5万打記念【双様】
私とギルちゃんの間には、始めから甘い関係とか、男友達の有無とか、そんなものは存在していなかったように思う。
ただ自然とギルちゃんの纏う空気が好きになって、一緒にだべって、一緒にバカして。気の置けない悪友……そんな距離が、どうしようもなく心地よかった。
だから、これ以上は、望みたくないし、壊したくない。
じゃんけんで大負けして入った美化委員は本当に面倒な仕事で、高三になって金曜日は授業が午前までしかないって言うのに居残って校内清掃を任されていた。
掃除自体は案外嫌いじゃなかったし、吹っ切れればやりがいらしきものも芽生え始める。しかし六月のじめじめとした雰囲気と、雨と、ぐっちゃぐちゃで土まみれの昇降口が私のやる気をとことんまで削いでいったのである。それに加えて放課後までの無意味な空き時間を潰したのだ。私のテンションは想像に難くないと思う。
校内美化の仕事からやっと解放され、ヤケになって隅々まで綺麗にした昇降口を出ると、外は小雨から土砂降りに変化していた。
しまった…私今日、傘忘れた。
時刻は既に六時を回っていて、そこまで辺りが暗いって訳じゃないけど、雨の所為で遅くまで残っている体育会系の部活に所属している生徒も姿を見ない。
止みそうに無い雨空を睨みながら、誰かの傘をパクっていこうかななんて考えて、結局昇降口で立っている以外の解決策が思い浮かばなかった。
「……うーん、ギルちゃんの家まで走るかぁ…。」
そんな事を考えながら、何のキーホルダーもついていない単組なスクールバックを頭に乗せて、走ろうとしたら。
「お、やっぱ居やがったか。」
ビニール傘を片手に携えたギルちゃんが、土砂降りの向こう側から歩いてくるのが視えた。
何でこんなところに居るのか言いたくて、それよりも来てくれた事が嬉しくて、言葉に詰まってしまう。
「ギルちゃん…?」
「おう、ギルベルト様が来てやったぜ?光栄に思え。」
「……何、で…?」
昇降口に非難してきたギルちゃんの格好は今朝見たまんまで、朝は晴れてたからわざわざ家に戻って学校に引き返したのが分かる。
今日は校内清掃だから一緒に帰れないと一言断った時は、うざったいにやけ顔で御愁傷様と言ってきたのに、何でここに居るのか。私は、この男がわざわざ私のために来てくれたと少しぐらい期待しても、良いのだろうか?
「何でってそりゃあ………。
まあ、あれだ。どうせ俺様んちにずぶ濡れになって来やがるだろうから、俺様の部屋を汚される前にわざわざ迎えに来てやったんだよ。」
「……。」
なんて、ふんぞり返りながら言うけど…なら、何で傘が一つなの、とか、やっぱり雨宿りさせてくれるんだね、とか、私の中のどうしようもない幸福が募るばかりだった。
少しだけ紅くなったギルちゃんの隣に、多分私も少しだけ紅い顔で、右隣に寄り添った。
「お迎えご苦労!
では行こうか、ギルベルト君!」
そういって大仰にギルちゃんの背中をたたくと、何でお前の方が偉そーなんだよ、と突っ込みながら、傘を差してくれるギルちゃんが居て。
その左肩が雨に濡れている事に少しだけ微笑んで、気づいても居ないように振る舞って、私は今日もこいつの隣を大股で歩くんだ。
そしてそんな関係がいつまでも続くと、心の何処かで信じていた。
I still.
(私はまだ)(後一歩が怖い)
--------------------
大変お待たせいたしました……双さんに捧げます。
リクエストが友達以上恋人未満との事でしたが、当初書いていた小説が無駄に長い上に、「あれ?これ恋人になるんじゃね?」という展開になってしまったので、短くて申し訳ないですがこちらを贈呈…!
リクエストには沿いませんが、「昨日は晴れだった。」の方も同じ主人公なのでご一緒にお読み頂けると嬉しいです^^*(没作品の方が長いとか言う話は内緒)
最後に、5万打おめでとうございます!これからも仲良くしてくれると嬉しいです〜!
