皆が起きていく中、私だけが何をされてもまったく起きなかったそうだ。
何をされてもという所に少し引っ掛かったが状況が状況のため気にしないことにする。
他の人達はというと壁を壊すなどという実に物騒な意見が出ていた。
まったく話がまとまらない中、
「私は・・・皆で一緒にいた方が、いいと思います・・・」
そういったのは、同学年である祈綺みさ。
「この先、何が起こるか分からないし・・・離れ離れになるよりは、皆で固まった方が良いと思います」
か細い声であったが、皆の気を引くには十分であった。
「祈綺の言う通りだ・・・」
生徒会長である祀木も言う。
さすがは生徒会長と言うべきなのか、はっきりと自分の意見を言い切った。
「俺もみさサンの意見に賛成だぞっ!一人より10人の方がよりエニグマをボコボコに出来るからなっ!」
そんなことを言っているのは1年の灰葉。
ボコボコにするとか、小学生の発想か。
「ひいなサンとあいかサンとみさサンは、俺が守るからなっ!無事にここを出れたらケッコンしよう!」
純粋な目でいいきった灰葉。
九条院は少し後退りし、みさの方は顔を真っ赤にさせて「結婚なんて・・・破廉恥な・・・・」などと呟いている。
「灰葉・・・だっけか、あんまあいかに迷惑かけんなよ」
そう言いながら私と灰葉の間に入ってきたのはルイだった。
「えっと・・・確か」
「夢霧ルイな。名字呼びだとよそよしくなるから、ルイでいいよ」
「あ・・・わ、分かったのだルイさん」
その後も灰葉は1年の風紀委員や会長に色々注意されていた。
とりあえず・・・しばらくは大丈夫だろう。
その後、昇降口や出口と言われていた3号棟の屋上などを回る。
「・・・ねぇルイ、学校の外は『記憶』してあると思うけど、飛べないの?」
「さっきからやってるけど、無理なんだよ。あいかも、まさか潜れないのか?」
「潜れるとは思うけど・・・ルイや皆を置いて行けないよ。それに・・・」
私がいいかけたその時、
『タカハシさんがいらっしゃいました。生徒の皆様は至急お迎えに行ってください・・・』
流れる校内アナウンス。 それと同時に起こる立ち眩み。
いつもはすぐに終わるのに、今回は長く、意識も朦朧としてくる。
内容までは分からないが皆が何かを話しているのが見える。
何を話しているか聞こうと近付いたら、突然誰かに腕を引っ張られた。
何が起こっているか分からなかったがそのまま走りだす。
ザザザ・・・と何か胸騒ぎがする様な音が聞こえる。
「影・・・!」
ほぼ意識が無くなりかけた時、妙にはっきりと聞こえた単語。
ふと振り向いて見ると、後ろに走っていたと思っていた祀木とみさの姿が消えていた。
「・・・・え?」
二人はどこに消えた? 考える暇も無く、私の意識は闇に落ちていった。
「あいか、起きたか?」 ルイの声で、目が覚める。
「・・・ここは・・・?」
「3-Aの教室。どうやら一つ目のパスワードが見つかったらしいんだけど・・・」
再びルイから話を聞くと、私が気を失っている間に灰葉が『夢日記』という【才能】を使ってパスワードのメモを見つけたらしい。
誰かの名前だったが、肝心の名前の部分が見えないという。
学校の生徒の名前らしく、名簿や卒業アルバムに名前が載ってるかもしれないということで、職員室と図書室の二手に分かれて探すことになったという。
「他の皆は先に行ってる。俺は図書室にいくけど、あいかはどうするんだ?」
「私は・・・職員室に行くよ」
「分かったけど・・・大丈夫か?また立ち眩みが起こった時は・・・」
「私は大丈夫だから、ルイも気をつけて」
「でも・・・分かったよ」
ルイを説得させ、職員室に向かう。
職員室には、既に灰葉と来宮と支倉の三人がいた。
灰葉が支倉を必死に説得しているようで、真剣な空気が伝わって来る。
「俺はモトの『才能』を信じるぞ!だから俺の『才能』も信じてくれ!」
・・・ゴポッ・・・・
どこかで聞いた様な台詞。
・・・・ゴポ・・・ゴポッ・・・
小さい頃に似た様な事をいったような・・・
・・・・・・ゴポゴポッ・・・・
「・・・・あいか先ぱ・・・・」
・・・・・トプンッ・・・・・
ねぇ、・・・あいかは私のことを、ずっと守ってくれるの?
うん、私はルイを守るから・・・その代わり、ルイも私とずっと一緒にいてね・・・
「あいかサンっ!」
灰葉の突き抜ける様な呼び声が私の意識を目覚めさせた。
「あれ・・・私・・・」
「よかった・・・いくら呼び掛けても反応なかったから、心配したぜ・・・」 安心した様にう支倉。
「大丈夫、たまにあるの。こういう事」
「・・・そうか。とりあえずあいかサン、一つ目のパスワードが分かったぞ!」
ひとつめのパスワードは『栗須リョウ』。
意味があるのかは分からないがとりあえず図書室組の人達と合流する事になった。
「ひいなサンっ!ひとつめのパスワードが見つかった・・・・」
灰葉が勢いよく開けた扉の向こうには・・・無数の手形。
恐怖とともに、妙な不安感が沸き立つ。
・・・確か、ルイもここだったはず・・・
高まっていく緊張感、ルイはどこに・・・?
「あいかっ!!」
響くルイの声。 振り向くと、そこにはルイと他の三人が
「ルイ・・・・良かった・・・!」
本当に、無事で良かった。
私の胸が安堵感で満たされていく。
何があったのかは後で聞くことにし、一旦私たちは保健室に向かう事にした。
水面に跳ねる月兎
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