お誕生日プレゼント【冬火様】
【Base cinque colori!】
――ここの色はもっと明るい。
――ここはもっと混ざり合ってる。
真っ白な四角の中に俺と4人を表現しようとしたら、それはとても難しいという事に気付いた。
周りに絵の具をばら撒いてパレットに色を散らせる。
それを掬い、塗ったり、引っ掻いたり、垂らしたりして。
四角い枠の中にひたすら入れてみた。
やっぱり違う。
少し違う。
全然違う。
そんな風に思っては、また何か付け足す。
薄い?濃い?明るい?暗い?
相反する言葉が、仕切りに頭の中の天秤に掛けられる。
ねえ、俺達って、どんな色をしてる?
「――リア、イタリア!」
キャンバスに僅かに残っている白を見つめていると、自分を呼ぶ声がした。
逞しく張りがあって、この声を聴くと自然と背筋がピンと伸びる。
振り向いた先で俺を睨み付けてるのか見つめてるのか分からない目でこっちを見る、割烹着をつけたドイツ。激しく似合わない。
「あ、ドイツー。ごめんね、やり始めたら何か夢中になっちゃって」
「全くお前は、……良いから鏡を見てみろ」
言われたままリビングの壁に掛けられた鏡を覗き込む。
「わぁ、カラフルだ」
俺の顔と服には、勢い余った沢山の元気な色が跳ね返っていた。
「カーニバルのお化粧みたい!」
「呑気な事言ってないで、早くシャワーで落としてこい!」
「ヴェー……はぁい」
バスルーム、というよりまさに日本のお風呂!って言葉が似合う風呂場に行く前に、絵の具の中に埋もれた自分の絵を見た。
無心になって描き続け、少し間を空けて見たそれは、
「……あれ?」
さっきまでとは、何となく違っていた。
自分達の色を模索して描いたと言うよりは、単に何でもない色が散々はしゃぎ回った跡のようだった。
更に、眺めている内に段々とその全てが褪せているようにも見えてきてしまう。
真新しい絵の具で、たった今、生み出されたものの筈なのに。
どうしてなのかは判らなくて、何だか、とても悲しくなった。
俺達はどんな色をしてる?
どんな風に混ざって、どんな風に呼び合って、どうやって一緒にいるんだろう。
俺達に色なんて無いのかな。
違う、だって、あんなに。
ぽた、ぽた、と髪を惜しむように離れる雫が床に落ちる。
それがあの真っ白な空間に色を落とす時の音に聞こえた。
もう一回探してみようと思ったけど、やっぱり止める。
また顔や服を汚してドイツを怒らせたくないし、それに。
今日は5人で、美味しいご飯を食べて、笑って、楽しく過ごす。そう決めたんだ。
「習作のようだな。題はあるのか……?」
「私や菊の所にも似たような色彩のがあります。西洋画が流行する前の、濃絵や錦絵と呼ばれる物で……」
「ほう、舞琉と日本の所にも有るのか」
「ええ。と言っても手法や構図はまるで違うのですが、丁度こんな油絵のような濃い色調なんです」
「そうなんだ、見てみたいなぁ」
「それほど見目麗しい物ではないのですが……ルーガ君のお望みとあらば」
風呂から出ると、ドイツ、舞琉、日本、ルーガが全員揃って俺の絵を囲んで話をしていた。
話題はさっきの会話の通り、置きっぱなしだった絵。
俺が風呂から出たことに皆が気付く前に自分から話しかける。
「……なんかね、それ上手くいかなかったんだー」
俺は首を傾げて困った素振りをし、諦めを含んだ笑みを見せた。
「そうなのか?なかなかだと思うが……その、何だ。芸術的、というか」
目を明後日の方向へ逸らして誰とも視線を合わせないようにしながら、ドイツは少し頬を赤らめて褒める。
これはドイツの癖だ。
舞琉曰く、『GYAPPU』があって『KAWAII』らしい。
