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『よ・・・っと!
ここでやっと2階か。先はまだまだ長いな。』

『・・・そこの君、危ないよ。』

『ん?大丈夫さ。こう見えても木登りはなれてるんだ。』

『そうじゃない。そこの枝・・・』

『え・・・う、うわああぁあ!』

『うわ、落ちちゃった。
2階だけど大丈夫かな?

ねえ!生きてる?』

『いつつ・・・俺は大丈夫だ!
まったく、病院で怪我してたまるかっての。』


『本当にね。』


『俺は棗恭介
お前の名前は?』

『一ノ瀬沙羅。』

『じゃあ沙羅。
リトルバスターズに入らないか?』

『リトル、バスターズ?』

『そう。
俺にはお前の力が必要なんだ。』







――嗚呼、彼は







『・・・今日も来たの?』

『ああ。お前がリトルバスターズに入ってくれるまで、毎日だって来てやるぞ。』

『リトルバスターズって言ったって、まだ君一人じゃない。』

『だから、俺はまだリトルバスターズじゃない。
沙羅が入って初めてリトルバスターズになるんだ。』

『・・・へんなの。』

『変でいいさ。
じゃあ、また明日来るな。』

『何度来たって答えは同じよ。
だって、もうこの足は動かないもの。』

『動く!
俺は、お前が笑いながら走りまわってる姿がみたいんだ。
きっかけがないなら、俺のためでもいい。諦めんなよ。』







――こんなにも容易く







『退院おめでとう、沙羅。
これで晴れてリトルバスターズ結成だな。』

『まだ入るなんて一言も言ってないわよ。
でも・・・3ヶ月間ずっとうっとおしかったから、あれもうゴメンだから・・・入ってやんなくもない。』

『・・・行こう、俺たちはリトルバスターズだ!』

『え、わっ!
ちょっと、いきなり走らないでよ!きゃあ!!』

『おっと!
悪い、つい。沙羅が笑ってたからさ。』

『ギザなやつ。
私、同い年嫌いなのよね。弟みたいなのが欲しいわー。』

『俺は半年沙羅より年下だぞ?』

『なっさけな!男としてそれでいいの?』

『いいさ。沙羅が笑ってくれれば、それで。』

『・・・本当、ギザな奴。』







――私に居場所をくれる。







『嫌だ!恭介!!
外になんか出たくない!怖い大人たちが連れて行くんだ!!』

『大丈夫だよ鈴。
外の世界には楽しいことが沢山待ってる。
お前に紹介したい奴がいるんだ。』

『紹介したい、やつ?』

『こんにちは、鈴ちゃん。
私は沙羅。握手しましょう?』

『いやだ!
お前もあたしにいたいことするんだろう!
・・・・・・っ!?』

『・・・ほらね?大丈夫。
行こう、今日から私たちはリトルバスターズよ。』

『(あ、俺のセリフ!)』

『・・・・・・うんっ!』







――恭介。







『鈴!沙羅!
最近ここいらで暴れている奴がいるらしい。
リトルバスターズの出番だ!』

『何か策はあるの?
聞いた話だと、喧嘩負けなしっていうじゃない。』

『ああ。
拳だと確かに負けるかもしれないが、じゃあ頭を使えばいい。
トラップを仕掛けて、あいつをぼこぼこにする。』

『卑怯ね。』

『卑怯だ。』

『うるせえ!
とにかく行くぞ!まずは材料集めだ。』



―――…・・・・・


『・・・この子、すごいね。』

『恭介、こいつ鬼怖い!』

『なんで・・・お前倒れねーんだ?』

『それは・・・オレがお前らより強ぇからだよ。』

『でも、もう目も見えねーし、このまま続ければ負けるぜ?』

『いや・・・オレはぜってぇ倒れねぇ・・・だから負けもしねぇんだよ・・・。』

『そいつはつらいな。
楽にしてやるよ。ほら、倒れろよ。』

『ぅくっ!
ぜってーたおれねぇ・・・!』

『何でだよ?何をがんばってんだよ、お前一人で。』

『そりゃがんばるさ・・・。
お前の言うとおり、俺は一人だからさ・・・。
がんばらなきゃさ・・・惨めで仕方がねぇじゃねぇか・・・。

馬鹿だったオレがさ・・・あの日から、体を鍛え始めてさ・・・
オレを笑う奴はいなくなったけどさ・・・それでもひとりきりでさ・・・
それでも、求め続けてさ・・・探し続けてさ・・・
でもいつからか、わかんなくなっちまってさ・・・。
オレは・・・いったい何のためにがんばってんだっけ・・・てさ・・・
探してたものは、何だったっけ・・・てさ・・・
だから、それを強さにしたんだ。
それを誇示し続けることにしたんだ。

