肉の軋む音 目の前を紅く染める 綺麗に肉が裂ける光景が面白くて 綺麗な色で世界が染まって行くのが面白くて でもいつからだろう 赤い世界が、怖くなったのは 《○○地区にてB-4部隊が黒軍による奇襲攻撃を受けた、他部隊は今すぐに応援、援護に向かえ。繰り返すーー》 手元の携帯が振動する。 最近は出動命令が多い。 きっと今頃、軍の仲間は武器を構え、急いで現場へ向かっているのだろう。私は、こたつから動いていない。 今頃、幾人もが死んでいるのだろう。 でも私は動けない、動かない。 私には、仲間のために、仲間を助けるために自分の命を投げる勇気なんてとうの昔に失せた。 誰かを助けるために、誰かのためにと立ちはだかる連中を斬る勇気も既に無い。 学生とはいえ、軍人としてどうなのだろうか。軍人は、戦うのが仕事なわけで、私はその仕事を放棄している。 どうせ私一人が行ったところで戦況はかわらない。私なんてただの一般兵だ。戦力にも肉壁にもなれない。そんな言い訳を自分に言い聞かせ、私はこたつに深く潜り込んだ。 「今日も狩ったなー!」 部隊長逃したけどな 「まあそこはおいといてさ。俺らすげぇよ」 まあね 「成瀬、俺たち仲良しだな」 あんたと?ごめんだわ 「ひっで!おまえ俺が居ないと何もできないくせに」 そんなこと 「無いって言えるか?」 ごろん 「成瀬」 首 「俺死んじゃったよ」 ゆっくりと地に落ちる ペンダントが、軽い音を立てた 息苦しくなって飛び起きる。何度か呼吸を繰り返し、静かに床に寝そべった。ふわふわしたカーペットが生ぬるくなっていて、少しの気持ち悪さを覚える。 まだ不安が残り、首にかけていたペンダントをぎゅっと握った。 「死んじゃった」 ぽろりと、そんな言葉が出た。 そうだ、あいつは私の目の前で首を飛ばされた。地に落ちたあいつのペンダントを咄嗟に拾って、私は逃げた。 死にたくなかった。怖くなった。 あいつが死ぬなんて、思ってなかった。ずっと一緒に居れると、思っていたのに。 あいつは死んだ。 私は、泣けなかった。泣いたら、自分が更に弱くなる気がして。いつもヘラヘラと笑っていた、あいつに負ける気がして。 「あんたのせいで、私は」 戦うことを放棄した私が組織にしがみついたままなのは、私との関係を形に残してくれなかった、あんたのせいだ。 軍以外に、私たちの関係を残してくれるものが無いんだ。それは寂しくもあって悲しくもあって。 このペンダントも、本当はあんたのじゃないってわかってる。嬉しそうに、恋人に貰ったのだと私に話してくれた。でも私が彼女に渡さずこうして持っているのは、私がまだあいつの存在を諦められないからなのだろうか。 「なんで死んじゃったんだよ、バカ」 あいつが死んで半年。 「好きなの」 私はまだ、涙を流せないでいる。 |