リボンを結んで戦闘態勢03

「気に喰わない」

そう呟いたバーボンが向かったのはどうやら彼の自宅のようだった。強い力で腕を引かれ、あれよあれよという内に玄関のドアが開き、中に連れ込まれる。さっきから何度も抗議の声をあげたり、彼の名前を呼んでいるのに、バーボンは私の言葉を聞き入れようとしてくれない。玄関を抜けた先にあるドアを開けた彼は私をそこへ乱暴に追いやる。どすん。尻餅をついたと思ったその途端、自分の身体に冷たい何かが降り注いだ。

「っ、バーボン…!つめた…ッ」
「…」
「とめてってば!」

私が追い込まれた場所は風呂場だったらしい。降り注ぐ何かはシャワーヘッドから流れ出る水。みるみるうちに私の体を冷やしていくその水を、バーボンは悲しそうに、そして悔しそうに眺めていて、私は横たわったその体を持ち上げることができなかった。
どれくらいそうしていただろう。漸く彼がシャワーコックを閉めたと思った頃には、私の服は上から下までぐっしょりと水を含んでいて、すでに身体はガチガチと震え始めていた。

「ど、して…」
「……君が、あいつの匂いを漂わせていたのが気に入らなかったんですよ」

私の問いにそう答えたバーボンはふわふわの白いバスタオルで私を覆い、そのまま私を腕の中へと閉じ込めた。その温かさに無性に泣きたくなった私だったが、こんな男の前で泣くわけにはいかない。冷えて動きが鈍くなった身体になんとか力を入れてバーボンの胸を押し返す。しかし、ビクともしないその胸板に私からはため息しか出てこなかった。

「…バーボン……離して…」

そう伝えても彼は逆に私に込める力を強めるばかり。まるでもう、ここからも彼からも逃れられないような、そんな錯覚に陥って私は震えが止まらなかった。

「ライ」
「え…?」
「奴がFBIだということが組織にバレました」
「っ…!」

全身の血の気が引いて行った。私の身体を抱きしめる目の前の男には私の身体がぴくりと反応したことなんて筒抜けで、もう、どうしようもない。それよりも赤井さんの無事が確認したくて、頭の中を彼の顔がいっぱいに埋め尽くした。

「ころ、された…の……?」
「さぁ。そこまでは僕にもわかりません」
「そんな…」

冷えた身体が、さらに熱を逃がしたような気がした。
ーー赤井さん…どこにいるの?
今すぐあって彼の無事を確認したい。私は目の前の男に体を離せと訴え続け、30分ほど経ってようやく解放してもらうことができた私は、もつれる足をなんとか動かして服が濡れていることなど御構い無しに玄関へと向かった。

「…彼のところに行くんですか?」
「関係ないで…」
「行くな」

がしり。赤井さんから私を奪ったように、彼の手が私の腕をつかんだ。離して、そう言っても彼の切なげな目がゆっくり弧を描いて、もう君を離したくないと呟く。なぜ、そんな顔をするの。そんな事は聞かなくたってわかっていた。

「彼と仲の良かった君も組織から疑われているはず。今行動を起こすのは良策ではない」
「私、赤井さんの無事を確認しなくちゃいけないんです」
「名前…」
「戻ってきます、ここに。必ず。だから、降谷さん」

彼の私を腕を握る手をギュッと掴んだ。降谷さん、初めて呼んだその名は、私の口から紡がれるには言い慣らされたようにさらりと出てきて、彼はそっと私の腕を離した。

「いってきます」

どうか、彼女が無事で帰ってきますように。降谷は彼女が消え去った扉を見つめながら、そう願うことしかできなかった。



03.リボンを結んで戦闘態勢
2016.05.27

BACK

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -