贈り物 | ナノ
  キリ番お礼【紅火様】
【全ては遠き理想郷】




「なにか出そうな館ですね。ルーガ君、気をつけましょう」

「う、うん」

「え?日本ん家のホラー映画で出てきそうなキュートで愉快な奴らがいそうだって?大歓迎だよ!」

「ったく、さっさと終わらせるぞ」












アメリカ、舞琉、ルーガ、イギリスVSロシア、フランス、中国、日本でチームを組み、ゲームが行われていた。
とある東の館に行こうとアメリカが言いだし、イタリアの提案で世界会議の後ゲームをすることになったのだ。

内容は以下の通り。

@イタリアとドイツがミニチュア自由の女神像を隠す。
Aそれをどちらかのチームが早く見つけ、館の外へ持ち出せた方の勝ち。

−おまけルール−
時間制限は2時間。
そして基本的になんでもあり。
2時間経ってもゲームが終わらない場合、各自で館の玄関前に集合。



チームメンバーは各チームのリーダーが指名して決めた。
最後に残ったメンバーがイギリスと日本だった為、リーダーであるアメリカとロシアは日本を指名し、お互い我が強い性格のため相手に指名権を譲るという選択肢は存在しなかったため、最終的には地面に書き殴ったアミダで決定された(どちらにも嫌がられたイギリスは隅で体育座りをしていた)


…しかし、案の定というべきか予定調和というべきかはたまた予想通りというべきか、
館に入ってすぐにアメリカとイギリスが「1階と2階、どっちを先に探すか」で喧嘩をし始める。



「1階だよ!」

「いいや2階だ!」



結局多数決で1階から探すことになり、激怒したイギリスは、
「ふん、勝手にしろ!」
と捨て台詞を吐き、2階に一人で行ってしまった。

アメリカはイギリスに勝った!とガッツポーズをとり、嬉しそうにはしゃぎながら騒いでいる。



「ど、どうしよう舞琉……あのままでいいのかな?」

「…そうですね。よし、いっちょ人肌ぬぎますか」



子供のような喧嘩を横目でルーガと共に見ていた舞琉は、ため息を吐いてアメリカに説得を始めた。



「ところでアメリカさん?」

「なんだい?」

「そろそろイギリスさんを捜しに行きませんか?」



舞琉の発言で明らかに機嫌が悪くなるアメリカ。
アメリカは舞琉と目を合わせないように目線を明後日の方向へ投げた。

まるで拗ねた子供みたいだな、とルーガは思う。



「必要ないね。多数決でこっちが勝ったんだから」

「このままバラバラのままだとロシアさんチームに負けてしまいます。
 このゲームの勝利条件は『アイテムを「館の外」まで出すこと』ですから、後半は力づくの奪い合いになるでしょう。
 チームワークが大切です。こんな早々にバラバラになっては……」


「じゃあ俺とルーガがイギリスの分まで働けばいいよ!」

「えっ」

「アメリカさん……」



急に自分の名前を出されたルーガは思わず足を止める。
同じように舞琉も足を止め、二人がついてこないことに気付いたアメリカも歩くのを止めた。

暫しの沈黙。

アメリカはクルリと振り返り、嫌そうに頭をかきながら

「あー!わかったよ!」

と、叫んだ。



「そうですか。それでは私がイギリスさんを説得します。お二人はここで待っていてください」

「ちゃんと説明してくれよ!『君とルーガ』の二人がイギリスに戻ってほしいんだからな!?
 俺はアイツなんていなくてもよかったんだぞ!」

「う、うん」

「勝つためだからな!?」

「はい、その通りです。それでは行ってまいります。


……ルーガ君、アメリカさんのこと宜しくお願いしますね」

「分かった」



後半部分は内緒話をするように小さな声で言った舞琉は、微笑みながら今進んできた道を戻り始めた。
アメリカは不機嫌そうなままドスンとわざとらしく音を立てて床に座る。

その姿をルーガは苦笑いで見守り、同じように床に座った。






(欧州の奴らは喧嘩好きある…なんて、今度言ってみましょうかね)


舞琉は焦りの表情を隠して、あえて陽気な事を考えながら素早く階段を登る。
正直言ってこのゲームの勝敗なんてどうでも良い。

それよりも大事な使命が、私にはあるのだから。



「急がなければ…そうしないと“アイツ”が――」



もっとスピードを上げようと、利き足に力を入れたときだった。

普通に人が下りてくるような足音とともに、普通じゃない灰色の人間に近い形の生物が、ゆっくりと降りてくる姿が見える。
“アイツ”の手には、イギリスの軍服。

緑色の軍服は、まるでトマト祭りにでも出たかのように真っ赤に染まっている。



「貴様ッ!」



ああ、遅かった!

もっと速くアメリカさんの説得に成功していれば、と自身を恨みながら舞琉は抜刀する。
舞琉の行動は素早かったが、化け物の動きの方がそれより速かった。

まるで家族の仇を見るように、鋭い殺気を化け物に浴びせながら舞琉は刀を振るった。











――ドンッ!


「舞琉!?」

「な、何が起こって…」



舞琉がいる方向からの異様な音。
耳に入った瞬間、ルーガとアメリカは顔を見合わせ頷きあい、急いで立ち上がり走り出した。

ルーガは腹の底に力をいれ、大声で呼びかける。



「舞琉!舞琉大丈夫!?」

「返事をするんだぞ!」



返事は、ない。
嫌な予感がどんどん身体を支配していく。

走ったルーガとアメリカがみた先に、肩から血を流した舞琉がいた。
愛用の刀は遠くに飛ばされている。



パンッ!