「イタリアさんはきっとそういった感性をお持ちなんでしょうね。美的感覚、というのでしょうか。素晴らしいと思います」
「昔っからイタリアは絵を描くのが上手いからね。誇らしいし、ちょっと羨ましいな」
「あはは、そういうルーガ君の芸術文化も凄いじゃないですか。イタちゃんもルーガ君も菊兄様もドイツさんも、それぞれ良い所がありますよ」
「おや。その中に貴女の名前が入っていませんね?」
優しくクスクスと笑いながら暖かな雰囲気で話す4人。
この、とってもとっても素敵なオーラを色として表せないのが、とても悔しい。
「……そんな事ないよー。描けない時はほんとに描けないし、それに」
――ここにみんなと俺を色で表そうとしても出来なかったんだ。
と言おうとして、口を噤んだ。
絵の題材が自分達だったなんて知ったら、きっと皆は怪訝そうな顔をする。
そして多分、「こんなんじゃない」、と思うだろう。
それは誰よりも自分が判っている。
最初から違っていたのかも知れないけど、でも、この絵は変わっちゃったんだ。
今はもうただ、グチャグチャで出鱈目な色が散在しているだけ。
「それに?」
最後の言葉を復唱するルーガに明るい顔で取り繕う。
バレちゃうだろうけど、昔からの付き合いだから深くは突っ込まないでくれるだろう。
「ううん。何でも無いよ」
「……そっかぁ。あ、そういえばイタリア、ご飯出来たんだよ」
「む。ああそうだ、飯が出来上がった。準備を頼む」
「はい。有難う御座います」
「ドイツさんのご飯お久しぶりですねー、私楽しみです」
「了解でありますっ隊長!」
「……その呼び方は休日ではしなくて良い」
「えへへー」
休日に会う日は交代で食事を作るのが俺達の間で決まり事になっていた。
今日はドイツの番だ。きっと今日もジャガイモがでるし、グッチャグチャだろうし、日本のだけは塩分控えめの特別製だ。
キッチンへ向かったドイツを追おうと歩き出した時、舞琉の穏やかな声が背中越しに聞こえてきた。
「でも、こんな小さな枠の中にこんなに一杯の色があって。何だか少し窮屈そうに見えますね」
窮屈。
その言葉が耳に入ると、奥のほうで反響して、余韻が残った。
そっか。狭いんだ、この中は。
キャンバスの中は、狭い。
どれくらい?
きっと、息も詰まるほど。
5人なんて入れないよね。
そんな狭いところに、俺達を閉じ込める必要はある?
「…………そ、っか。そう、だ。分かった……分かったよ!」
沈黙を経てみるみる顔を輝かせ始めた俺に、その場に残っていた3人はそれぞれ戸惑いの表情を浮かべる。
「え、イタちゃん、何がですか?」
「――そうだよ!別に、閉じ込めなくて良いんだ!描かなくたって良いんだ!
だってそんなの無理、ぜったい無理、こんな狭いキャンバスに描ききれっこない……!わー、そっか!ありがとう、舞琉!」
嬉しさが込み上げじっとしていられず、俺は舞琉の手を取ってその場を回る。
俺のはしゃぎ様に、3人の頭上に浮かぶ疑問符は益々増えていった。
「えっと、あ、あの、私、何か言ったっけ?」
「うん!でもね良いんだ、いま俺、すっごく嬉しくて!だからね、ほんとにありがと!」
「は、はあ……とにかく、何かお役に立てたようで良かったです」
困ったように笑みを浮かべる舞琉。
でもそんなの気にならないくらい喜んでいる俺は、回るのを止めて3人まとめてハグをした。
「わっ」
「――!」
「おっと」
「ヴェー、ハグハグー!」
舞琉は少し驚いて。日本は身体を硬直させて。ルーガは慣れてるから崩れた態勢を立て直すことに集中して。
ここにはいないドイツ含めた4人だったらハグ出来ずに余っちゃう人が出ちゃうけど、3人は俺より小さいから何とかいける!大丈夫!
