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同級生


ヒーローの色


すみれちゃんの口から転校の話が出てきてから、三日が過ぎた。すみれちゃんは先生にしか転校のことを話していないようで、多分性格からして、「受験前の大事な時期に私のことで気を散らせない」とか考えているんだろう。三年にもなると学校にも来ない生徒だって増えてくんのに、すみれちゃんはいつもと変わらない顔で毎朝おれとチョロ松に「おはよう」と挨拶をしていた。冬の空気に包まれたその顔が、心なしか少しだけ元気がないように思うのは、転校の話をまだ受け止めきれずにいる、おれの願望かもしれない。
友達と楽しそうに話をするすみれちゃんの横顔をぼんやりと見ながら、やっぱり可愛いな、なんて考える。すみれちゃんとふと目があうと、向こうから笑って小さく手を振ってくる。おれもいつもみたいに振り返る。あと少ししたらこんな毎日も終わってしまうなんて、嘘みたいで、おれにはとても信じられなかった。

そういえば、おれはすみれちゃんがいつから好きなんだっけ。
思い出せないけど、多分、こうやってお互い手を振り合う習慣のようなものが始まった頃にはもう、好きになってたきがする。――でも、その好きは、今よりもずっと小さい、豆粒のようなもので。今のおれのすみれちゃんの好きは、一年前のあの頃のおれよりもずっと大きい確信があった。
目をつむっても浮かんでくるのは、いつだってすみれちゃんだった。仕事をこなすとき、無意識に耳の上にかぶった髪を引っ掛ける仕草。突っ走って我に帰った後、途端に顔を赤くして慌てる表情。辛いことがあったときに垣間見せる深刻そうな顔。「おそ松くん」なんて嬉しそうにおれを呼ぶ顔。全部が全部、おれの好きになったすみれちゃんの顔。
ああ、だめだわ。すみれちゃんの全部が好き。おれ、とうとうここまで来ちゃったみたい。

少しだけ赤くなった耳を隠すみたいに、机に顔を伏せた。
おれ、本当にすみれちゃんと両思いなのかな。自信なくなってきた。思い返せば、恋なんて初めてだし、相手の気持ちなんてあんまり考えずに育ってきたから、そういう感情の機微とか、全然わかんない。
勘違いだったらどうしよう。もし、すみれちゃんにおれ以外の誰かが好きだって相談されたら、おれ大分死ねるよ?
すみれちゃんは誰が好きなんだろう。誰がタイプなんだろう。
そういえばおれは、すみれちゃんのことも、好きな食べ物も、好きな色すら知らない。こんなにも好きなのに、おれ、すみれちゃんのこと、何にも知らないんだ。

それに気づいた日の放課後、単刀直入に質問してみることにした。

「すみれちゃんの好きな色って何?」

「色?」

「うん。」

ぽかんと口を開けたすみれちゃんを少しアホっぽくてかわいいなと思いながら、返事を待つ。無難にピンクとか、水色とかかな。トド松が女子は好きだって言ってたし。すみれちゃんは悩むそぶりを見せて、少し照れくさそうに、「赤かな、」と話した。

「赤?何で?」

「えっと、ヒーローの色、だから……。」

「ヒーロー……。」

「あのね、実は昔から密かに戦隊モノ、好きで。
初恋の男の子のイメージカラーも、赤なんだよ。」

初恋の男の子って……すみれちゃんが「ヒーローだ」って言ってたやつだ。確か、ハンカチをくれた…くそー、やっぱおれが初恋じゃないのか。すみれちゃんはおれを好きになる前に別のやつが好きだったとか…おれが初恋なだけに、ちょっとへこむ。

「だから、ヒーローの色が好き。」

「ふーん。」

それって、初恋のやつも今でも好きってことじゃねえの?と嫉妬しちゃう。すみれちゃんの態度からして、おれのこと気になってるのは確実なのに。そんな思いが顔に出てたのか、すみれちゃんは慌てておれに弁解するように「で、でもね!」と言葉を続けた。

「私にとってのおそ松くんも、ヒーローなんだよ。」

にへらとしまりのない顔で照れるすみれちゃんに、おれもちょっと照れる。すみれちゃんはいつだって正直で、人を褒める時に恥ずかしげなく言葉をくれる。そういうところが照れくさくて、嬉しい。
おればっかりが照れてるのも悔しいから、おれも肘をつきながらすみれちゃんに向かってにししと笑って見せた。

「じゃあ、すみれちゃんがおれのヒロインだね。」

ぼっと顔を赤くするすみれちゃんの姿が、想像できなかったはずがない。





(ちなみにおそ松くんの好きな色は?)
(おれ?おれは…(すみれちゃんのイメージカラーの)白、かな。)
(白!私、赤の次に好きだよ!)
(じゃあ、おれは、白の次に赤が好き。)


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