だから・・・倒れるわけにゃいかねぇんだ・・・。
負けちまったら、俺はただの馬鹿に戻っちまうからさ・・・
そんな惨めなことにならねぇためにな・・・』

『お前が惨めかどうかは、お前が決めることだから、そいつはどうにも出来ないが・・・

馬鹿でもいいじゃねーか。』

『強くなくったってもいいじゃねぇか。』

『俺は、お前と戦えて、すげー楽しかった。
こんな無茶できる奴なんて、どこにもいねーぜ。
ポスト抱えて戦う馬鹿なんてさ。』

『だから、そのまんまでいてくれよ。』

『だったら、俺はこれからもお前と一緒に遊ぶぜ。
すんげー楽しかったからな!』

『(フ・・・かっこつけやがって。)
私も、楽しかったぞ。

君、下の名前は?』

『真人』

『俺は棗恭介だ。』

『私は沙羅。
この子は・・・』

『鈴。』

『・・・真人、今日から俺たちとお前は友達だ。
これからは楽しいことがたくさん待ってるぜ。

だから、今は休んでおけ。な?』







――君は光だ。







『お前の親父は、俺たちが倒してやった。』

『もう誰もお前を止める奴はいないぜ?』

『いくだろ?一緒に』

『お前には天賦の才(てんぷのさい)とやらがあるのかもしれないが、そのおかげでこんな暮らし・・・ったく、同情するぜ。』

『お前の名は?』

『・・・宮沢謙吾。』

『俺は恭介だ。
よし、謙吾。今日から俺たちは友達だ。』

『一緒に遊ぶぞ、ついてこい。』







――いままで皆を、支え続けてきた光なんだ。







『――強敵が現れたんだ。君の力が必要なんだ!』

『名前は?』

『なおえ、りき。』

『よし、いくぞ、りき!』

『ね、君たちは!?』

『俺たちか?悪を成敗する正義の味方。
人呼んで・・・リトルバスターズさ。』






「ん・・・。」


目が覚める。
ここは恭介の部屋のベッドで、そこに横になる恭介の手を握っていたらいつの間にかに眠っていたようだ。


・・・懐かしい夢を見た。

それはまるで、走馬灯のようにも思えるほど長い夢で。

一瞬にして散る花火のように刹那的な夢だった。






いとも容易く、【居場所】(支え)を作ってくれた恭介。




じゃあ恭介は、誰に支えてもらっている?




常に一歩手前で皆を引っ張っていく恭介は、誰に心の弱みを見せる?




――誰にも、見せはしないんだ。






「・・・沙羅、か。」

静かに目を開けて私の存在を確認する恭介。
その頬には、涙腺が一筋通っていた。

「・・・・・・・・・悪い、一人に・・・してくれないか?」

そうやって弱弱しく微笑う恭介。
私はその場を動こうとせずに、ただただその手をにぎり続けた。

私は知ってる。
昨日の事件。真人を狂わせたのは君で、卑怯な手を使って・・・謙吾の心を踏みにじったのも君で。
それでも理樹と鈴だけを救おうとして一人悪役になったのも・・・君だ。

本当はこんなことしたくないでしょう?

今すぐにでも皆に謝りたいとか、何百回も考えたでしょう?

・・・助けてって、言ってしまいそうだから私を遠ざけようとするんでしょう?


お願い、理樹。
私の代わりに、・・・あの日の恭介になって。
そして、彼をどうか救ってあげて。


何も出来ない無力な私は誓う。



ひとりにしてと微笑う君の、震える手を離すものかと。