……あ、でも伸ばしすぎて攣りそう……
「おい何の騒ぎだ、ドタバタと」
ドイツが俺の賑やかな声と足音に気付いて戻ってきた。
わー眉間の皺が数本増えてらー、と思いつつハグは止めない。
「あ、いやそれが……」
「それにね!こうして一緒に居るだけで良いんだ!こうしてれば、何色だって、新しい絵の具のままなんだよ!」
熱を持った感情が次々と言葉になって溢れ出て止まらない。止めない。止める気がそもそも存在しない。
一旦ハグを止めて離れた舞琉と日本は、傍らで互いの顔を何度も見合わせていた。
ドイツから「説明しろ」と威圧的に問われたルーガは、「少し多めに見てあげてくれないかな」と言っている。
ひとしきり騒いだ後、我に返れ、とでも言うように盛大にお腹が鳴った。
「……あ、そうだ、ドイツのご飯もう出来たんだったね……!ごめん、すぐに準備するよ!」
急にわたわたと慌て出した俺の前で、4人は再び顔を見合わせ、そして、今度は皆が少しだけ笑い合った。
俺はそれを見て、もう一度嬉しくなった。
「あの、ドイツさんの料理とても美味しいんですが……良ければ少しばかり、お塩を頂けないでしょうか……」
「日本……お前は高血圧なんだから、健康の為に塩分は控えるべきだ」
「う、あの……はい」
「菊の為なんですからこっそり塩を足したりしないでくださいね。没収ですよ」
「えっ」
「ルーガ君と一緒に考えたので、私の思考や癖から隠し場所を見つけ出そうなんて、思わないでくださいね?菊にい」
「ご、ごめんね、日本。代わりに食後のDezertはちょっと多くして良いから」
「ヴェー。でも、ドイツの料理って、やっぱり塩足したくなるよね!」
「な……おい、それはどういう」
「でもこの素朴な味がドイツだよー!」
「……褒めてるのかそうでないのか分からないんだが」
「えー褒めてるよー。Buono!」
そう。だから俺達の色は、こんな他愛もない会話をしている時でもちゃんと存在している。
でもそれをもう、わざわざ切り取られた空白なんかに入れようとは思わない。
表せる色の数、描ける場所の大きさには限界があるし、それに――
『絵』、っていうのは、完成してしまったら何度も描き直せない。
だからその都度変わっていく色は、そのままで良いんだ。そのままが綺麗なんだ。
交じりあって、弾けて、流れて。
きっとすごく綺麗なんだろうね。
Base cinque colori!
-君達と、君達と一緒にいる俺って素晴らしい-
黄はドイツで、赤は日本、舞琉は黒で、青はルーガ、最後は緑の俺。
いつも通りで、だけど素敵なこの色は。
――きっと神様のキャンバスで踊ってる。
【Base cinque colori!】
――ここの色はもっと明るい。
――ここはもっと混ざり合ってる。
真っ白な四角の中に俺と4人を表現しようとしたら、それはとても難しいという事に気付いた。
周りに絵の具をばら撒いてパレットに色を散らせる。
それを掬い、塗ったり、引っ掻いたり、垂らしたりして。
四角い枠の中にひたすら入れてみた。
やっぱり違う。
少し違う。
全然違う。
そんな風に思っては、また何か付け足す。
薄い?濃い?明るい?暗い?
相反する言葉が、仕切りに頭の中の天秤に掛けられる。
ねえ、俺達って、どんな色をしてる?
「――リア、イタリア!」
キャンバスに僅かに残っている白を見つめていると、自分を呼ぶ声がした。
逞しく張りがあって、この声を聴くと自然と背筋がピンと伸びる。
振り向いた先で俺を睨み付けてるのか見つめてるのか分からない目でこっちを見る、割烹着をつけたドイツ。激しく似合わない。
「あ、ドイツー。ごめんね、やり始めたら何か夢中になっちゃって」
「全くお前は、……良いから鏡を見てみろ」
言われたままリビングの壁に掛けられた鏡を覗き込む。
「わぁ、カラフルだ」
俺の顔と服には、勢い余った沢山の元気な色が跳ね返っていた。
「カーニバルのお化粧みたい!」
「呑気な事言ってないで、早くシャワーで落としてこい!」
「ヴェー……はぁい」
バスルーム、というよりまさに日本のお風呂!って言葉が似合う風呂場に行く前に、絵の具の中に埋もれた自分の絵を見た。
無心になって描き続け、少し間を空けて見たそれは、
「……あれ?」
さっきまでとは、何となく違っていた。
自分達の色を模索して描いたと言うよりは、単に何でもない色が散々はしゃぎ回った跡のようだった。
更に、眺めている内に段々とその全てが褪せているようにも見えてきてしまう。
真新しい絵の具で、たった今、生み出されたものの筈なのに。
どうしてなのかは判らなくて、何だか、とても悲しくなった。
俺達はどんな色をしてる?
