ハロウィン2015 | ナノ

すこし卑猥な描写があるのでR-15でお願いします。




吐いた息すらも気に触るほど、今の俺には余裕というものがなくなっていた。なるべく気を逸らそうとすればするほど気になってしまう乾きは、留まる様子を見せない。

「クソッ、クソ!」

暗い路地でじっと乾きを耐えるが、それも限界を迎え、意識もうろうとし理性が飛ぶ前に自分の手首に牙を立てた。一時的にしのぎにはなれたが、それもほんの一時。自分の血が余分に流れただけではなく、血を見てしまった事への興奮が余計理性の皮を薄く引き延ばした。

「……っはは…。
スーツ、血まみれ、じゃねぇか……。」

座り込む自分の格好に目を向ければ、口元は自分の血で汚れ、顎を伝った血液がスーツとワイシャツを無惨に汚す。俺の手首もグズグズになっていて、とても人間には見えないだろう。
もういっそ、本能のままに血を貪り尽くしたい。

「……だれか、そこにいるんですか……?」

意識を手放す、まさにその瞬間だった。誰も来ない筈の路地裏に、か細い声が微かに響く。若い女の声だ。まだ十代。これでもかというほど美味い匂いが、鼻をくすぐる。
やめろ、こっちくんな。
そんな事を考えるも、その思いとは裏腹に濃くなる匂いと、近づく足音。朦朧とした意識の中、確かに感じる人間の女の匂いに、俺は気の毒になった。それ以上きたら、お前は俺の餌食だ。かわいそうに。そんな思いでいると、とうとうその女の顔がぼんやりと視界に入る。

「えっ……!?」

目に見えて怯えるその女は、俺の姿を見るなり数歩後ずさる。十代半ば、女子高生の様だ。あの制服は、近くの女子校の……、

「あっ、あの……血が……」

「………わりぃが……今すぐ、ここを、はなれろ……。」

「……?」

「お前も、ここで死にたきゃ、ねー……だろ…?」

やべぇ……空腹がごちそうに最高のスパイスになって、もはやその女子高生が豪華なディナーにしか見えねぇ……。
それでも、なけなしの理性を振り絞って、叫んだ。

「…っ、早く行け!!」

弾かれるように走り出した女子高生。そうだ、それで良い……俺はいよいよ意識を手放―――



「大丈夫ですか!!?」

「……―――ッ」

すぐ近くに広がる甘い匂いと首筋に、自制も効かず堅い地面に押し倒す。荒い息の中、朦朧と見えたその女の顔は、恐怖に歪んで涙が溜まっている。それが余計、加虐心を刺激する。
行動を辞める為の理性も残っていなかった俺は、セーラー服の襟口から除くその首筋をツゥ、と嬲るように舐め上げた。

「……っっ!」

恐怖のあまり言葉も出ない、という様子が、流れ出す涙からありありと分かる。俺はその麻薬のような匂いと味に呑まれ、頭ではダメだと分かっていても、目の前のごちそうに喉を鳴らす事しか出来ない。

「あーあ、ダメだっつったのによォ……。
戻って来ちまったんだ、自己責任だぜ?」

すんすんと鼻をひくつかせながら、その女の匂いを楽しむ。頭の中ではサイレンがけたたましく鳴り響くも、それで抑えの聞く状態はとっくに過ぎ去っていた。こんなにも良い匂いをさせるこの女の血は、さぞや美味いのだろう。そんな事ばかりが思考を独占して、理性の介入する隙を与えない。
フーフーと必死に恐怖で漏れそうになる声を耐えるその女は、絶え間なく流れる涙の隙間から、その大きな瞳の向こうで真っ赤な目の俺を映す。

