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同級生


あこがれ


引っ込み思案で流されやすい私は、自分を変える為に、安直だけど、まずは学級委員に立候補してみた。
人をまとめるのも人の前に立つのも、自分の意見もちゃんと言えない私が、こんな仕事向いてるはずないと思っていたけど。それでも中学一年の私は、憧れの存在に近づく為に、なりふりなんて構っていられなかった。
ありがたいことに、入学式の後初めてできた友達のチョロ松くんは、私と一緒に学級委員をしてくれることになった。チョロ松くんは私と違ってクラスの意見を積極的にまとめてくれるし、私によく助け舟を出してくれていた。それに当時の私は、どれほど救われていたか知らない。

慣れない中学校生活。勉強と美術部と学級委員の両立。小学校までの自分では考えられなかったけど、めげそうになるたびに大切にしまって持ち歩いているヒーローのハンカチが私に勇気をくれていた。

「――あ、」

移動教室ですれ違う時、少しだけ肩に力が入る。視界の端でおそ松くんを追いながら、すっと通り過ぎる。少しだけ後ろを振り返って、おそ松くんの背中を見つめる。時々起こるそんな出来事を幸せに感じながら、一年生も半分が過ぎた頃。

初めは全然見分けのつかなかった六つ子だったけど、徐々におそ松くんとチョロ松くんだけは他の兄弟との違いがわかるようになってきた。それはもちろん毎日おそ松くんを目で追っている所為もあるんだろうけど、委員の仕事の合間の世間話で、チョロ松くんから兄弟の話を聞いているという由来もあった。
「あいつはデリカシーがなくて、がさつなやつだよ。」とよく聞かされるおそ松くんの話。確かに、おそ松くんを見かけるときは大体眠そうか、男子とゲラゲラと話をしているか、先生に怒られていた。クラスでは人気者でムードメーカーなおそ松くんは、やっぱり私の目には眩しいぐらい輝いて見えた。


「すみれちゃんってさ、おそ松のこと好きでしょ。」

「――ぇ、……っえ!?!」

チョロ松くんの一言はまさに爆弾だった。突拍子もなく目の前に投げ込まれたそれに、私は身構える暇もなく動揺する。「なんで、」とそれとなく繕ってみるけど、チョロ松くんはため息を漏らしながら「見てれば分かるよ」と返される。私、そんなにわかりやすいかな。

「あの、このことは……。」

「誰にも言ってないし、これからも言うつもりはないよ。」

「よかった……。ありがとう、チョロ松くん。」

「お礼を言われるのは複雑な気分なんだけど。
それで、アプローチとかしないの?」

いつもより淡々とした口調のチョロ松くんにまくし立てられるように、口を開く。

「それはその……私がおそ松くんの隣に立てるぐらいの人間になったら…。」

「……はぁ?すみれちゃんそれ、本気で言ってんの?」

「あ、その、やっぱりおこがましいよね……私なんかが…。」

「いやいやそっちじゃなくて、むしろ逆。
おそ松なんかにすみれちゃんは勿体無いって話。」

心底信じられない、という顔で私を見るチョロ松くんは、これまで見たことがないぐらい真顔だった。チョロ松くんの口からはよくおそ松くんの愚痴も聞くし、おそ松くんが原因でトラブルが起きることがよくあるのは、これでもかというぐらい聞き及んでいた。挙げ句の果てには、只今絶賛反抗期中らしい。毎日父親と大ゲンカをし、そこらへんのヤンキーに喧嘩を売り、顔に傷を作っている日もよく見かけるし、学校に来ない日だってある。それでも、私はやっぱりおそ松くんの奔放な性格も好きだし、何よりも自分らしく自由に行動するおそ松くんを羨ましく思っていた。

「私にとって、おそ松くんは憧れの人だから。
でも、そう言ってくれてありがとうチョロ松くん。」

「…………おそ松のことだったら、あいつが何を言っても何をやっても受け入れちゃうよね、すみれちゃんって。」

「あはは、そんな気がする。
自分でもびっくりするぐらい一途かも。」

「恋は盲目……の間違いじゃないかなぁ…。
あんなやつやめた方がいいのに。絶対。」

チョロ松くんはもう一度、長く息を吐き出した。
チョロ松くんの表情が、おそ松くんが時々見せるそれに少しだけ似ていて、私も重症だな、なんて笑った。

「それでも、今の私があるのはおそ松くんのおかげだから。」



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