どんな風に混ざって、どんな風に呼び合って、どうやって一緒にいるんだろう。
俺達に色なんて無いのかな。
違う、だって、あんなに。
ぽた、ぽた、と髪を惜しむように離れる雫が床に落ちる。
それがあの真っ白な空間に色を落とす時の音に聞こえた。
もう一回探してみようと思ったけど、やっぱり止める。
また顔や服を汚してドイツを怒らせたくないし、それに。
今日は5人で、美味しいご飯を食べて、笑って、楽しく過ごす。そう決めたんだ。
「習作のようだな。題はあるのか……?」
「私や菊の所にも似たような色彩のがあります。西洋画が流行する前の、濃絵や錦絵と呼ばれる物で……」
「ほう、舞琉と日本の所にも有るのか」
「ええ。と言っても手法や構図はまるで違うのですが、丁度こんな油絵のような濃い色調なんです」
「そうなんだ、見てみたいなぁ」
「それほど見目麗しい物ではないのですが……ルーガ君のお望みとあらば」
風呂から出ると、ドイツ、舞琉、日本、ルーガが全員揃って俺の絵を囲んで話をしていた。
話題はさっきの会話の通り、置きっぱなしだった絵。
俺が風呂から出たことに皆が気付く前に自分から話しかける。
「……なんかね、それ上手くいかなかったんだー」
俺は首を傾げて困った素振りをし、諦めを含んだ笑みを見せた。
「そうなのか?なかなかだと思うが……その、何だ。芸術的、というか」
目を明後日の方向へ逸らして誰とも視線を合わせないようにしながら、ドイツは少し頬を赤らめて褒める。
これはドイツの癖だ。
舞琉曰く、『GYAPPU』があって『KAWAII』らしい。
「イタリアさんはきっとそういった感性をお持ちなんでしょうね。美的感覚、というのでしょうか。素晴らしいと思います」
「昔っからイタリアは絵を描くのが上手いからね。誇らしいし、ちょっと羨ましいな」
「あはは、そういうルーガ君の芸術文化も凄いじゃないですか。イタちゃんもルーガ君も菊兄様もドイツさんも、それぞれ良い所がありますよ」
「おや。その中に貴女の名前が入っていませんね?」
優しくクスクスと笑いながら暖かな雰囲気で話す4人。
この、とってもとっても素敵なオーラを色として表せないのが、とても悔しい。
「……そんな事ないよー。描けない時はほんとに描けないし、それに」
――ここにみんなと俺を色で表そうとしても出来なかったんだ。
と言おうとして、口を噤んだ。
絵の題材が自分達だったなんて知ったら、きっと皆は怪訝そうな顔をする。
そして多分、「こんなんじゃない」、と思うだろう。
それは誰よりも自分が判っている。
最初から違っていたのかも知れないけど、でも、この絵は変わっちゃったんだ。
今はもうただ、グチャグチャで出鱈目な色が散在しているだけ。
「それに?」
最後の言葉を復唱するルーガに明るい顔で取り繕う。
バレちゃうだろうけど、昔からの付き合いだから深くは突っ込まないでくれるだろう。
「ううん。何でも無いよ」
「……そっかぁ。あ、そういえばイタリア、ご飯出来たんだよ」
「む。ああそうだ、飯が出来上がった。準備を頼む」
「はい。有難う御座います」
「ドイツさんのご飯お久しぶりですねー、私楽しみです」
「了解でありますっ隊長!」
「……その呼び方は休日ではしなくて良い」
「えへへー」
休日に会う日は交代で食事を作るのが俺達の間で決まり事になっていた。
今日はドイツの番だ。きっと今日もジャガイモがでるし、グッチャグチャだろうし、日本のだけは塩分控えめの特別製だ。
キッチンへ向かったドイツを追おうと歩き出した時、舞琉の穏やかな声が背中越しに聞こえてきた。
「でも、こんな小さな枠の中にこんなに一杯の色があって。何だか少し窮屈そうに見えますね」
窮屈。
その言葉が耳に入ると、奥のほうで反響して、余韻が残った。
そっか。狭いんだ、この中は。
キャンバスの中は、狭い。
どれくらい?
きっと、息も詰まるほど。
5人なんて入れないよね。
そんな狭いところに、俺達を閉じ込める必要はある?
