同級生 | ナノ

同級生


二人っきりの放課後


学級委員、マジで面倒臭い。どんぐらい面倒かっていうと、ものすっっっっっげえ面倒。なんなの?なんで何でもかんでも学級委員に回せるわけ?おれらは先生の雑用係じゃないよ?お前らクラスメイトの小間使いでもないよ?帰りも遅くなるし、休み時間も潰れるし、本当ありえない。こんなの去年もやってた小日向尊敬するわ。あ、でもそういえばおれ去年まで学級委員とかパシリだと思ってたかも。すっかり忘れてた。
でも、学級委員でも続けられる理由が唯一、一つだけあった。それは小日向がいるから。嫌な顔一つしないで仕事を引き受け、不満そうな顔のおれを「一緒に頑張ろう」と励ます小日向。そんな顔されたら、頑張らないわけにはいかないでしょ。反則。それに、学級委員としての雑用のおかげで今日みたいに放課後二人っきりになれたりするし。

トントン。カシャン。

たった二人だけの教室で、机くっつけてプリントの束を作る。3枚1束の書類をとっては、机の上で整えてから左上をホチキスで留める。そんな音だけが西日の差し込む教室に響いている。
元々机の上でじっとできない質のおれだけど、小日向の二人だけのこの時間はいつだって静かに黙々と作業に没頭していた。だって、そうしてないと心臓もたないし。ちらりと小日向を見ると、彼女の長いまつげが、伏せられたまぶたの下から女の子らしさを強調する。時折落ちてくる横の髪を耳にかける仕草にドキッとする。つまり、気を紛らわすために作業に没頭している。もちろん会話なんてできないし、気を抜くと手が震えそうになる。

「ごめんね」

「……、…え?」

一瞬、何が起きたのか分からなかった。か細いわけではないけど、自信なさげな高い声。小日向がおれに話しかけたんだと気がつくのに、少し間があった。自分の心臓を落ち着かせるように唾を飲み込んでから、「何が?」と答えた。

「松野くん、学級委員いやだよね。
なるべく私が仕事するから、委員会の時以外は帰ってもいいんだよ?」

「……は?なんでそうなるの?」

申し訳なさそうに眉を下げる小日向は、まっすぐおれに目を合わせる。何かを言いたげな顔をして口を開くけど、結局それは言葉にならなくて、小日向はまた口を閉じた。おれは促すように言葉を零した。

「もしかして、おれがいると邪魔?」

「そ、そんなことないよ!
私、松野くんが一緒で本当に嬉し……っ!」

「え、あ……」


身を乗り出した小日向の顔が本当に近くにあって、心臓が止まるかと思った。

息の仕方を忘れたみたいに苦しくて、永遠みたいに長い。キュッと掴まれた心臓の縄を解く方法が分からなくて、しばらく小日向を見つめる。このまま見つめ合っていたら、その大きな瞳に吸い込まれる気がした。

「ご……め、ん…。」

「あ…、いや…、だい、じょーぶ、デス……。」

カタンと椅子に座り直す小日向は多分、頭を下げている。おれも、頭を下げている。膝の上でぎゅっと握った拳を見つめることしかできなかった。何か言わなきゃと思うのに、心臓だけが別の生き物になったみたいに加速する。苦しい。痛い。どうしよう、おれ、いつもどうやって小日向に話しかけてた?小日向は何考えてんの?おれが一緒で嬉しいって、それ、期待しちゃうよ?

もう最後には小日向の言葉の真意の方が気になっちゃって、ちらっと顔を上げるけど、小日向の耳はおれと同じぐらい真っ赤で、それにつられてまた頭をさげる。次のチャイムが鳴るまで、おれらはずっと下を向いていた。


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