同級生 | ナノ

同級生


入学式


ヒーローに背中を押された私は、次の日母親に頼んで、流されてばかりの自分の性格を変える為に、伸ばしていた髪の毛をバッサリとショートに切てもらった。今までの自分を断ち切るように。あの男の子のように、勇敢な行動が私にもできるように。

中学に入学してすぐに知ることになったのは、隣の学区で噂の六つ子がこの学校に入学してきて、さらにその苗字が「松野」であることだ。
私と同い年に、六つ子がいる。それはこの町では有名な話で、実際に見かけたことはないけど、口を揃えて「よく似ている」と言われていることは知っていた。六つ子はどうやら見分けがつかないなどの問題で別のクラスに割り振られるようで、私のクラスにも六つ子の一人が入っていた。
私は入学早々、誰よりも早く、その六つ子の一人――松野チョロ松くんに話しかけた。

「松野くん……だよね?
私、小日向すみれ。一年間、よろしくね。」

「えっ!?
僕?……あ、うん!よろしく。」

ひどく驚いた顔で私を見る松野チョロ松くんは、どこか挙動不審のようにも見えた。今思えば、突然見知らぬ人に馴れ馴れしく話しかけられれば、当然のことかもしれない。

「あの、松野くん。
春休みの間、ハンカチ、誰かにあげたりしなかった?」

「ハンカチ……?
別に、あげてないけど。」

「じゃ、じゃあ、ご兄弟は?」

「…………あ、
それ、おそ松かも。
あいつこの間、母さんにハンカチなくしたって言ってたきがする。」

それがどうしたの?と聞き返すチョロ松くんの言葉は、もはや私の耳にはあまり入ってこなかった。
――松野、おそ松くん。それがあの子の名前。
顔も見なかったけど、雰囲気と声は覚えてる。また、あの子に会える!
会ってお礼を言おう、そうしよう!

気が急いていた私は、HRが終わると同時に、すぐさまクラス分けの掲示板から松野おそ松くんのクラスを見つけ、教室から彼の姿を探した。いた!教室の隅の席で、あくびを噛み締めながら帰る用意をしていた。チョロ松くんとそっくりなその後ろ姿に、彼が「あの子」なのだと、感動に胸が打ちひしがれていた。

「あれ、すみれ?どうしたの?うちのクラスに用?」

「あ、咲ちゃん!えっと、松…――」

そこまで言いかけて、我に返った。
私、おそ松くんに会って、何をしようとしたんだろう。「あなたが私のヒーローです!」って言おうとした?待て待て待て。落ち着け。そんなこと言ったら、私の印象が「変な子」になってしまう。それに私、髪を切っただけで自分が変わった気がしてた。でも違う、今の私じゃまだ、おそ松くんみたいにはなれてない。

「ごめん、咲ちゃん!やっぱり何でもない!
じゃあね!また明日!」

対等になろう。対等になって、私、おそ松くんに恩返しするんだ。
私はもう一度ちらりとおそ松くんを見てから、踵を返した。私の憧れたヒーロー恩返しができるぐらいになって、もう一度会いに来よう。そして恩を返せたその時、このハンカチを返そう。
そう心に誓いながら。

それまで、どうかこのハンカチを、預からせてください。


バッグの中に大事にしまわれたそれは、この後何度も私の背中を押してくれることになる。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -