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同級生


どうせなら笑ってほしい


二人で行った夏祭りは、おれの人生の中で一番特別な夏祭りだったと思う。
誘えねぇかな、と思っていた夏祭りだったけど、おれから声かけるのも勇気いるし、断られたら結構ヘコむ自信あるし、とうとう当日まで誘えずにいたんだ。たまたま浜ちゃんの雑用が学年に及ぶレベルで大変そうで、これはしめたとそれらを引き受けた。わざといつもよりゆっくり作業をして、二人で終わらせた時には夕日が傾いた時間帯。ついでを装って、おれはなんとかすみれちゃんと夏祭りを回れることになった。
まあそこで色々あって。あー、今思い起こしても顔がにやける。夏休み中は会えなかったのが寂しいけど、夏祭りを思い出しては満足していた。

そんなわけで、夏休みが過ぎて二学期が明ける。弟たちと分業したり、トト子ちゃんと共闘したり、どうにか効率的に課題を終わらせて登校日を迎えた。今年は日に焼けたクラスメイトはあんまりいなくて、みんな夏期講習という名の受験戦争に缶詰になっていたらしい。多分、すみれちゃんもそうなんだろう。夏休み明けなのに、クラスメイトの顔はどこか晴れやかだった。

「そういえば、この間のお祭り、おそ松と小日向一緒にいなかった?」

昼休み中。声のでかいヒロがいつものように人目を気にせずそんな話題を降ってくる。当然クラス中にその声は響いて、話題はおれらになってしまった。

「私も見た!手繋いでなかった?」

「もしやお二人さん……?!」

盛り上がるクラスにおれはなんて答えればいいのかわからずにすみれちゃんの顔を見ると、向こうもこっちを見て困った顔をしていた。それからすみれちゃんはクラスメイトに聞こえるように声を張り上げて、

「何にもないよ。委員の仕事が長引いたから寄っただけ。
私が迷子になっちゃったから、おそ松くんが保護してくれたの。」

すみれの言い分にクラスメイトからどっと笑いが漏れる。すみれちゃんは赤い顔でえへへと自分の失態を恥じていた。自分から「保護してもらった」って言えるあたり、すみれちゃんもノリはいい……んだけど。

「……。」

おれはどうも納得がいかなかった。いや、全部事実なんだけど。事実なんだけどさぁ。それでも「何にもないよ」と本人に言い切られるのは、いい気分がしないわけで。おれは結構期待したのに、すみれちゃんはそうじゃなかったのかな、なんて一人裏切られたような、落ち込んだ気分になった。


その日の委員の雑用は、少し空気が悪かったと思う。掲示板の張り替えをしている最中も、おれらは何も話さなかった。
この空気を作っている原因はもちろんおれだし、勝手に拗ねて勝手に空気を悪くしてる自覚も少しぐらいあって、すみれちゃんも居心地が悪そうな顔をしているのがわかる。だからと言って謝ってほしいわけでもないし、すみれちゃんは悪くないんだ。強いて言うなら、あんな話題持ち出したヒロが悪い。だって付き合ってないのは事実だし。でもそれを本人の口から聞くのは、なんか寂しいし。おれら夏祭りで、いいふいんきだったのに。
……。

「……はぁ〜。」

「おそ松くん?」

「なんか、今日はごめん。
おれが勝手にむしゃくしゃしてるだけだから、すみれちゃんのせいじゃないから。
だからそんな顔しないでいーのに。」

自分を責めるように落ち込んだすみれちゃん。分かりやすい。昔はこんなことあんまり思わなかったけど、すみれちゃんは顔に出やすい。おれが原因で落ち込んでるすみれちゃんを見るのは、「付き合ってないよ」と言われるよりもいい気分じゃなかった。どうせなら笑ってほしい。

「ねぇ、すみれちゃんってさ、高校どこ受けんの?」

「え……っと、○×高校だよ。」

「へ〜、おれ難関校とかよくわかんないけど、聞いたことある学校だし、やっぱ頭いいんだね。」

「受けるって言っても、学校推薦だから。受験勉強はするけど、多分面接になるんじゃないかなぁ。」

「学校の推薦で受けんの?すげー!おれはぜってーもらえないわ。」

「あはは、今からおそ松くんが推薦を狙うのは難しいかもね。」

「ひでー!」

くすりと微笑んだ小日向ちゃんの顔に少しほっこりして、おれはなるべくいつも通りの会話に徹した。すみれちゃんが笑ってくれればそれでいいや……なんて思ってるおれも単純で、そーいうところはいいところだと思った。よく考えてみれば、告白もしてないのに付き合ってるわけないじゃん。ばかだなぁ〜おれ。がんばろ。



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