世界中の幸せがお前に降り注ぎますよう

たまの休日。降谷さんと被った半年ぶりの休日。いつもは5時起きで家を出るのに、未だ布団の中でぬくぬくとしていられる日曜午前10時。ああ、今日は何て素敵な日なのだろう!

「名前。いい加減起きて」
「ぬああっ!降谷さん!布団返してー!」
「俺はお前の上司だからな。私生活もきっちり指導するつもりだよ」
「うぅ…鬼……」

朝ごはん出来てるよ、という降谷さんの言葉に背中を押されてリビングに向かう。まだまだ寝ぼけていた私は、初めて降谷さんが私に作ってくれた朝ごはんを写真に収めることを忘れ、ペロリと平らげてしまった。くそう…また作ってもらおう。
さて。今更だが、降谷さんは私の部署、公安の上司だ。基本的に彼は潜入捜査で警視庁にいることはないけど、たまにこうして私の家に来てくれる。まあ会うのも冒頭で述べた通り半年ぶりなんだけど。1週間前、日曜日にうちに来ると降谷さんから連絡がきたときはもう、泣くほど嬉しかった。というか泣いて喜んだ。夢の中でもいいから会いたい!と思って降谷さんのピンショットを枕の下に入れて寝る生活もこの1週間はしなかったくらいだ。あ、あとであの写真しまっとかないと…。

「…で、降谷さん。これは一体どういうことですか」
「ん?ああ、ごめん。報告書をまだ書いていなくてね。まああと2.3時間で終わるから、大人しくしてろよ」
「にっ、2.3時間?!」

ノートパソコンに向かっている降谷さんは、此方に一瞬だけ目線をくれてから当たり前のように口を開く。何てことだ!降谷さんとのせっかくの休みを報告書如きに邪魔されるなんて!というか降谷さん、半年振りに会う彼女に塩対応すぎないか?!
降谷さんは大人しくしてろと言ってきたけど、私にそんなつもりはないので攻撃態勢にはいる。パソコンとにらめっこをしている降谷さんのほっぺをつねってみたり、首筋に擦り寄ってみたり、パソコン用のメガネを奪ってみたり。…くそう!どんな事をしても降谷さんはこっちを向いてくれない!
降谷さんは意地悪だ。私の悪戯をするりとかわして空気と同等に扱うし、デートのドタキャンなんて日常茶飯事。逢えるのだって半年に一回で。
…何だか虚しさがこみ上げてきた。もうこうなったら降谷さんなんてしるもんか。そう決めた私は、自分の食べた朝食の後片付けをすると言って降谷さんのいるリビングをあとにした。


* * * *


目の疲れを覚えて一度手を止める。気がつけば、名前がリビングを出てから1時間が経過していた。さすがに怒ったかと思ってキッチンへ向かおうと席を立つ。 今日は彼女との関係に区切りをつけようと思って彼女に会いに来た。しかし、いざ名前を目の前にすると身体は思い通りに動いてくれない。彼女を遠ざけるような台詞ばかりが浮かび、半年振りに会った名前の顔を直視できずにいた。
ーー本当に俺は名前のことになると不器用だ。
キッチンに続く扉を開けようとしたその時、反対側からそのドアが此方に向かって開き、追って彼女が入ってきた。

「ぬあっ、降谷さん。お仕事は?」
「あ、あぁ。ちょっと休憩しようと思って」
「やっぱり。そうだろうと思ってコーヒー淹れてきましたよ」
「…気がきくじゃないか。ありがとう」
「これも降谷さんの熱血指導のおかげですよ」

へらへら笑う名前と一緒にソファに腰を下ろす。カップの中の黒いコーヒー。そこに映る自分の顔は、平気な顔をして人を傷つける組織の人間そのもので、そんな顔のまま名前の隣に座る事は気が引けた。

「え…?」
「ん?降谷さん、いつもミルクだけ入れてたでしょう?」
「あ、あぁ」

隣から急に伸びてきた小さな手はカップの中に白を入れる。それと同時に自分の顔が映らなくなり、フニャリと笑う名前の顔を、今日初めてしっかりと視界に捉える事ができた。ふーふー、と砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを口に運ぶ名前。その姿を見て、自分でもわかるくらいに優しい笑みが溢れる。カチャン。ソファの傍にあるサイドテーブルに自分のコーヒーを置き、彼女のコーヒーも奪ってそれをそこに置く。きょとんとしながらこっちを見る名前を腕の中に閉じ込めて、ぐっと目を瞑った。

「ふ、るやさ…?」
「…もうすぐなんだ」
「へ…?」

急に私を抱きしめた降谷さんが少しだけ身体を離して私の顔を覗く。降谷さん、やっぱり少し痩せたなぁ。なんて思いながらその熱い真剣な視線を受けていれば、降谷さんは再び口を開いた。

「もうすぐ、あいつの仇を取る事ができそうなんだ」
「アイツって…」
「あぁ。君のもう一人の上司だよ。」

降谷さんが私の左手を右手で優しく持ち上げる。ツーッと人差し指で私の手の甲をなぞると、空いている手でポケットから白い箱のようなものを取り出した。

「だからって言うのも何だけど、君にはこれからもずっと俺を支えてもらいたい」
「っ、降谷さん…」
「名前」

降谷さんが私の名前を呼ぶ。彼が優しくなぞる私の手に目を奪われていた私はやっと降谷さんと目線を交わす。
ーー降谷さん。いつもかっこいいけど、今日はどうしてそんなに素敵なんですか。

「…ずっと俺のそばにいてほしい」
「ーっ、そっ、それって…」
「うん」

降谷さんの左手に乗っている小さな箱を彼がカパリと開けた。顔を出したキラキラと光る指輪が私の薬指に嵌められる。降谷さんは、私の目から溢れた雫にちゅっ、と優しく口付けた。

「名前。結婚しよう」

ーー降谷さんは意地悪だ。私の悪戯をするりとかわして空気と同等に扱うし、デートのドタキャンなんて日常茶飯事。逢えるのだって半年に一回で。
だけど、本当は私をこんなに愛してくれていて、耳を真っ赤にしながら私の返事を待ってくれている。そんな彼が愛おしくて仕方ない。

「そんなの、おっけーに決まってます…!」

ーー降谷さん。私今、世界で1番幸せな自信があります。大好きが溢れて胸が苦しいです。
ギュッと抱き締め合う二人。降谷も名前も同じ顔をして笑っている。コーヒーから出る湯気がだんだんと小さくなってゆくのを心地良く感じながら、二人は再び小さな眠りについた。



短編.世界中の幸せがお前に降り注ぎますよう
title by ジャベリン
2016.04.10

おまけ
「名前、そろそろ起きるよ」
「ん…もう3時…?」
「…そんなことより名前。枕の下の写真はどういう事だい?」
「ぬあああっ!か、勝手に見ないでくださいよ!降谷さんのえっち!変態!すけべ!」
「人の写真を枕の下に隠す方が変態だろ…」


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