贈り物 | ナノ
   アンケ御礼リク【彩華様】
「雑用、コーヒー持ってきて。」

「・・・ほらよ。」

「・・・舐めてるの?こんな熱湯じゃ舌が火傷しちゃうじゃない。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「なに、何か文句でも?」

「・・・ぐっ、」













事の始まりは、昨日の私の一言だった。

生徒会長のアーサーに無理やり生徒会に入れられ、挙句雑用という立派な役職を貰った私は、彼の横暴加減に苛立ちを覚えていた。
今までにやれた数々の【会長命令】に、私はある条件を出して今日は朝からアーサーと一日役職を交代することになった。

「いいか、忘れるんじゃないぞ。
【乗り切ったら何でも言うことを聞く】だからな。」

「ええ、望むところよ。
けど、音を上げたら負けだからね。」

全てはアーサーに私の苦労を知ってもらうため。
正直あいつの命令はめちゃくちゃなものばかりで腹がたっていたのだ。








早朝。
まだ7時で生徒はおろか、先生の大半も出勤していないような早い時間に私は目の前の会長席に積まれた書類に目を通していた。
量は大体いつも彼がやっているものと同じ。常人ではやっと一日かけて終わるかどうかの量。
彼はこれを授業を受けながらも終わらすのだから、尊敬に値する。
私は作業的なことを繰り返していると、頃合いを見計らってアーサーにコーヒーを持ってこさせたが、温度が飲めるものではなかった。
文句を言いたそうな顔の彼が次に持ってきたコーヒーは程よい温かさだったが、苦すぎた。

「ちょっと、雑用。
なにこれ?苦すぎるわ。私の好みに合うまで淹れて来てもらうから。」

「は!?
お前生徒会長だからって横暴すぎ・・・っ!!」

私はいい笑顔でにやりと笑む。
気がついたか。この命令は私がまだ生徒会に入りたてで、彼とはまだ他人だったとき。
生徒会雑務になって始めに貰った任務と酷似したものだ。
彼は当初、私に紅茶を淹れさせて自分の味に合わなければ全て眼の前でやり直しを出していた。
結局私が彼好みの紅茶を淹れられるようになったのは3日後。しかし、そこまで待っていられないので私を満足させられなければ彼の負け・・・というわけだ。
それをコーヒーに変えたまで。私は彼の命令を真似ているだけだ。
それに気がついたアーサーも何も言わず、悔しそうな顔で一口だけ口をつけたコーヒーをひったくり、奥へと消えていった。

約20分後。書類を5束ほど片付けたところで、またコーヒーが置かれた。
自信満々そうな雑用係を一瞥し、私はコーヒーに口をつけると目を見開く。
・・・おいしい。程よくミルクが入っていて、私が好んで飲むコーヒーと同じような味だった。
しかし、まだ完璧ではない。

「どうだ。
お前の好みなんて良く知ってんだよ。」

「私の好みを良く知っていてこの程度?
まだ。確かに味は近づいたけど、これじゃあ温すぎるしまだ苦い。
やり直しね。」

おうおういい顔ね。
そうして私の苦労を知るがいいわ!


*


それから、コーヒーを完璧に作り上げた彼は左腕に「雑務」という肩書きをつけて校内の見回りした。
案の定いろいろな人にからかわれたようで、帰ってきたときには青筋を立てていた。
それから、HRが始まる前まで彼に掃除を任せてみるも、お皿は割りそうになるわ掃除機でカーテン吸うわで即刻やめさせた。

「けど・・・!」

「・・・はぁ。
アーサー?人には得意不得意があるの。いくら今日一日雑用で、雑用の仕事が掃除だからって、貴方がやったら逆に散らかるのよ。」

「ぅぐ!」

「あんたはそこでおとなしくしてなさい。
嫌だったら、フランシス(副会長)のところにいって仕事でも貰ってくれば?」

「・・・・・・・・・。」

充分に不満そうなアーサーは案の定ふてくされた顔でソファーに踏ん反り返っていた。
HRまであと20分以上ある。仕方ないなと私はなにか仕事を探していたところ、あることを思いついた。

「雑用君、肩でも揉んでくれないかしら。」

その一言で目に輝きを取り戻した彼は、嬉々として私の裏に回った。
会長椅子が邪魔だと思ったのか、ソファーに座れと指示される。
何故雑用の分際でそんなにも偉そうなのかとか、言いたいことは色々とあったが彼の「ご主人様に尽くせる」犬精神を見てしまったら、言ってやりたいことも全てため息と共に流れてしまった。

「・・・・・・んっ」

なかなかうまいなと思いつつも資料を覗いていると、壺を突いたのかすごく気持ちよかった。
思わず声が出てしまって少し悔しかったが、悪い気持ちではないのでそのまま続けさせる。
しかし、次第に背中、腰まで手が下りていったのでそこでストップをかける。

