Project 100000


presented by tranquilizer

promised

ちいさな小鳥のさえずりに応えるように、ラララと歌を歌いましょう。
それは恋の歌。幸せな家族の歌。
気持ちよくそよぐ風に、貴方が好きだと言ってくれた蒼い髪を攫われながら、貴方を想って歌を奏でる。

「♪〜」

暖かい春の日差し。草原に腰を掛けて、手元は忙しなくシロツメクサを編み込んで行く。こんな天気の良い日には、ハンガリー。貴方と一緒に日光浴でもしたいものね。

「よし、できた。」

上手にできた花冠を太陽にかざせば、眩しくなって目を細める。願わくば、この花冠が貴方に幸福をもたらしますように。

「おっ、上手なもんだな〜!」

「きゃっ!?」

頭上から突然顔を出したハンガリーに、私は驚いてひっくり返る。あまりにも素っ頓狂な声だったのか、はははと大笑いを受けてしまった。
仕方がないじゃない、貴方の事を考えていたんですもの。
会いたいと思っていた私は嬉しくなって、体を起き上げてその人の胸に飛び込んだ。貴方はたくましい両腕で私を支えると、背中に手を回して穏やかに笑った。

「ハンガリー!お帰りなさい!」

「ただいま、なまえ。
寂しかったか?」

「ええ、とっても!
今回は早かったのね、ハンガリー。」

私の頬をなぞるように撫でるハンガリーと額をくっつけると、貴方は私にもう一度、優しくただいまと囁いた。
貴方は私の髪を持ち上げると、そこに口づけをして、丁寧に梳いた。

「ああ。でも直ぐにまた、出なきゃいけなくてよ。
ごめんな、あんまり一緒にいてやれなくて。」

「仕方がないわ、貴方は国なのだから。」

そんな言葉を私たちは何度繰り返したろうか。すぐ背後に迫る別れのときに見て見ぬ振りをして、私は明るい声で話を振った。

「今日は、一緒にいられるのでしょう?
今朝ミルクが手に入ったの!美味しいスープでも作りましょうか。」

「そりゃ楽しみだ。」

鼻を押し付けてくるハンガリーにこそばゆさを感じて思わず避けようとするも、逃がさないと言わんばかりに腰に回したハンガリーの腕に力が入る。私たちはそのまま草野原に転がり込んだ。

「っ、ふふ!くすぐったいわ、ハンガリー!」

「なに?もっとか?」

「やだっ、ふっ、はは!」

脇の下を集中的に責め始めるハンガリーの両手になす術もなく身をよじるけど、その指先から逃げられる筈もなかった。
目尻に涙が浮かび、笑い疲れて行きが上がった頃には、ハンガリーは愛しい笑みで私を見下ろしていた。自然と、そのまま唇が繋がれる。甘く痺れるような感覚に酔いしれながらも、その幸せの余韻に浸っていた。

「………ねぇ、ハンガリー。」

「なんだ?」

「もう、ここには、来なくて良いのよ。」

「………。」

私のその言葉を聞いたハンガリーは、悲しそうな、それでいて少し怒ったような顔をして暫く私を見つめた。貴方にそんな表情をさせる私が、どうしようもなく憎かった。
ハンガリーは私の体を優しく起き上げると、未だ腰を持ったまま、静かに言葉を紡いだ。

「まだ、そんなこと考えてるのか?」

「ええ、そう。
だって、私、貴方を悲しませたくないの。」

「……俺は、お前と一緒にいられない方が、辛いよ。なまえ。」

ええ、わたしもよ。―――だからこそ、傷が浅い今、告げているの。

「……ごめんなさい、ハンガリー。
お別れしましょう、私たち。」

ハンガリーは私の両頬を包み込んで、ふっと悲しそうに笑った。

「ばーか、なんでフってるやつが泣いてんだよ。」

「泣いてないわよ。泣いてない」

ああ、声まで震えているなんて、情けない。
一番貴方と別れたくないのは、私じゃない。

「ねえ、ハンガリー。
私ね、貴方にこの髪を綺麗だと言ってくれた事、本当に嬉しかったのよ。」

この蒼くて卑しい、他とは違う髪色が嫌で仕方がなかったの。
でも今は、貴方が綺麗だと言ってくれたこの髪が、好きになれた。

「……嬉しいなら、笑ってくれよ。
俺はなまえの笑顔が何よりも好きなんだ。」

「…ふふ、ありがと、…っ、」

私は、果たしてちゃんと笑えているだろうか。

貴方には、貴方が好きになった私の事を忘れて欲しい。
人間であり、国ではない私と居た記憶なんて、忘れて欲しい。
だって、貴方と添い遂げる事が出来ないのだから。
だって、貴方と分かち合う事が出来ないのだから。

どう足掻いても、私は貴方を遺して去ってしまうのだから。

「……おいおい、だから、泣くなよ。
お願いだから、最後ぐらい笑ってくれよ。なまえ。」

「っ、ハン、ガリー…!」

貴方の口から聞く「最後」が、やけに、胸に響く。
悲しいだけの別れは、余りにも辛すぎる。

なら、新しい約束をしましょう。
別れの為の約束を。





「ねえ、ハンガリー。」

「うん?」

「いつか、私に見せてちょうだい。
私の髪と同じ色だと言う、大きな大きな海を。」


「―――わかった。約束だ。」









promised







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大変お待たせいたしました!さよさんに捧げます。
男ハンガリーという新境地でしたがお題を頂いた時かなり滾ってぱっと書いていた事を想い出します。まさか公開するまでにこんなに時間がかかるとは予想外でしたが……。
素敵なリクエスト、ありがとうございました!
2015/11/10
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