2014/06/28 秋空
私とギルちゃんの間には、始めから甘い関係とか、男友達の有無とか、そんなものは存在していなかったように思う。
ただ自然とギルちゃんの纏う空気が好きになって、一緒にだべって、一緒にバカして。気の置けない悪友……そんな距離が、どうしようもなく心地よかった。
だから、これ以上は、望みたくないし、壊したくない。
じゃんけんで大負けして入った美化委員は本当に面倒な仕事で、高三になって金曜日は授業が午前までしかないって言うのに居残って校内清掃を任されていた。
掃除自体は案外嫌いじゃなかったし、吹っ切れればやりがいらしきものも芽生え始める。しかし六月のじめじめとした雰囲気と、雨と、ぐっちゃぐちゃで土まみれの昇降口が私のやる気をとことんまで削いでいったのである。それに加えて放課後までの無意味な空き時間を潰したのだ。私のテンションは想像に難くないと思う。
校内美化の仕事からやっと解放され、ヤケになって隅々まで綺麗にした昇降口を出ると、外は小雨から土砂降りに変化していた。
しまった…私今日、傘忘れた。
時刻は既に六時を回っていて、そこまで辺りが暗いって訳じゃないけど、雨の所為で遅くまで残っている体育会系の部活に所属している生徒も姿を見ない。
止みそうに無い雨空を睨みながら、誰かの傘をパクっていこうかななんて考えて、結局昇降口で立っている以外の解決策が思い浮かばなかった。
「……うーん、ギルちゃんの家まで走るかぁ…。」
そんな事を考えながら、何のキーホルダーもついていない単組なスクールバックを頭に乗せて、走ろうとしたら。
「お、やっぱ居やがったか。」
ビニール傘を片手に携えたギルちゃんが、土砂降りの向こう側から歩いてくるのが視えた。
何でこんなところに居るのか言いたくて、それよりも来てくれた事が嬉しくて、言葉に詰まってしまう。
「ギルちゃん…?」
「おう、ギルベルト様が来てやったぜ?光栄に思え。」
「……何、で…?」
昇降口に非難してきたギルちゃんの格好は今朝見たまんまで、朝は晴れてたからわざわざ家に戻って学校に引き返したのが分かる。
今日は校内清掃だから一緒に帰れないと一言断った時は、うざったいにやけ顔で御愁傷様と言ってきたのに、何でここに居るのか。私は、この男がわざわざ私のために来てくれたと少しぐらい期待しても、良いのだろうか?
「何でってそりゃあ………。
まあ、あれだ。どうせ俺様んちにずぶ濡れになって来やがるだろうから、俺様の部屋を汚される前にわざわざ迎えに来てやったんだよ。」
「……。」
なんて、ふんぞり返りながら言うけど…なら、何で傘が一つなの、とか、やっぱり雨宿りさせてくれるんだね、とか、私の中のどうしようもない幸福が募るばかりだった。
少しだけ紅くなったギルちゃんの隣に、多分私も少しだけ紅い顔で、右隣に寄り添った。
「お迎えご苦労!
では行こうか、ギルベルト君!」
そういって大仰にギルちゃんの背中をたたくと、何でお前の方が偉そーなんだよ、と突っ込みながら、傘を差してくれるギルちゃんが居て。
その左肩が雨に濡れている事に少しだけ微笑んで、気づいても居ないように振る舞って、私は今日もこいつの隣を大股で歩くんだ。
そしてそんな関係がいつまでも続くと、心の何処かで信じていた。
I still.
(私はまだ)(後一歩が怖い)
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大変お待たせいたしました……双さんに捧げます。
リクエストが友達以上恋人未満との事でしたが、当初書いていた小説が無駄に長い上に、「あれ?これ恋人になるんじゃね?」という展開になってしまったので、短くて申し訳ないですがこちらを贈呈…!
リクエストには沿いませんが、「昨日は晴れだった。」の方も同じ主人公なのでご一緒にお読み頂けると嬉しいです^^*(没作品の方が長いとか言う話は内緒)
最後に、5万打おめでとうございます!これからも仲良くしてくれると嬉しいです〜!
2014/06/28 秋空