「ちょ、ちょっと!私は肩を揉んでほしいって行ったんだけど・・・・・・っ!」

あ、そこ気持ちいい。思わず息が詰まる。

「それにしては、やけに気持ちよさそうだけど?」

頭だけを彼に向けると、想像したとおりのいやらしい顔をしていた。
いじめたい顔だ。しかし、私の体が敏感になってしまった今、いっそ寝そべって本格的にやってほしい欲に駆られた。
悔しいが、ものっすっっっっごく気持ちいい。

「あ、・・・そこ、は・・・ッ!」

「ん?ここか?」

「ひぐっ」

やばい・・・呑まれる。
ヤらしいことをしているわけでもないのにこの変態眉毛がやるとヤらしいことみたいになってしまうのはどうしてだ。

「だめだって・・・、!」

「何がダメなんだ?生徒会長さんよぉ」


キーンコーンカーンコーン・・・


半ば諦めかけたときに、待って止まなかったチャイムが鳴り響いた。
助かった・・・!

「・・・チャイムよ!
ほら、さっさと自分のクラスに戻りなさい雑用君!」

「チッ、
残念だが、おとなしく戻りますよ会長。
ではまた、お昼休み。」

バタン。


・・・・・・。

「・・・・・・・・・はぁーーーーっ。
一体なんなのあいつ・・・・・・。」


朝からすごく疲れた・・・。




* * *




昼休み。
生徒会長は基本、昼休みに生徒会室で残りの業務を終わらせる。
他の生徒会メンバーもそうなのだが、普段私とアーサーしか来ていないのできっと来はしないだろう。
まったく、とんだ生徒会だ。

「・・・ここ、部費の出費が不自然だわ。」

私は座り心地の良い生徒会長席をたち、ラグビー部の会計を探しに行くことにした。
仕事の進みはなかなか好調なので、開きっぱなしの書類を少しだけ整理し、クーラーだけを切ってドアに「会長不在」と立てかける。
誰もいない生徒会室は、どこか物寂しい雰囲気を持っていた。



「ラグビー部の柿本くん、います?」

「あ、雑務さんじゃないですか!
あれ、どうしたんですその腕。?いつの間に会長に・・・。」

「そんなことはどうでもいいので、柿本さんはどこですか?」

「あー、アイツなら校舎裏で見かけ・・・って、いない。

大丈夫かな、雑務さん。あいつ手が出るの早いんだよな・・・。」



早速校舎裏に来てみたはいいものの、私はすごく衝撃的なシーンに遭遇してしまった。
なんと、ラグビー部の面々(部長はいなかった)は、校舎裏でタバコを吸っていたのだ。
高校生にあるまじき行為!!ストップ煙草!!
しかし私一人では返り討ちに合うのは目に見えている。一回引き返すか・・・そこまで考えたところで、いつものアーサーなら、と考えた。
彼なら物怖じせずに立ち向かって、問答無用で「生徒会執行」「正当防衛」の元に相手を成敗するだろう。
(なんせ中学生時代は天下を獲って東西南北を統合した伝説の不良だし。)

ええい、なるようになるわ!がんばれ私!デスクワークだけが得意分野じゃないのよっ!
自分を無理やり奮い立たせ、堂々と地面を踏んで彼らの元へ向かった。

「ちょっと、貴方たち!!」

「ぁん?」
「あ゛ぁん?」
「なんだよ・・・雑務さんじゃねぇか。
会長の代わりにお仕事熱心ですなぁ、おい。」

「そこで何をしているのですか!
20歳未満は煙草を吸ってはいけないなんて法律、知らないわけはないわよね?」

「チッ、うるっせえよ。
なんでわざわざ人目を忍んで吸ってんのに文句言われなきゃなんねーんだよ、あん?」

「さては、ラグビー部の謎の出費は煙草ね?
貴方たち、大会出場停止どころか、停学・・・最悪退学よ?」

「・・・はん。いまさら出費が分かったくらいで、優位に立てるとでも思ったか?
残念だったな、このままお前をのうのうと帰すほど頭も悪くないんでねぇ?

お前ら・・・やっちまおうぜ。」

合図と同時に、周りの奴らがニヤニヤとこちらに近づいてくる。
まずい。とりあえずボイスレコーダーで確証は取ったのだし、ここは逃げるが勝ちよ!
私は全速力で走り出そうとして、

「きゃっ・・・!?」

「おおっとぉ、どこに行くんだ雑務さん?
あ、今は会長さんかぁ〜。」

「ちょ、離しなさい!
私に危害を加えたら今度こそ退学よ!!」

「大丈夫大丈夫。
そうしないように口止めすればいいんだし♪」

「犯されてるところでも撮って脅すか?」

「おっ、それいいね〜。」

「雑務さん、顔は上々。体型もいいんだし・・・とりあえず脱がすか。
正直あのゲジ眉さえいなかったらかなりの上玉だよな。」

「!!?」

え、なに。この人今なんていったの!?
頭おかしいの!?もうこれ私危なくない?あー両手掴まれた。まずい。マジで死ぬ。私の貞操うううう!
もはや覚悟を決め、私の襟へと迫り来る魔の手から逃げるように目を瞑って・・・、

ドカッ!!