「……おめーもバカだよなぁ……。
戻ってさえ来なけりゃ、ここで俺に殺される事もなかったのに……。」

それは本心から漏れた言葉でもあった。これから血を吸い尽くそうとする相手にそんなことを呟くのも、おかしな話だ。
女は何を思ったのか、震える左手を胸の前に持って来ると、今にも泣き崩れそうな顔で、しっかりと俺に目を合わせて、こういった。

「け、が……して……!」

蚊の鳴くような声ではあったが、はっきりと俺の耳に届いたその言葉。それは多分、俺の今の格好を指しているのだろう。なるほど、こいつはそれで態々戻って来ちまったわけか。

「……ケッセッセ!
ほんっと……お人好しは損するぜ、嬢ちゃん。」

「……で、…も……。
放って、おけなくって……。」

「……。」

女の持っていた左手のビニール袋の中には、消毒液と、包帯が入っていた。買いに行ったのか。本当にお人好しなヤツだ。

「なあ、お前……名前は?」

「…………なまえ」

なまえは泣きはらした目元の潤んだ瞳で俺を見据える。セーラー服のスカーフはなまえが息を吸って吐く度に大きく上下に揺れ、汗で肌に張り付いた髪はなんとも凌辱的だ。

「いただきます」

――ツプ…、

「―――ッ…!」

甘ったるい匂いを馨(かぐわ)すその女の首筋に、牙を立てる。じわりと漏れ出したなまえの血液が俺の唾液と混じり合った瞬間、背中に走る快感に酔いしれた。我を忘れるほどに貪ろうと、一滴でも垂らすまいと首筋を吸い上げる。

「……っあ!…んッ」

苦痛と快楽を同時に味わったような声を上げるなまえの手は、俺の血まみれのスーツを握っていた。首筋から全身へと駆け巡る、痺れるほど甘い快感を持て余しているようにも見える。徐々に回復し出した俺は、なまえの体を起こして壁にもたれさせ、その頬を優しくさすった。

「すまねぇ、がまん、できそうにねぇ……。」

「へ……あっ、あ!や…っ!」

右手をなまえの膝の裏へと移動させ、片足を上げる。スカートの中からのぞく内腿に牙を立てると、首筋とは比べ物にならない勢いの血が口内を満たす。口の端から僅かに漏れる鮮血すらも惜しいと思いながら、少しの間その味に酔いしれた。

「ン、んぅ!……ゃ、ぁ、あ……――あっ!」

ちらりと見上げたなまえは、女の顔をしていた。とろりと垂れ下がった潤んだ目元と、赤い顔。口に手をあてて必死に声を押さえ込もうとしている様だが、快感と失血でもはや手に力が入らず意味はなさなかった。
俺を見るその表情に、ぞくりと本能的な部分が震える。強く吸うと、一層声を上げた。

「…ひあぁっ!?
や、あ、あぁ…っ!やだ、…っっ!あ、…んっ!」

裏路地に響くなまえの嬌声。このままずっと聞いていたいぐらいだが、それも出来ない。もうなまえは失血によって意識が混濁しているころだ。殺すわけにはいかない。
俺は滴り落ちた血を丁寧に吸い上げてから止血を施すと、内腿についた牙の後は綺麗に消えた。同様の事を首筋にも行えば、端から見て俺が女子高生を襲っているようにしか見えないだろう。……事実、その通りなんだが。

「ごちそうさん。悪かったな、突然。
それと、包帯もありがとよ。」

息をするので精一杯のなまえは、俺の顔を見ているだけで、返事を返す気力も、自分の格好を整える力もない様だ。それもそうだ、もうぶっ倒れても良いぐらい貧血なのだから。

「つーわけで、責任とるからよ……。
なまえ。」

「……?
――んっ」

柔らかい唇が触れ合い、角度変えては何度も繋がる。それでも物足りなくなってしまい、ついにはガリ、と言うオノマトペと共になまえの下唇を噛んだ。僅かな傷を吸うように名残惜し気に舐め上げて、顔を離した。



「俺の嫁さんになってくれよ。」






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2015/10/31