アメリカは無意識の内に武器を取り出し、化け物に向かって撃った。
2発撃ったのだが、あまりの速さに銃声音は1発に聞こえる。

――化け物が怯んだ!
その隙にルーガは火事場の馬鹿力を発揮し舞琉を抱き上げ、途中でアメリカに舞琉を手渡しながら走る。

当然だが、逃げる三人を後ろから化け物が追ってくる。



「くそっ!急所は外してない筈なのに…!舞琉、意識はあるかい!?」

「あ…アメリカさん、ルーガくん…申し、訳、ありません」

「こんな時に謝らないでよ舞琉!」

「…い、イギ、リスさんが………」



アメリカの顔が歪む。
舞琉が最後まで言わなくても、理解できたからだ。

犯人はあの化け物。
そして恐らく舞琉も…イギリスの元へ行く可能性が高かった。


その間にも、舞琉の顔はどんどん青くなっていく。
舞琉自身もこのままでは危ないことも、二人は理解できた。

アメリカは急いで部屋の中に入り、そして二人で協力しながら部屋中の物を扉の前に置く。

ルーガは自分の着ている服を脱ぎ、それを引き裂く。
服は包帯の代わりとなり、負傷した体の付近を圧迫するような形で結んだ。
戦争を経験している国だけあって手馴れているのか、非常に素早い動きだった。



「舞琉はここで休んでてくれよ。ちょっと、一勝負してくるから」

「危険です」

「イギリスが殺されて、君は負傷。外はアイツがいて軟禁状態。舞琉、その怪我、早くしっかりとした医療施設に行かないと危険だぞ」

「なら私を置いて逃げてください。私のこの怪我は、私の責任です」

「君を守る約束が、俺にはあるんだよ。舞琉、ヒーローは絶対に負けない。必ず帰ってくるから待っててくれ。
 …ルーガ、舞琉を頼んだよ」

「…了解」

「ルーガ君ッ……!!」



アメリカは物をどけて外に飛び出した。
失血のせいで目の前がしっかりと見えない舞琉は、それでも立ち上がろうとしたが、残念なことに身体が言うことを聞かない。

…それ以上に、ルーガが舞琉の動きを止めていた。



「離してくださいルーガ君、私は、私は…!」

「落ち着いてよ舞琉!これ以上動くと本当に危ないんだ!分かるだろ!?」

「ですがっ…!」



ルーガが必死に舞琉を説得し、何とかその場に留まることに納得……はしていないものの、アメリカを追うことはしないとルーガと『約束』をした舞琉。



(アメリカさんが帰るまで、私は生きていられるのでしょうか……やはり、お二人だけでも逃げていれば)



アメリカが負ければ、化け物は部屋に入ってきて自分もルーガも殺されるだろう。
……ルーガ君は、絶対に死なせない。
密かに決意する舞琉は、決死の表情を浮かべているルーガに気がつかなかった。



ガチャガチャッ



……扉があいた。
ルーガと舞琉は身構えて扉へ視線を向ける。

そこにはアメリカの姿はなく、




化け物がいた。


舞琉はルーガを死なせまいと、力を振り絞って刀に手をかけた。
その時、激しい銃声が耳に入った。



「やあー……舞琉、ルーガ、無事、かい?」

「…あ、アメリカさん…!」

「アメリカ!」


ルーガと舞琉はアメリカの声に安堵したが、それも一瞬の事だった。

――アメリカは、舞琉よりさらに激しい怪我をして戻ってきたからだ。



「アメリカッ…!」



ルーガがアメリカに駆け寄る。
アメリカは身体全体に響き渡る激痛を押し殺し、それを二人に悟られぬよう笑顔で



「……ほら、ヒーローは、負けないだろ?」



そうつぶやいて、倒れた。











(ああ、もう……嫌になる)


舞琉はたった一人、館の廊下を歩いていた。
イタリアと合流するための場所に設定した聖地を目指して。

――ルーガは、死んだ。

あの後、直ぐに2匹目の化け物が現れたからだ。

『アメリカに舞琉のことを頼まれたんだ』
『絶対に、殺させるもんかッ!!』

あの姿を一言で言葉に表すなら、“執念”が一番似合うだろうか。

アメリカがあんなに大怪我を負う程の相手に、ルーガが勝てるはずはない。
……はずは、なかったのだが。


攻撃されても立ち上がり、舞琉を狙うのであれば盾になり、仲間を殺された怒りを炎に転換し、
舞琉が化け物にとどめを指したと同時に、ルーガは床に崩れ落ちた。



(戻さなきゃ)



希望は、前に進むんだ。
誰かがそう言った。

ならば、絶望はどうだ?

絶望は伝染する。希望よりも何倍も素早く、人から人へ移る。



(戻さなきゃ)



時間を戻せば、今回のことは無かったことになる。
そうだろう?

現在が未来になり、過去が現在になり、
今自分がいる『未来』は、イタリアの力によって戻った『現在』の選択で掻き消える。



(戻さなきゃ)



絶対に、全員で、脱出するんだ。







全ては遠き理想郷




――『遠き』ってことは、一応は存在するということでしょう?
――絶対に掴み取ってみせる。
――その、『理想郷』を……
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