「っ・・・!
いってぇな、なにすんだ・・・・・・!!!」

「何ってそりゃア・・・うちの大事な会長さん取り戻しに来たんだよ、カス。
それ以上コイツに指一本でも触れたら殺す。」

体の拘束が開放されるのを感じで恐る恐る目を開けると、木陰の隙間から差し込む太陽に触れてキラキラと輝く金色が目に映った。
アーサーは私にそっとブレザーをかけると、ネクタイを横に放った。

「まぁ・・・今の行為だけで半殺しは確実だけどな。
安心しろ・・・病院にいかない程度に痛めつけてやるよ。」

そういう後姿は・・・すごく、禍々しかったです。



*



「じゃ、私は今から出張あるから・・・、保健室頼んだわよ。
使い終わったら鍵閉めちゃっていいから。」

「あ、ありがとうございました。」

バタン、とドアを閉められれば、あたりを支配するのは保健室独特の薬のにおいと、程よく効いたクーラー。
そして、息苦しいほど思い沈黙。

「沙羅。」

「・・・はい。」

「・・・・・・なんで俺を呼ばない。」

「ごめんなさい。」(非常時でしたので・・・)

「一人で勝てるとでも思ったのか?」

「ごめんなさい。」(めっそうもありません。)

「その結果がこれか?
ボイスレコーダーも壊されてやがる。」

「ごめんなさい。」(それはあんたが踏んだんだよ!!)

「デスクワークの方は完璧だったが・・・一般生徒も取り締まれないなら生徒会長なんて勤まらないよなぁ?」

「おっしゃるとおりです。」(言い返せない・・・くそぅ)

「・・・無事でよかった。」

「ごめんなさ・・・・・・ぇ、?」

勢い良く顔を後ろに向けようとするも、固定されてそのままの状態で抱きしめられる。
必死に探してくれたんだろう。夏の猛暑に走り回ったせいか、アーサーは大量の汗をかいていた。
なんだかとても申し訳ない気持ちになって、私は抱きしめるアーサーの腕を掴んで、小さな声でまた謝った。
途中で昼休みの終わりを告げる鐘が鳴ったけど、そんなのはちっとも気にならないくらい和やかな空間。

「書類・・・見て、走ってきたの?」

「お前のおかげで汗だくだ。」

「2階から飛び蹴りなんて、なんでそんな危ない真似したの?」

「知るか。体が勝手に動いたんだよ。」

「・・・その口の使い方は、紳士じゃないわ。」

「お前は淑女じゃないだろ。」

「・・・・・・・・・皮肉屋。」

「上等だ、阿婆擦れ。」

「まぁ、それが恋人に言う言葉?」

「・・・・・・賭けは、俺の勝ちでいいよな?」

「あんたも雑用の仕事、ろくに出来やしなかったけどね。」

お互いに一歩として引こうとしなかった。
私がそこまで言い終えると、彼は私を抱きしめたまま体を横に倒し、ベッドに横たわる。
別に逃げはしないのに両手首を掴まれるのは、彼なりの愛情表現だと思いたい。
アーサーは仰向けになった私を見下ろす形で見つめるので、私も自然と視線を彼に合わせる。
かっこいいのになぁ。眉毛が普通だったらなぁ。そんなことを考えていたら、手首に軽いリップ音。

手首。キスの意味は、「欲望」。
多分、ここで知らないフリをしても避けられない。

「・・・・・・なんでも一つ、言うこと聞くんだよな、沙羅?」

「・・・でも、それはダメ。」

「どうしてもか?」

「・・・うん。」

私の決意が固いのを知ると、彼は渋々と私の両手首を開放した。
でもこれでは懸けの戦利品としてはあまりにも非道だ。
私は起き上がる彼の襟を掴み、再度引き寄せる。

「・・・・・・んぅ!!?」

アーサーの驚いたような声は私のキスで塞がれて、言葉にはならなかった。
勢いがありすぎたのか、若干歯が当たってしまったが私なりにすごくがんばった方だと思う。
恥かしくて目を開けられないし、何かタイミングを逃して口を離すことが出来ない。
どうしようかと考えていたら、あろうことか向こうさんから仕掛けてきたのだ。

「ちょ!?
アーs・・・ん、ふぁ・・・!」

そのまま口内を荒らされ、誰の唾液かわからないほど交じり合った涎が私の頬を伝う。
もう既に思考回路は完全に機能を停止していて、ぼーっとされるがままに快楽に浸っていた。
彼が満足した頃には、私はもう余力がないほどに疲れきっていた。

「ァ、・・・はぁ、ふ・・・。」

「えっろい顔。」

浅い息を何度も吐いて呼吸を整えようとする私に対して、眼の前のエロ大使は満足げに上唇をなめずっていた。


「はぁ、・・・ふぅ。・・・・・・・・・もうやだ。」


「これからも俺の下で働くんだな・・・沙羅。」


こんな賭け、二度とするもんか。

これからも私はこの人の下で雑用を続けていこうと思います。(泣)





会長と私
(もし私が勝ったら、)("ずっと一緒に"って。)



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