紅い薔薇に秘密を添えて
その日朝は秋ににしては暖かい気温であった。
今俺の目線の先にいるそいつは、今から何をされるのか分かっていないような顔で静かに寝ている。
時間は頃合、近所の許可は取っていないが、大丈夫だろう。
音を立てない様にそっと、近付いて行きそして・・・・
「おはよう!朝ですよ〜っ!!!」
耳元にメガホンを近付けて叫んだ。
間髪いれずに飛び起きたそいつに向かって、バズーカ砲を打った。
バズーカといっても、ただの空気砲だが、独自に改造してあるので威力はそれなりにある。
「はろはろーん、おはようタケマルちゃん。目覚めの調子はどうかな?」
「っ・・・・!テメェ・・・・」
元々寝ていた所からだいぶ離れた所で、若干イライラした様にゆっくりと立ち上がったそいつは、九月一日の騒ぎをきっかけに、(半強制的に)俺のマネージャーになった、夕闇高校3年の崇藤タケマル。
「ちょっとちょっとー、ダメだよタケマルちゃん、あんなに無防備に寝てちゃさー。俺は昨日から寝起きドッキリやるよって散々言ってたのに」
「本気でやるとは思ってなかったんだよ!それにしてもどうやって入った・・・?」
「あぁ、以前タケマルちゃんの家に遊びに行った時にこの場所を『記憶』しておいたからね。暇さえあればいつでも遊びに行くから」
「例の気味悪い能力か・・・」
タケマルちゃんの言う能力とは、ポートトリックの事だ。
一度行った場所を『記憶』し、いつでも行くことができるある意味便利な能力。
とは言っても、俺がタケマルちゃんに教えたポートトリック以外にも使える能力は幾つかある。
それらすべての能力を俺はまとめて『Trick or Trick』と呼んでいる。
「そうそうタケマルちゃん、ちょっと買い物付き合ってよ。ちょっと次の公演に使う道具が足りなくてさ」
「・・・今からか?」
「当たり前。返事はYesしか受け付けないから」
「チッ・・・分かったよ」
「ありがとねタケマルちゃん♪」
そんなやりとりをしながら買い出しのために二人で街に出かける。
「ねぇタケマルちゃん、お腹空いたしなんか奢ってよ」
「駄目だ」
朝のドッキリからかなり時間が経った。
とりあえず買うものは大分揃ってきたが、つい先ほど、食べていたたまごボーロが切れてしまった。
「うわー何か食べるものをー特に甘いものが食べた・・・」
ブツブツと呟く。軽く虚ろになっていた俺の目はある店のショーウィンドウに並ぶ商品の一つに引きつけられた。
血を思わせるぐらいに赤い、紅い透き通ったガラスでできたそれは、薔薇の形を象った硝子細工のブローチであった。
「オイ、夢霧。何ぼーっとしてる」
「うわっ!びっくりした・・・」
「俺はいつもテメェに驚かされてんだよ・・・って何見てるんだ?」
そんなことを言いながらタケマルちゃんは俺の目線にあるそれを見る。
「薔薇の・・・・何だ、ブローチか?」
タケマルちゃんが何故かまじまじと俺の方を見る。
「何だよ、見とれちゃ駄目か?」
「・・・いや、なんでもねぇ」
何かありそうだったが、とりあえず
「タケマルちゃん、すぐに戻るしちょっとだけ待ってて、補充してくるから!」
ブローチに見とれていてしばらくの間我慢していたが、限界がきたため、近くの小さい商店に駆け込んだ。
たまごボーロは無かったが、小さいクッキーが売っていたので、三袋ぐらい買っておいた。
当初の目的である物もすべて揃った時には、若干日が沈みかけていた。
「とりあえず、買い出し分は揃ったね」
量こそは少なかったが、店で売っていないような物が多かったため、いがいにも時間が掛かってしまった。
「それじゃあ俺はここら辺で・・・」
「・・・夢霧」 そそくさと帰ろうとした俺を、タケマルちゃんが呼び止めた。
何かと思い振り向くと、その手には箱が。
「あれ、これって・・・」
失礼だとは思ったがその場で包み紙を破き、箱を開く。
中にはいっていたのは、薔薇を象った、紅い硝子細工のブローチ。
「タケマルちゃん、これって・・・!」
渡した本人はそっぽを向いている。
あの時目を奪われたブローチを、今このタイミングに。
買ってくれたのも嬉しかったが、それともう一つ、
「俺の誕生日のこと、覚えててくれてたの・・・?」
誕生日を言ったのは大体九月の二日。ついでぐらいに聞かせただけだった。
「・・・とりあえず、だ」
ただそれだけいうとタケマルちゃんはその場から立ち去ってしまった。
「・・・・こういうのも、たまには悪くないかもな・・・」
そう呟いた俺の口元は少しだけ綻んでいた。
それは九月十二日の午後三時の出来事・・・
紅い薔薇に秘密を添えて
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