贈り物 | ナノ
   キリ番お礼【紫苑様】
【桜前線冬日和】




春の訪れを感じさせるような暖かい風が、しかし微量ながら体温をさらっていく。
この風を、桜前線、というのだろうか。
3月の上旬になっているのにもかかわらず、時折空からは白銀の綿が降りてくる。

その中でも今日は、珍しく日の光がW学園の空に降り注いでいた。
手に持った紙袋がカサ、と音を立てた。


「トーニョ、ギルの馬鹿、しらない?」

「ギルちゃん?
んー、今日はおてんとさん元気やから、上いったんちゃうん?」

ここでの上、とは、サボり場の屋上である。
昔はたくさんの生徒でにぎわっていたのだが、問題児と名高い悪友3人が溜まり場として使うようになり、それからと言うもの一般生徒は近づかなくなってしまった。

特に、脅しをしたわけではない。
ギルベルトの銀髪に赤眼がいかにも不良に見えたり、
アントーニョのアルバイトの帰りが真夜中なので色々誤解されたり、
フランシスが変態だったり(これは一部の人しか知られていないが・・・・)で、遅刻常連、制服の着崩しは普通。
誤解とともに不良のレッテルを貼られてしまっただけだ。



だれに説明しているかわからないが、そんなことを考えているうちに屋上へ続くドアの前。



キィ・・・・・


少し重い扉を半分まで開く。
天気がいいといっても、まだ風は肌寒く、吐く息も少し白い。
人の気配は、しない。

「ギルベルトいるー?」

返事をする者はいない。
風が耳をかすってヒュウ、と聞こえた。
おそらくここには、誰もいない。

屋上へ出て、扉を閉める。寄りかかった背中を離し、一歩前へ。
誰もいない、よね?
軽く、ゆっくりと息を吸う。

「ギルの、アホーーー!!!」

「誰がアホだ馬鹿沙羅。」

「Σ(д-´;)ぐへぁっ」

頭上の警戒を怠っていた。
上から来るいきなりの後頭部の衝撃に驚く暇もなく床に倒れそうになる。
あいつ、ジャンプで降下しながらチョップしてきやがった!!

「いたぁー!痛いよアホのギルベルトーー!」

「ケセセ、自業自得だ。」

頭を抑えながら振り向いたそこには、
案の定悪戯成功、という顔をした私の探し人。

「へぇー、そんなことするんだ!
いいよいいもん、ギルちゃんはずっとその寒い格好のままでいればいいんだ!」

「へ、なんだよそれ?」

本当に意味がわからないと言う顔のギルベルト。
こんなときだけはここぞとばかりに天然を発揮させるのだから困ったもんだ。

私は右手に持っていた紙袋ごと、1週間寝る間も惜しんで作ったソレを押し付けるようにギルベルトの胸に追いやる。
私も私で、ここぞとばかりに素直に渡せないのだから、困ったもんだ。

「何だこれ・・・・マフラー?」

それは、赤と黒、白を基調としたタータンチェックのマフラー。
初めての挑戦でタータンチェックなんて、自分を褒めてやりたい。

「この前くしゃみしてたでしょ?
ギルがファッションなんて重視してそんな格好してるからだよ。」

「ってことはこれ、俺様のために?」

「は!?な、なにいってんの、私のためだよ!
その、ギルベルトの所為で私まで風引いたら嫌だから!!」

「・・・・・・・。」

自分の馬鹿!自分の馬鹿!ほんっとばか!
なんで素直に渡せないの!!

いますぐここから逃げたい衝動に駆られ、ギルを横切ってドアへと向かう。

「じゃ、じゃぁ、それだけだから!せいぜい風には気をつけることだね。」

「・・・・あ、まて、」

グン。

いきなり腕を掴まれた。
予想外の展開に体制を崩し、後ろに倒れる。
やってきた衝撃はギルベルトの胸に当たっただけの軽いものだった。

「こ、こんどはなに?」

やはり視界が下を向いてしまう。
迷惑・・・・だったかな・・・・。

「えっと・・・・そのー、ぅーあー・・・・」

「?」

「顔・・・隈、ここ最近ずっと出来てた。
そんなにがんばって作ってくれたのか?」

「っ!!!」

急いで眼を瞑る。
最近朝は、鏡を見ずに出るから、失念していた。
これではギルベルトをびっくりさせる計画が丸つぶれだ。

「ッ、そ、そうだけど!
ごめんねそんなもので、今すぐ返し・・・」

「ヤだ。ダメだ、これは俺様が貰ったんだ。」

子供かこいつは!
とりあえず今は恥ずかしくて、早くソレを消し去りたかった。

「やっぱりさっきのなし!自分で使うから返して?」

「・・・・・・沙羅。」

再び取り返そうとすると、不意に名前を呼ばれ、手首を捕まれる。
その私の手の平をギルは自分の胸に押し当てる。
ギルの心拍は、私が驚くほど早かった。
思わず顔を見るとふい、とその紅い眼を下にそらされる。

「・・・・そ、その、何だ・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・う、うれしい・・・・です。ありがとう・・・・・。」

「へ?」

「沙羅が、俺様のために隈まで作ってマフラー作ってくれたのが・・・・
デザインも悪くねぇし。」

その言葉を、ギルなりの照れ隠しと受け取った私は、思わず口に弧を描く。
こういう、てれながらも自分の気持ちを伝えてくれるギルがとても可愛く見えて。

「もう、素直じゃないなぁ。」

「お前に言われたくねぇよ」


ビュウ


ひときわ冷たい風がギルベルトとの間をすり抜ける。
耳や頬の体温が一気に降下し、思わず身震いした。

「さ、さむっ」

「ぶえっくしょん!」

「汚!!ギルきったな!!」

「おま、仮にも彼氏に・・・・・・・あ、そうだ」

何かを思いついたようでギルはマフラーを取り出して私の背中に回り、思いっきりくっつく。
私とギルの首にマフラーを巻き、コンクリートの壁を背にして座り込んだ。
ギルベルトの手は私のお腹に回っていて。

「ちょ、なにすんのよあんた!
マフラーは一人分だよ?」

「あー、抱き心地最高だぜー
マフラーあったかいぜー。」

「人の話しきけーっ!アホのギルベルト!」


「ああん?まだいってんのかそれ。
俺はアホじゃないって・・・いってんだ、ろ!」


「!!? ちょ、やめ、っ、あは、あはははは!!!」

「へー、お前くすぐり弱いんだなー!ケセセセセ」

「ギル、ごめ、わかっ、あははははははは、!!」





まだ寒い冬の空に、暖かい春の風が吹いた。
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