まだお昼だというのに、厚いカーテンに遮光された部屋は目が慣れないと歩けない状態。
私はその中を音を立てないように進んで行き、人のように見せた山があるベッドまで歩く。しかしその中に主は存在してはいなかった。
私は光がまったく当たらない死角の中に潜む恭介の傍に寄り、病人のようなその顔を覗き込む。
きっと、一日に2食も取っていないのだろう。
私は彼の横にそっと腰掛けると、しばらくして彼のため息が聞こえた。
「・・・、沙羅か?」
「うん。お帰り。
ご飯、もってきたよ。・・・って言っても、パンなんだけど。」
カサリとビニールが擦れる音を立たせて彼にパンを渡すと、いつもごめんなと言う言葉と共に弱弱しく笑った。
前回の世界で彼は自分のしたこと――この場合、鈴の心の傷を開いてしまったことだ――に負い目を感じている。
そして、漫画の世界に逃避するかのように引きこもってしまった・・・というのが、周りから見た恭介。
その実、彼はこの狂った世界で唯一の抜け道を見つけ、片時も休まずに鈴と理樹を守ろうと必死に戦っていた。
己の心がどんなにぼろぼろになろうとも、彼は諦めなかった。気力を消失し、精神を削られ、それでも2人を助けようと。
「・・・・・・なあ、沙羅。」
「何。」
「俺・・・間違ってたのかな。
俺がしたことは全部、間違ってたのかな?
本当はもう、何もかもが手遅れで、この狂った世界から出られないのか?
もしそうだったら、俺がしていることは一体なんなんだ・・・」
「・・・恭介。」
「ああ。」
体育座りのままそっと恭介に寄りかかる。
心が痛かった。ここにいる彼の体はまったく傷ついてはいないけれど、心がズタズタになってしまったから。それを見ていることしか出来ないから。
もう、がんばらないで。恭介は良くやったよ。お疲れ。
そう、言ってあげたかった。
今はもう追い越された身長で、必死に背伸びしながら彼の頭を撫でたあげたかった。
いつの日か、遠い昔そうしたように。
でもきっと、そんなことをしたら彼はもう立ち上がれなくなってしまう。
それほどまで、彼の心は傷ついたんだ。辛いよね。私なんかより、ずっとずっとずっと・・・辛いんだよね。
何かを話そうとしたけれど、口に出してもきっと何の意味も成さないのだろう。
私は静かに、涙を流した。
彼は黙って私を包み込んでくれたけど、それがまた悔しくてまた涙が出た。
恭介はがんばったんだよ。もういいよ。後は私がやるから。
そんな言葉、彼は望んでいない。そんなことは分かってる。
「恭介がどんなに悪者になっても、どんなに悪いことをしても、私は、私だけは信じてるから。
貴方の味方に、なるから。」
「・・・・・・沙羅。
ありがとう。ありがとう、沙羅。」
静かに彼の頬から伝うしずくを、指でそっと拭う。
肩口に顔をうずめて、声も出さずに涙する恭介から、今だけはこうしてくれという感情が伝わった。
私は君の手助けを何一つとしてすることはできないけれど、
君の涙を拭うくらいなら、私にだってできるんだ。