贈り物 | ナノ
  50000hitsお礼【双様】
【猫は四匹カッコウ一羽】


今日は一週間で特別な日。何故ならあの子が来るから。

『おやぶーん、今週も来ましたよー!』
「あわわわ沙羅ちゃんっ?入ったって!」

庭師の沙羅ちゃん。親分の大事な子かっこ片想い。
沙羅ちゃんは今日もキラキラで素敵や。親分の愛する庭のカミラ達みたいに。

ここ最近は家計が火の車なもんで内職に精を出していたものだから、半年もすればまあ庭が荒野と化すわけや、トマト畑以外は。
雑草は生えに生えまくるわロマーノは虫を見て逃げ出すわで完全にお手上げ状態やった。
途方に暮れていたところに街で見つけた広告、沙羅ちゃんが経営する事務所のものをみて、親分は確信した。
これや!!ってな。
直ぐに掲載してある地図を頼りに向かった。
藁にもすがる思いで辿り着いたその場所は、少し年期の入った建物の一角に位置していた。
正直最初は読み違えたかと落胆して帰ろうかと迷ったが、話だけでも聞いていこうと思い直した。
扉をあけて通された応接室で暫く待機していると一人の女の子がやってきた。
それが沙羅ちゃんや。
一瞬の間に親分は恋に落ちて沙羅ちゃんに依頼した。腕前は二の次だった。その話をすると子分に怒られる。
俺は考えなしなんやない、自分に正直なだけや。

まあ結果として沙羅ちゃんは業界一若い凄腕女庭師としてある程度名の知れた大物だったけれど、それは後から聞いた話。
沙羅ちゃんが来てからというもの庭は見違えるようで、畑のトマト達も心なしか嬉しそうだった。

(ホンマ、沙羅ちゃんには感謝してもしたりひんなあ)


『今日の所はここまでですかね。』

一段落つく頃合いをみて、応接間で沙羅ちゃんに珈琲をご馳走する。勿論カップには気を使って。
両手を添えて珈琲を口にする沙羅ちゃんも、楽園やんなあ。
咳払いを一つして、沙羅ちゃんの座るソファの向かいに座った。
というのも、今日は勝負の日。
燻ってきたこの想いを、ついに、沙羅ちゃんに告げるのだ。この日の為に、鏡の前で何度も練習してきた台詞。
自然といずまいを正される。そんな俺をどこか不思議に思ったのか、沙羅ちゃんは首を傾げた。
今しかない。俺は大きく息を吸い込んだ。


「親分とっ毎日トマト育てたって下さい!!」


決まった…!ロヴィーノ、親分、ついに言うたで。
沙羅ちゃんは突然の俺の告白に固まっている。
そらそやろなあ。親分かて言われたら困るもん。
けど、頼む。断らんといてや!

『…分かりました。』

何時間ともいえる数秒を思案し、やがてゆっくり首を縦に振る沙羅ちゃん。その表情は嬉々としている。
え、嘘や。
親分の自分の願望による夢じゃないかと目を丸くし瞬きしてみる。
頬もギュッと引っ張った。
相変わらず沙羅ちゃんはいるし痛い。
嘘じゃ、ないんや。届いたんやこの思いが!

「沙羅ちゃんありがとうなあ!…これから宜しく頼むわ。」

恐る恐る抱きしめてみると仄かに花の香りがする。
思っていたよりもずっと華奢で少し力を入れただけでも壊れてしまいそうだった。
胸元辺りから痛いです、と言葉が聞こえたけれど暫く離せなかった。名残惜しかったけれど、漸くして沙羅ちゃんから離れる。
満面の笑みを浮かべる沙羅ちゃんは天使、やった。
ああ、ここが楽園か。

『水臭いなあ、それならそうと早く言って下さいよ。予定組まなきゃいけないんですから。』
「堪忍な……ん?」

頬を膨らませ小言言う沙羅ちゃんも中々可愛…じゃなくて何か、ちゃう。

『庭の手入れの他に、菜園の業務ですね!』

あかん、勘違いされとる!!
沙羅ちゃんそうじゃないんよ!

「いや、ちゃうくてっ!」
『追加業務ですからその分お給料出して下さいよー?』
「せやからっ」
『まあ親分の為なら何だって頑張れますけどっ!』
「お、おお!おおきに…!」

ふおおおお。
……今なら死んでもかめへんわ。沙羅ちゃんそれどう言う意味でなん!?
っ、ほだされたらあかん。あかんで。

『じゃ、今日はこの辺で。』
「あ…。」

沙羅ちゃんは席を立つと剪定道具を掴んでそそくさと出ていってしまった。
呆然と立ち尽くす、俺。

あーー言えんかったーーー!
親分の阿呆っヘタレっ。沙羅ちゃんはほんとに小悪魔やで…。夕闇に紛れて閑古鳥が一羽、鳴いた。
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