「…………そ、っか。そう、だ。分かった……分かったよ!」
沈黙を経てみるみる顔を輝かせ始めた俺に、その場に残っていた3人はそれぞれ戸惑いの表情を浮かべる。
「え、イタちゃん、何がですか?」
「――そうだよ!別に、閉じ込めなくて良いんだ!描かなくたって良いんだ!
だってそんなの無理、ぜったい無理、こんな狭いキャンバスに描ききれっこない……!わー、そっか!ありがとう、舞琉!」
嬉しさが込み上げじっとしていられず、俺は舞琉の手を取ってその場を回る。
俺のはしゃぎ様に、3人の頭上に浮かぶ疑問符は益々増えていった。
「えっと、あ、あの、私、何か言ったっけ?」
「うん!でもね良いんだ、いま俺、すっごく嬉しくて!だからね、ほんとにありがと!」
「は、はあ……とにかく、何かお役に立てたようで良かったです」
困ったように笑みを浮かべる舞琉。
でもそんなの気にならないくらい喜んでいる俺は、回るのを止めて3人まとめてハグをした。
「わっ」
「――!」
「おっと」
「ヴェー、ハグハグー!」
舞琉は少し驚いて。日本は身体を硬直させて。ルーガは慣れてるから崩れた態勢を立て直すことに集中して。
ここにはいないドイツ含めた4人だったらハグ出来ずに余っちゃう人が出ちゃうけど、3人は俺より小さいから何とかいける!大丈夫!
……あ、でも伸ばしすぎて攣りそう……
「おい何の騒ぎだ、ドタバタと」
ドイツが俺の賑やかな声と足音に気付いて戻ってきた。
わー眉間の皺が数本増えてらー、と思いつつハグは止めない。
「あ、いやそれが……」
「それにね!こうして一緒に居るだけで良いんだ!こうしてれば、何色だって、新しい絵の具のままなんだよ!」
熱を持った感情が次々と言葉になって溢れ出て止まらない。止めない。止める気がそもそも存在しない。
一旦ハグを止めて離れた舞琉と日本は、傍らで互いの顔を何度も見合わせていた。
ドイツから「説明しろ」と威圧的に問われたルーガは、「少し多めに見てあげてくれないかな」と言っている。
ひとしきり騒いだ後、我に返れ、とでも言うように盛大にお腹が鳴った。
「……あ、そうだ、ドイツのご飯もう出来たんだったね……!ごめん、すぐに準備するよ!」
急にわたわたと慌て出した俺の前で、4人は再び顔を見合わせ、そして、今度は皆が少しだけ笑い合った。
俺はそれを見て、もう一度嬉しくなった。
「あの、ドイツさんの料理とても美味しいんですが……良ければ少しばかり、お塩を頂けないでしょうか……」
「日本……お前は高血圧なんだから、健康の為に塩分は控えるべきだ」
「う、あの……はい」
「菊の為なんですからこっそり塩を足したりしないでくださいね。没収ですよ」
「えっ」
「ルーガ君と一緒に考えたので、私の思考や癖から隠し場所を見つけ出そうなんて、思わないでくださいね?菊にい」
「ご、ごめんね、日本。代わりに食後のDezertはちょっと多くして良いから」
「ヴェー。でも、ドイツの料理って、やっぱり塩足したくなるよね!」
「な……おい、それはどういう」
「でもこの素朴な味がドイツだよー!」
「……褒めてるのかそうでないのか分からないんだが」
「えー褒めてるよー。Buono!」
そう。だから俺達の色は、こんな他愛もない会話をしている時でもちゃんと存在している。
でもそれをもう、わざわざ切り取られた空白なんかに入れようとは思わない。
表せる色の数、描ける場所の大きさには限界があるし、それに――
『絵』、っていうのは、完成してしまったら何度も描き直せない。
だからその都度変わっていく色は、そのままで良いんだ。そのままが綺麗なんだ。
交じりあって、弾けて、流れて。
きっとすごく綺麗なんだろうね。
Base cinque colori!
-君達と、君達と一緒にいる俺って素晴らしい-
黄はドイツで、赤は日本、舞琉は黒で、青はルーガ、最後は緑の俺。
いつも通りで、だけど素敵なこの色は。
――きっと神様のキャンバスで踊ってる。