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同級生


雪が降ったら


委員の後、遅くなった帰り道を、例によっておそ松くんと二人で帰路についていた。冬の昼は短いね、なんて話しながら。夏頃には長く遠くまで伸びていた私たちの影は、もうすっかり夜の帳に隠れて足元に潜んでしまった。

「転校することになったんだ。」

連日話すタイミングを計っていたその言葉を口にしたら、おそ松くんは両目をパチパチと瞬いて、何を言っているのかわからないような顔をした。それから、「ああ…」とぼやく。見るからに不機嫌な顔をして、「それ、行かなきゃいけねーの?」と言葉を続けた。
何の根拠もなく、おそ松くんならわかってくれるかなと思っていた私は、その言葉に返事が詰まって少しだけ黙る。

「おばあちゃんの容態もきになるし、中学生で一人暮らしなんてできないし……。」

「……。」

多分、おそ松くんもそれはわかっているんだと思う。それでも私にそれを聞いたってことは、別れを惜しんでくれることだ。――そんなおそ松くんに対して、根拠のない自信から「おそ松くんなら理解してくれる」と確信していた自分を、少しだけ呪った。私は、自分のヒーローにどうしようもない事情を押し付けていただけだった。そのことが酷く滑稽で、自分を殴りたくなった。
このまま前に進めない自分はダメだ。逃げるな、すみれ。

「おそ松くん。」

「ん?」

言わなきゃ。自分の気持ち。そう思いながらも、口から漏れる息は言葉にならなかった。言葉の続きを待ってくれるおそ松くんを見つめながら、どうしようもなく息が詰まった。

「――っ、」

「すみれちゃん?」

「あの、ね。
雪が降ったら、伝えたいことがあるの。」

冬の空気に触れた私の言葉は、白い息となって辺りに霧散した。阻む風も音もない周囲に、きっと私の声はおそ松くんにも聞こえただろう。徐々に顔に熱が集中してくるのを感じて、下を向いた。
聴覚にだけ意識を集中させると、おそ松くんの息づかいが聞こえてくるんじゃないかと思うぐらい、静かだった。「おれも、」と返事が返ってくるまで、永遠かと思えるほど長い時間が経った気がしたのに、時計の針は実際は一分も進んでいなかったのだろう。

「おれも、その時……すみれちゃんに、話がある。」

ぱっとおそ松くんの顔を見上げると、おそ松くんは照れた顔で、いつものように鼻の下をこすっていた。直感的に、思った。多分、私と同じ話、なんじゃないかなって。
私たちは真実を心の奥に秘めながら、お互いに感じ取ったその気持ちを、笑顔の下に隠した。溢れ出るのは想いが通じたかもしれないという期待と、幸福感と、少しの心配。
雪の日が酷く待ち遠しくて、そしてほんの少しだけ、恐ろしかった。


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