同級生 | ナノ

同級生


相合傘


7月に入った東京は梅雨明けが発表されたけど、その日は午後からお天気雨だった。置き傘と折りたたみを二つ持っていたチョロ松に一つ貸してもらって、そのまま途中で別れてゲーセンでも寄ろうかなと思っていたところで、遠くの喫茶店の前ですみれちゃんの姿を見つけた。
天気予報の晴れに騙されて見事に降られたらしいすみれちゃんは、狭い喫茶店の屋根の下で、天気雨を困ったように見上げて佇んでいた。近づいてみると、おれに気がついて「おそ松くん」と笑って出迎えた。

「傘、忘れたの?」

「うん、まさか降ってくるなんて思わなくて。」

「んじゃ、おれと一緒に入ろうよ。」

へっ!?と途端に顔を赤くするすみれちゃん。勤めて意識しないようにしたおれの苦労は、すみれちゃんの顔を見た瞬間にあっけなく崩れてしまった。なにその反応、こっちまで緊張しちゃうんだけど。
すみれちゃんは赤い顔で視線を彷徨わせてから、頬を小さく掻いて、「じゃあ、お邪魔します。」とつぶやいた。笑った顔はほんのり赤くなってて、傘の中に入れるだけなのに、ドキドキした。
右側に控えめに飛び込んできたすみれちゃんは、よく見ると雨に濡れて夏服の下の服が少し透けて白いセーラー服がピンク色に滲んでいた。張り付いた髪の毛や服が妙にエロくて、視線を逸らしながらも、チラチラと胸元を見てしまうおれを誰も怒らないはずだ。不可抗力。

「……!」

不意に傘を持つ右手に、すみれちゃんの両手が添えられる。暖かくてすべすべなすみれちゃんの手のひらに、息が詰まりそうになった。本人を見れば、すみれちゃんは赤い顔で「おそ松くん、肩濡れてる、から」と、蚊の鳴くような声で囁いた。雨音が響く中でもクリアに聞こえた震えるすみれちゃんの声に、緊張やときめきや息苦しさがないまぜになって、すみれちゃんのなすがままに傘の傾きをおれの方に向けられた。水滴は左肩を濡らさなくなったけど、今度は逆にすみれちゃんの右肩に触れていることに気づいて、咄嗟に垂直に直した。やばい、心臓、もたないかも。

すぐ近くにあるすみれちゃんの体温とか、息遣いとか。こんなに密着するほど近くにいることなんてないから、ついつい唇とか、濡れた前髪の隙間から覗くまつげとか、ほんのり香るシャンプーの匂いに意識がいってしまう。すみれちゃんはなんというか、頭のてっぺんからつま先まで、どうしようもなく女の子だった。
すみれちゃんの家に続く坂を登りながら、ああ、


もう少しだけ、すみれちゃんの通学路が伸びればいいのに。


「え?」

やべ、声に出てたらしい。至近距離で目のあったすみれちゃんは、びっくりした後、ほんのり赤い顔で、「私も、そう考えてた」なんて笑った。おれはその日、わりと本気でこのまま死ねると思った。


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