贈り物 | ナノ
   相互記念【紅火様】
【夢、夢、夢】



三時間目の数学の授業が終わり、先生が去った後のクラスはザワザワと一気に騒がしくなる。
ガラッ!とクラスのドアを開ける激しい音が聞こえ、俺は心のなかでまたか…と思いながらも、後ろを振り返りドアを開けた人物を見据える。



『どうしたの?』

「ヴェー、オルフィス!国語辞典貸してー!」

『…また?』

「うう…ごめんね。でも次、バッシュ先生だから絶対に忘れ物があっちゃダメなんだよー!」

『………ホントなら、他人に借りるんじゃなくて自分が家から持ってきたものを使うべきなんだけどね。』

「えへへー。俺の部屋、ゴッチャゴチャになってるから国語辞典が何処にあるかわからないんだよねぇ」



苦笑いを浮かべ、俺は立ち上がって自分のロッカーに向かいバッグの中から国語辞典をとりだす。
はいどうぞ、次は絶対に家から持ってくること。と殆ど意味のない忠告をフェリシアーノに言い渡し、5分休みの本来なら次の授業の準備をしたりする時間はフェリシアーノとお喋りに興じる時間へと摩り替わった。





くぁ、と欠伸を噛み殺す。
やっと長ったらしい歴史の授業が終わり、昼休み……学生にとって至福の時間である昼食。
ぐう……となっお腹に手を当ててもう一度欠伸。



『(眠い……)』



どんだけ眠いんだ、と内心自分にツッコミを入れながらも机の上の教科書やノート、筆箱をテキトーに机の中に突っ込む。
今日のおかずは何かな?ハンバーグが入ってたら嬉しいなぁ。

さて、いつもの場所に向かうとしよう。











この学校専用の上履きから運動靴に履き替え、俺は昼食を食べる時に何時も集まっている場所へ。
常に俺よりも一足早くこの場所につき、ご丁寧にもシートを広げて待っていてくれる金色と、おかずをくれたりこの学校の他の皆には知られていないベスト・スポットについて詳しい黒色を見て俺ははにかみながら言う。



『何時も早いね。まった?』



事前に計画を立てていたわけでもあるまいし、二人同時に首を横に振った姿を見て笑みを濃くし、小走りで二人の元へ駆け寄った。



「またフェリシアーノの奴は一番最後か…まったく。」

「ふふ、確かに何時も遅れて到着する人ですが悪気があるわけじゃないでしょう?ゆっくり待つとしましょう。
 ああ…オルフィスくん、今日のおかずは塩鮭ですよ。」

『ホント!?』



靴をぬぎ、菊の隣に座り持ってきた弁当箱と水筒をシートの上に置く。
菊の作るモノは…大抵、塩分が多めだけど味は確かで、毎日どんなものが作られるのか俺はとても楽しみにしている。

フェリシアーノがやってくる姿を見つけたらしい、ルートの怒声を聞いて今日も平和だ…と思いながら水筒に入っている麦茶を一口のんだ。



しかし、現実は非情である。



「ああああ!ボールが!!」



ゴンッ!!

その瞬間、俺の意識は飛んだ。







――ルーガ………ルーガ?……ルーガ…ルーガッ!!!



『うわぁ!?』



怒鳴り声が聞こえ、俺はビクリと震えながら机の上に伏していた顔を上げる。
……ん、あれ?机?



『……あれ?』
「ルーガ、もう会議は終わっているんだぞ!イタリアのように会議中寝るな!!……イタリアぁぁああああ!!ちょっと目を離した隙に眠りこけるんじゃない!!!」



世界会議。
沢山の国たちが全員で使うどでかい真ん丸い机…いや、テーブルの重たい頭を載せ、俺はぐうぐうスヤスヤと眠っていたらしい。

でも…なんでだろ。
何かが違うような…違ってないような…



『…ドイツ、老けた?』



意識が失う前…じゃない、寝る前と違って……背が伸びて、顔の彫りが深くなって…んん?
……寝ぼけてるのかな?
何だか、夢を見ていたような……



「ルーガくん、大丈夫ですか?」

『え、あれ、日本?』



…日本も背、伸びてる。
俺よりもでっかく…意識を失う前は俺のほうがちょっと大きかったのに……いや、違う。寝ていたんだよ、俺は。
意識を失ったのは、夢のなかで……俺は夢を見てたはずだから…つまり………あれ?



『内容…忘れちゃった。』



日本と、ドイツと、俺と……確かイタリアも出てたはず、なんだけど。
とっても、幸せで、俺とは違う“俺”が…笑ってて、それで、それで……?

ルーガ、とは呼ばれてなかったような……でも、“俺”はその別の呼び方で反応してたし。

あ、そうだ。俺、“俺”は、夢のなかでは国じゃなくて――



「ねえ皆!これから曰くつきの屋敷に行かないかい!?」



折角、思い出しかけた夢の内容がアメリカの声によってかき消され、
またいつも通り、悪夢がやってくる。






夢、夢、夢



(何十回、何千回、何万回、何億回繰り返したループの内の一つには、)
(もしかしたら…幸せな夢が存在したかもしれない。)
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