同級生 | ナノ

同級生


雑貨屋さん


それからのおれは、ずっとすみれちゃんに質問を繰り返していた。
好きな映画。よく見るテレビ。誕生日。家で普段何してるか。……。
すみれちゃんは、何を見て感動するんだろう。何を聴いて楽しくなるんだろう。何処に行くのが好きなんだろう。知る機会はいくらでもあったのに、おれはすみれちゃんのことを少しも知らなかった。質問を繰り返すたびに、それを再確認していくんだ。

「ねぇ、そこの雑貨屋、寄って行こーよ。」

「え……、うんっ!」

駅前の大通りの脇に入った商店街にひっそりとある、女の子が好きそうな雑貨屋。普段は目にも入らないレベルで通り過ぎるそこは、この前すみれちゃんが気に入っていると話していた雑貨屋さんだ。嬉しそうに頷くすみれちゃんの後をついて、一人じゃ絶対入らないドアをくぐった。

カランコロンと扉が開くと、そこにはカラフルで可愛らしい空間が広がっていた。目を輝かせるすみれちゃんを横目で見ながら、「いつも来てるんじゃないの?」と声をかけると、嬉しそうに「三年生になってからは一回も!」と飛びあがるぐらい可愛い笑顔で振り向いた。くそ、反則。

「おそ松くん見て!これかわいい!」

赤い猫の絵柄のマグカップ。本当に赤が好きなんだなと思いながら、「いいね」と賛同する。てか、すみれちゃんが持ってればなんでも可愛いし。
嬉しそうに飛び跳ねるすみれちゃんの横顔を見ながら、おれはなんだかデートみたいだな、て考えてた。この前は「デート」なんて言って海まで漕いでったけど、あれは慰めるための冗談みたいな言葉でもあったから。でも、これ本当に、デートみたいだ。

「?
どーしたの?」

「うーんんん……。
あのね、この髪留め、お母さんとお揃いの色違いでつけたいなって思ったんだけど、私今日の手持ちじゃ一つしか買えなかったから…。」

細かい刺繍がされた髪留め。確かすみれちゃんの母さんって、体が弱くて二年の時倒れたって言ってたっけ。仲の良さそうな悩みに、ニッと笑いって「片方おれが出そうか?」と言うと、予想外のことに驚いた様子で「え?」と目を丸くした。

「大丈夫。おれ、こないだお小遣いもらったばっかだし。
すみれちゃんの方、おれがプレゼントするよ。」

「い……いいよ!
その気持ちだけでお腹いっぱいだよ!」

一度は言ってみたかったんだよね、このセリフ。全力否定されると、勇気出して言った分ちょっと傷つくけど。払ったもん勝ちだもんね、そう思いながらお財布の中身を確認すると、8円しか入ってない。あれっ?なんで?

「あやっべ、ごめんすみれちゃん、おれ、昨日ゲーセンで擦っちゃった……。」

「…………ぷっ!」

抑えきれなくなったように笑い出すすみれちゃんは、いつものように両手で口を隠してるけど、今日はお腹もよじっていた。「あははっ」と声まで出して笑うすみれちゃんに、恥ずかしさが増す。

「ふふっ!なんだか、おそ松くんらしいね。」

「それはひどくね?
ちょっとかっこつけようと思ったのにさー」

「気持ちは嬉しかったよ。
ありがとう。おそ松くん。」

結局おれとすみれちゃんは何も買わずにそこの雑貨屋を出た。「よかったの?」と問えば、「うん、また来ればいいよ。」と言って笑う。「次も一緒に来てくれる?」とおかしそうに笑うすみれちゃんは自然とデートの約束をするものだから、恐ろしい子だ。少しだけドキドキしながら、「今度はちゃんとお金残しとく」と言って、また二人で笑った。
1月の28日のことだった。


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