日の当たらない、屋敷の裏。すっと立つ一本の木の周りには、小さな木の苗が5本、寄り添うように植わっていた。

私の子は皆、何処かへ消えて行ってしまった。
世界を愛し自ら心を閉ざした我が娘。
雪を纏う者を愛し裏舞台へと舞った我が息子。
愛する者を救おうと自ら命を絶った我が息子。
歪な蔦を伸ばし愛する者と混じり合い散った我が息子。
片割れを愛し死を赦されず衰弱後枯れた我が息子。
皆、消えてしまった。彼らの居た温かな部屋から色を消し、彼らの跡は何処にも無い。
立派な墓は、ない。彼らは人間として異端な消え方をしている。墓を作ってはきっと大騒ぎだ。陰陽師の頂点に名を置く赤を考慮し、彼らは裏庭へと安置した。骨などない、ただの空箱も一部あるが。裏舞台へと消えた者は生も死も不明だが、私が心に区切りをつけるために作った。帰ってくるかもしれないなどという希望は、とうの昔に捨てた。
各々が大切にしていたものと共に埋葬した。唯一の女であった彼女には彼女と彼女の世界を形成した絵描きの筆を。礼儀を重んじる彼には恋人が落として行った溶けることのない氷の破片を。次男の優男には恋人が好んで身につけていた鮮やかな紅の簪を。歪んだ片割れは物に執着しなかったため思いつくものがなかったが、愛用していたのであろう机の上に常に置いてあった万年筆を。片割れを愛した者には、片割れの唯一残っていた欠片を入れてやった。

家族らしいことはできていただろうか。私も赤も若い頃は子供よりも仕事を優先していたから、殆ど面倒は見てやれなかった。昔から陰陽師としての教育を徹底させていたため、遊ぶ時間は同年代の子よりも遥かに少なかっただろう。よく弱音を吐かずについてきてくれた。そこは褒めてやる。赤は絶対口にはしなかったが、お前たちを認めていた。赤も不器用だからな、上手く伝わって居なかったかもしれないから今言っておく。

赤は今まで子供たちがこなしてきた仕事を全て引き受けることとなり、多忙な日々を送っている。屋敷にいる時間もめっきり減ってしまった。彼は子供たちの死を悲しむ暇もなく、各地を転々としている。いや、自分から考える暇を作らないようにしているのかもしれない。だからそこらの陰陽師でもこなせるものまで引き受けているのだろうか。
私はあれから仕事は何も引き受けていない。だからこうやって、こまめに掃除をしている。赤が悲しめない分まで、私が悲しんでやらねばいけないと、心の何処かで思っていたのかもしれない。

5人も、消えてしまったのか…。
一部の奴らは部屋に消えない跡を残していっただろう、後で請求書を送りつけてやるから覚悟しろ。飛び切り高い畳を買ってやる。墓を作るのも大変だったんだ、お前たちは自由に死にすぎだ。特に心臓を切り取った奴、戻して箱に入れるのに一苦労だ。あと女と粉々になった奴、お前が一番大変だったんだ馬鹿が。…これで浮かぶ顔が2人だ。
手をかけさせて。お前たちは私に言うことは無いのかい。
…本当にお前ら、いい加減にしろ。うちの子供たちは馬鹿な奴ばかりで困る。

ふと、風が肌を撫でた。暖かな風が心地良い。つぅ、と頬を滑り落ちるものがあった。それを振り払うように手を押し当てた。
「…お前たちなんて嫌いだ」
音のない屋敷で耳を澄ませる。
「大嫌いだ」
微かに、無邪気な子供の声が聞こえた気がした。









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