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同級生


年賀状


年が明けて、受験も大詰めに差し掛かる。学校推薦を利用して受験するつもりだった私は、それがなくなった今、一般受験に備えて勉強に本腰を入れていた。
冬休み中に福岡のおばあちゃんの家を訪ねると、元気に畑仕事をしていたはずのその背中は、寝たきりでベッドの上に横になっていた。半年前よりも細くなった印象のおばあちゃんに、私は思わずお父さんの顔を見た。普通そうに見せるお父さんの笑顔は、ほんの少しだけ、悲しげだった。多分、私もお父さんもお母さんも、予想以上に衰弱しているおばあちゃんに、心が追いつかないんだと思う。
そんなおばあちゃんを見た帰りの飛行機で、私はお父さんに、転校を申し出た。向こうの高校を受験して、少しでも長く一緒にいてほしい。私が友達と離れることよりも、二人が一秒でも長く一緒に居る方が、大事なことのように思えたのだ。

冬休みが明けたら、おそ松くんだけには転校のことを言おうと、決心しながら。

「おはよう、おそ松くん、チョロ松くん。
あけましておめでとう!」

「あけましておめでとう、すみれちゃん。」

「あけおめ〜。」

ゆるい挨拶に笑みを漏らしながら、全く同じ容姿の二人を見比べる。本当に、見た目そっくり。真顔でいたら、私でもわかんないや。むしろ、中学に入学した時の方が見た目も言動もそっくりだった気がする。シャキシャキと話すチョロ松くんとは裏腹に、おそ松くんはふにゃふにゃな声で目をこすっていた。おそ松くんは、休み明けで、久々の早起きに無理しているように見えた。そんなおそ松くんでも、こうして会えるのは幸せだ。

「二人とも、遅くなっちゃったけど。
今年もよろしくね。」

手提げに入れていた年賀状をそれぞれ渡すと、予想外の顔をされた。「「おぉ……」」なんて二人して声をそろえるものだから、私もおかしくなって吹き出した。「おれ、達筆手書きの年賀状貰うの初めて」「僕も」なんて感動している二人を尻目に、「勉強の息抜きにさせてもらったんだ」と笑ってみるけど、実は二、三回失敗していることは内緒だ。

「二人の住所、知らなかったから。」

「あーそっか、そういえば交換してなかったね。
もう遅くなっちゃったけど、僕も送り返すよ。」

「あんまり気にしなくてもいいからね。」

「おれもすみれちゃんに書く!」

予想外の喜びように、渡すか迷っていた数分前までの私に背中を押してあげたい気分だった。松野家の六つ子は貰い物には寛容なようだ。


それから数日後、私の部屋のポストには、二枚の手紙が投函されていることに気がついた。
一枚はチョロ松くん。コンビニで売ってる今年の干支の絵柄がプリントされているハガキの下の方に、今年もよろしく、と、他人行儀だけど私を気遣う手書きの几帳面な字が並んでいる。
もう一枚は、おそ松くんだった。暑中見舞い申し上げます、と書かれた絵葉書に、切手も貼らず、宛名だけが書いてあった。新年の挨拶とともに「すみれちゃんともっと仲良くなれる一年でありますように!」と私を気遣うでもなく、おそ松くんらしい自分本位な願いが書かれていて、くすくすと笑った。よく見ると、チョロ松くんは郵便局を通しているのに対して、おそ松くんは直接投函だった。兄弟なのに、こんなところに性格が出てくる。

『あけましておめでとうすみれちゃん。今年もよろしく』

思い出したように添え書きされた、本人の性格をそのまま写したような丸い字をなぞる。今年も、か。そんなことを口から漏らしながら、少しだけ寂しくなってしまった私を――勝手に転校を決めた私を、おそ松くんはなんて言うだろうか。


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