夜の二人 in...VP


 艶やかに、しかし何処となく健全さが見える様に、彼女は舞っていた。

 仕事ではよく足を運ぶこの簡易的な、酒場とも言える劇場に、普段の自分として行くのはこれが始めてだろうか……そんな事を思いながら、舞台の上で扇情的な衣装を着て踊る彼女を見ていた。
 今日自分がここに来る事を彼女には知らせていない。もし見られたらどう思うのか。
 そうしている内に、彼女と目が合った。
 内心ヤバいと思った裏腹、彼女はニッコリと微笑み返した。
 ……これは色々と厄介になった。


 公演が終わり、真っ先に外に出、すっかり暗くなった街の路地裏を歩く。
 半ば身内の様に接してきた彼女が心配だったとはいえ、流石に顔は見られたくなかった。
 そうこうしていると、パタパタと駆け足で走ってきて……

「ローリエっ!!」

 背中に誰かが抱き付いた。誰かは既に分かっている。

「っ……マイカ、お前舞台は……というかその衣装のまんまでここまで来たのか?」

「今日の分はさっきので終わりだし、着替えるのはめんどくさかったから。ロリエ、見に来てくれたの?」

「いや、別にそういうんじゃなくて……うん、仕事だって」

「えー……本当に?」

 彼女はぷーと頬を膨らまし、するすると背中側から前による。
 内心溜め息をつきながら、頭を撫でる。
 満面の笑みになり、機嫌がよくなったのを確認したとき。

「記者ロリエ……だな?」

 低く、感情がない響き。嫌な予感がした。

 顔を上げると、「誰か」がいた。
 顔は見えないが、「誰」なのかは嫌でも分かる。
 ついに今までの付けが回ってきたと、確信した。





fin...12.06.18


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