10万打記念【冬火様】
【'O sole mio!】2015/08/01
船乗りは神話の様な町並みを悠然と進み、美しい声を町中に響かせるように、'O sole mioと歌いながら過ぎ去って行く。
その日、私は緊張した面持ちで水の都を歩いていた。
煉瓦作りの古い町並みと、海の色を映したかのような透き通った青空。ラテンを思わせる人々のにぎわいに、どことなくオシャレな住人。
ヴェネチアに吹く暖かい風に煽られながら、駆り立てられるような気持ちを押さえつけた。
「おーい!舞琉〜!」
「!」
待ち合わせ場所に着いて少しすると、遠くからイタリアの声が届く。珍しくも待ち合わせ時間ぴったりに到着したその人に右手を上げて応えると、その隣にもう一人人がいる事に気づいて、心が弾んだ。
「イタちゃん!久しぶりだね。
それに今日は時間通りだよ。偉い偉い。」
「へへっ!凄いでしょ〜!
俺、舞琉を待たせないように、頑張っちゃった。」
褒めて褒めて、と頭を差し出すイタリアに、肌触りの良い彼の髪を撫でる。甘え上手なイタリアに苦笑いを零すも、彼の、一切計算の無い奔放な態度が心地よい。
「そうだ、舞琉に紹介するね。
こいつはルーガ。俺の友達なんだ!」
「ちょ、イタリア…!」
ずい、とルーガの背中を押したイタリアに、私とその人の距離が近づく。彼は少し赤くした顔を私と会わせると、ぎこちなく笑った。私は弾んだ心を悟られないように、にこりと微笑む。
「えっと……俺はルーガ。イタリアの隣にある、ルーガ共和国だよ。
よろしく、舞琉。」
「私は舞琉。日本の隣にある島国の、舞琉王国です。
よろしくお願いしますね、ルーガ君。」
握手したルーガの右手は、僅かに冷たい。私と同様に緊張しているのが伝わり、作り笑いとは違う笑みがこぼれた。
黄金色の髪は太陽の日を浴びて惜しげもなく光り輝き、シルクの様に肌理の細かく白い肌は儚さを思わせる。未だ少年の様な幼い顔立ちに、深い不安の色をそのオーカーの瞳に滲ませていた。
本物だ。本物の、ルーガだ。
溢れ出す衝動を必死に抑えながら、彼の両手を握り込んで、歌うように口を開いた。
「お会い出来て光栄です、ルーガさん。
遠い極東の国より、貴方に会いに来ました。」
その容姿。その仕草。その引きつける瞳。十数世紀も昔の、未だ私が日本人であった頃、本の中で出会ったその人が目の前にいる。これがどうして、歓喜しないでいられようか。
ルーガは赤面しつつも、何かを言おうとどもって、それから、へらりと微笑む。
「ありがとう、舞琉。
俺も、あなたに会いたかったんです。」
太陽のように笑う彼の笑顔に、思わず目を細める。
ああ、想像通りだ。彼は、嵐の後に見る太陽のよう。優しく包み込むようなルーガの雰囲気に、胸が詰まった。
私は握ったままの彼の手を引き、空いた手でイタリアの手を取った。
「――さあ、行きましょう、二人とも。
私とルーガ君が出会えたこの素晴らしい一日を、最高の日にする為に!」
ビックリする二つの顔は、まるで双子の様だ。
地中海の風を背に、私の太陽は微笑んで、それからどちらともなく、頷いた。
'O sole mio!
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【'O sole mio!】2015/08/01
船乗りは神話の様な町並みを悠然と進み、美しい声を町中に響かせるように、'O sole mioと歌いながら過ぎ去って行く。
その日、私は緊張した面持ちで水の都を歩いていた。
煉瓦作りの古い町並みと、海の色を映したかのような透き通った青空。ラテンを思わせる人々のにぎわいに、どことなくオシャレな住人。
ヴェネチアに吹く暖かい風に煽られながら、駆り立てられるような気持ちを押さえつけた。
「おーい!舞琉〜!」
「!」
待ち合わせ場所に着いて少しすると、遠くからイタリアの声が届く。珍しくも待ち合わせ時間ぴったりに到着したその人に右手を上げて応えると、その隣にもう一人人がいる事に気づいて、心が弾んだ。
「イタちゃん!久しぶりだね。
それに今日は時間通りだよ。偉い偉い。」
「へへっ!凄いでしょ〜!
俺、舞琉を待たせないように、頑張っちゃった。」
褒めて褒めて、と頭を差し出すイタリアに、肌触りの良い彼の髪を撫でる。甘え上手なイタリアに苦笑いを零すも、彼の、一切計算の無い奔放な態度が心地よい。
「そうだ、舞琉に紹介するね。
こいつはルーガ。俺の友達なんだ!」
「ちょ、イタリア…!」
ずい、とルーガの背中を押したイタリアに、私とその人の距離が近づく。彼は少し赤くした顔を私と会わせると、ぎこちなく笑った。私は弾んだ心を悟られないように、にこりと微笑む。
「えっと……俺はルーガ。イタリアの隣にある、ルーガ共和国だよ。
よろしく、舞琉。」
「私は舞琉。日本の隣にある島国の、舞琉王国です。
よろしくお願いしますね、ルーガ君。」
握手したルーガの右手は、僅かに冷たい。私と同様に緊張しているのが伝わり、作り笑いとは違う笑みがこぼれた。
黄金色の髪は太陽の日を浴びて惜しげもなく光り輝き、シルクの様に肌理の細かく白い肌は儚さを思わせる。未だ少年の様な幼い顔立ちに、深い不安の色をそのオーカーの瞳に滲ませていた。
本物だ。本物の、ルーガだ。
溢れ出す衝動を必死に抑えながら、彼の両手を握り込んで、歌うように口を開いた。
「お会い出来て光栄です、ルーガさん。
遠い極東の国より、貴方に会いに来ました。」
その容姿。その仕草。その引きつける瞳。十数世紀も昔の、未だ私が日本人であった頃、本の中で出会ったその人が目の前にいる。これがどうして、歓喜しないでいられようか。
ルーガは赤面しつつも、何かを言おうとどもって、それから、へらりと微笑む。
「ありがとう、舞琉。
俺も、あなたに会いたかったんです。」
太陽のように笑う彼の笑顔に、思わず目を細める。
ああ、想像通りだ。彼は、嵐の後に見る太陽のよう。優しく包み込むようなルーガの雰囲気に、胸が詰まった。
私は握ったままの彼の手を引き、空いた手でイタリアの手を取った。
「――さあ、行きましょう、二人とも。
私とルーガ君が出会えたこの素晴らしい一日を、最高の日にする為に!」
ビックリする二つの顔は、まるで双子の様だ。
地中海の風を背に、私の太陽は微笑んで、それからどちらともなく、頷いた。
'O sole mio!
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