リボンを結んで戦闘態勢02

「ってことになったんだけど赤井さ…」
「こら。ここでその名を呼ぶな」
「ご、ごめんなさい…」

ぽんっとおでこを叩かれ、体がふらりと揺らめいた。そんな小さなやり取りでさえも心がキュンっと高鳴って顔が熱くなる。赤井さんにバレない様、なんとか熱を逃していれば、何かを考え込んでいた赤井さんは口を開いた。

「まぁ、なんとかなるだろう」
「なんとかって…」
「おそらく、彼はお前の正体をバラしたりはしない筈だ」

どういうこと…?そう言って首をかしげても赤井さんはふっと笑ってわたしを見るだけ。見つめられるだけでドキドキと止まらない鼓動が恨めしくて、赤井さんから顔を背けてその場を立ち去ろうとしたその時、ガシッと腕に感じる強い力、そして温もり。

「名前…」
「あ、あか…んぅっ」

赤井さん、そう紡ごうとしたところを遮るよう、彼の薄い唇に塞がれた。赤井さんだって私の名前を呼んでいるのに理不尽だ、なんて思ったけど、彼の唇が触れるだけで、そこから身体中の力が抜けていくように幸せが注がれて、反抗なんてできなかった。

「言うな、と言っただろう?」

ニヤリと笑った赤井さん。ドキドキと胸が高鳴って、目がとろんと蕩けそうになるのは全部全部彼のせいだ。そのまま赤井さんの手つきが怪しくなって、名前と甘く耳元で囁かれれば、私は縦に首を動かすことしかできなくて。満足そうにふっと鼻で笑った赤井さんに手を引かれ、駐車場へ向かおうとしたその時だった。ガシリ。空いていた腕を赤井さんよりも強い力で掴まれて私の動きが止まる。何事か。そんな顔をした赤井さんが後ろを振り返り、苦虫をすりつぶした様な顔をしているのを見て悟った。
ーーバーボン…か…

「アマレット。なにをしているんです?」
「な、なにって…」
「すみませんが、彼女は頂いていきますよ。任務なので」
「…あぁ」

赤井さんが私の腕から手を離した。一瞬だけ、凄い形相でバーボンを睨みつけた彼が私に背を向け、シガレットの煙と共に消えてゆく。何故か…何故だかわからないけど、当分赤井さんに会うことができない様な、そんな気がして私はその後ろ姿が見えなくなるまで、彼から目を離すことができなかった。

「アマレット、行きますよ」
「え、あ、ちょっと…」

どうして組織の男というのは強引な奴らばかりなのだろう。強い力で腕を引かれバーボンの車へと乗り込む。それと同時にしっ、と、唇に人差し指を立てた彼に従って、黙って彼の行動を見つめる。どうやら車の中の盗聴器の有無を調べていた様だ。

「もういいですよ」
「…どこへ連れて行くつもりよ」

普段、人の良さそうな笑みを浮かべている彼の真剣な表情からは真意が読み取れなかった。ギロッと睨まれて私の身体がビクリと怯む。近づいてくる彼の顔から避ける様後ろにずれていけば、後頭部がサイドウィンドウにぶつかって逃げられないことを悟った。

「何故彼なんです?」
「べ、別に、そんなの私の勝手でしょう」
「…気に喰わない」

目の前にあったバーボンの顔がすっと離れていった。ほっと息を吐くのも束の間、彼は勢いよくアクセルを踏み込んで車を発進させた。急いでシートベルトを締めて体勢を持ち直す。ただただ機嫌の悪そうなバーボンの横顔を見つめることしかできなかった私にはこの時、赤井さんが組織から追われる身分になるような事件が起きていたなんて知る由もなかった。



短編「リボンを結んで戦闘態勢02」
title by 金星
2016.05.18

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