贈り物 | ナノ
   10万打記念【実咲様】



「……ねえ赤司」

そう私がそいつに呼びかけるのは、もう既に初めての事ではなかった。

「ああ。どうかしたのか、なまえ。」

いけしゃあしゃあとそう返す赤司の声音ももう聞き飽きていた程である。



「ん?
顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」

「っ……、」

そう耳元でささやく赤司の声に一々反応してしまう自分に嫌気がさした。
反論しようとしても、その術の無い私はまたこうして今の状況でとどまってしまうのだ。

「あーーーもうっ!!
いい加減にしてよね!!?
なんであんたはいつまでたってもくっついて……ひゃっ!?」

「うるさい、耳元で騒ぐな。」

お腹に回されていた赤司の両腕が更にしまり、首筋に息を吹きかけられる。
私は赤司の股の間に座って、赤司は私の両腕ごと後ろから私を抱きしめる。

今は、お昼休みのバスケ部の部室でのことである。

どうしても赤司に勝てる競技を探し、あっち向いてほいで勝負を仕掛けた者の、いとも容易く負け込んでしまった結果この状態である。
何の体罰だと問われれば、それはまあ自業自得でもある。敗者は勝者の言うことを一つきく、という条件なのだから。


「い、いつになったらあんたは離れるのよ!!
もうすぐチャイムなっちゃうわよ!!?」

「離して欲しいのか?
ならもう一回勝負してやっても良いが。」

「いいの!?」

「わがままななまえの為だからね。仕方ないな。」

「だれがっ……!!
―――まあ、いいわ。じゃあもう一回やりましょう!今度はしりとりで!!!」

「しりとりで良いのか?すぐ終わるぞ?」

「なめないで、そんなに簡単に負けないわよ!
しりと【り】!」

「略図」

「ずんだもち」

「鳥瞰図」

「図工」

「海坊主」

「ず……ず…頭蓋骨」

「土踏まず」

「ずーー……ズーム?」

「無傷」

「ず、ず……卑怯よ!!
ずー……ず、ズッキーニ!」

「ニューオリンズ」

「ず………………あーーもう!!」

「もう終わりか?」

「うるっさいわね!!
だいたいあんたが卑怯なのよ!!【ず】ばっかり…!」

「また、俺の勝ちだね。
いい加減あきらめたらどうだ?さっきのあっち向いてほいだって秒殺だったじゃないか。」

「うるさいうるさいうるさい!!
良いから離しなさいよ!ほんとに授業に間に合わないじゃない!!」

「何か勘違いしている様だが、なまえはまた俺に負けたから俺の言うことをまた一つ聞かなくてはならない。
お前に拒否権は無いぞ。」

耳元で囁かれ、思わず腰が反応してしまう。
それが悔しくて赤司を睨みつけるが、さしたる効果は無かった様だ。
余裕のある笑みで笑う赤司は当分離してくれなさそうだ。


「〜〜っ、ばか。」


「――……、なまえ。」

「な、……何よ」

「今の、もう一回。」

「は?意味分かんない。」

「これが俺とのしりとりの代価で良いから、もう一回。」

「……?
ばーか。」

憎しみを込めてそう吐きだせば、赤司は不服そうな顔で小さく違う、と囁いた。

「違う!そんなんじゃない。
どうすればもう一度さっきの『ばか』が聞ける?」

「!?
ちょ、ちょっと!や……ひぁっ、
やめろ馬鹿!!!」

「さっきのがもう一度聞きたい……それまで離す気はないから。」

「やだ!!これ以上このままはっ……!
恥ずかしくて死んじゃう!!」

「俺が殺すなら本望じゃないか?」

「やだ!赤司、お願いだから……!」









(彼氏が)(離してくれないんです)





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