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同級生


初恋


多分、決定的なきっかけなんて、なかったと思う。

クラスの女子が貸してくれた少女漫画のような電撃的な出会いも、一目惚れとか言う都市伝説みたいな運命の糸も、感じなかった。ただふと気がつけば……そう、言うなれば、7月の夕方に、「日が長くなったな、夏だな」とか思うような、そんな感覚。つまりは、自分でもびっくりするぐらい、自然な変化だった。
おれは同じクラスの小日向すみれが好きだ。

好き、っていうのはベタにlikeだよ、ってわけじゃなくて、多分loveの方。慈愛じゃなくて、よこしまな方。つまるところ、おれは小日向に恋をした。
どこが好きかって?全部!……なんて言えるほど溺愛しているわけじゃない。でも、ただなんとなく気になって。
強いて言うなら雰囲気かな。

自慢じゃないけど、おれはクラスでは目立つ方だと思うし中心人物だと思う。そしておれのクラスはお祭り好きな奴らばかりで、結構賑やかだ。そんなクラスだけど、やっぱり静かなやつもいるのが個性ってやつで。小日向も比較的そっちの部類だった。
小日向は物静かなタイプだけど、顔がかわいいから(おれを含む)男子のクラス内女子ランキング、なんてもんに毎回名前が出されて、圧倒的多数で1位に躍り出る、いわばマドンナだ。おれももちろんそうだけど、男子ってのはだいたい女の子らしいお淑やかなタイプが好きだったりする。……つまり小日向は、その男子中学生の好みどストライクなわけだ。
可愛くて、お淑やかで、素直で、優しい。こんな絵に描いたようなマドンナ、いる?そりゃ好きになっちゃうよ、おれら年頃の男子だもん。おれ以外にも毎晩小日向で抜いてるやつ、いっぱいいるって、絶対。

なんの話だっけ。そうそう。小日向が好きな理由だ。もちろんそんなありきたりな理由で小日向が好きなわけだけど、他にもあの子が気になる理由があった。小日向は、みんなに笑顔を振りまきながらも、どこか取り繕ってる部分がある。これに気づいてる人は少ないんだろうなってことは、なんとなくわかるし、おれも正直確信はない。でもおれのカンは、確かに小日向はそんなやつだと告げていた。
ちょっと一人になった時。移動教室で友達より一歩後ろを歩いている時。授業中に窓の外を眺めている時。時々、小日向の【人当たりのいい】仮面が剥がれる時がある。そしてその下にある顔は、とても、疲れていた。何をしてきたのか、何を抱えてんのかなんておれには全然わかんないし関係ないけど、そんなおれが気になるほど、素の小日向は疲れ切った顔をしていた。
何に疲れてんのかな。みんなにちやほやされて、人間関係も良好で、毎日楽しいって顔で生きてんのに。何をそんなに気を張ってんのか、おれには全然予想もつかなかった。普段は何にも考えないようなおれが珍しく、小日向について考え続けているうちに、普段から小日向をよく観察するようになる。すると、時々、目が会うんだ。小日向は何の気なしに、にっこり笑いかけてくる。時々、おれに小さくて手なんて振っちゃったりして。そんな些細なことを繰り返したいた、ら。
好きになっていた。おれの記念すべき初恋の幕開けは、そんなものだった。


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