計算尽くめのアンプロンプテュ

「…おはよう、名前」
「バー、ボン…おはよう」

目が覚めると、いつもは手紙を置いて居なくなっている彼が、珍しく私の隣にいてくれた。優しく頭を撫でられる感覚に、グッと心が熱くなる。感情に身をまかせて、そっとバーボンの身体に腕を回せば、私の頭の下敷きになっていたバーボンの腕も、私の腰に回った。



計算尽くめのアンプロンプテュ



「今日は仕事、ないの?」
「…いや、午後からだよ」
「……そう」

午後には彼はここからいなくなる。苦し紛れのこの関係も、終わりにしなくてはいけないのに、その言葉を言い出せない自分。ぐっと眉を寄せ、バーボンの胸に顔をすり寄せれば、彼の腕の力も強くなったような気がした。

「…じゃあ、また」
「うん…。気を付けてね」

バタン、としまった扉の外で、はあ、と、溜息を吐く。終わりにしなきゃいけない、 そんな事はわかっている。でも、躰は思うようには動いてくれない。彼女の体温を感じてしまえば、もう手離すことができなくなる。そして、また、なんて儚い言葉を吐いてしまうのだ。
ーー名前…。君を愛してしまって、本当にごめん。
ぐっ、とせり上がる気持ちを胸に抑え、バーボンと呼ばれるその男は、本来、彼が所属する職場に向かうべく、地下に停めてある車に乗り込んだ。
途中、自宅に戻り、報告用の書類を持ってから職場に到着する。彼は、モヤモヤとした気持ちのまま、その建物の中へとはいっていった。
コンコン、と、上司のいる部屋のドアをノックして、自分の本名を名乗れば、入れ。という返答が聞こえてドアノブを回す。
ーーこの部屋に入れば自分はバーボンなんて犯罪組織の人間ではなく、公安の降谷零だ。
彼女に寄せてしまった想いに罪悪感を感じながら、失礼します、と言い顔を上げる。
しかし、そこには、絶対にいないはずの人間がいて、バーボン、否、降谷は目を見開いた。

「…バー、ボン…?」

昨夜に自分の下に組み敷いていた女。さっきまで一緒の部屋にいた女。今の今まで俺の心の中を蝕んでいた女。愛しくてたまらない女。名前が、今、目の前で自分と同じ顔をしてこちらを見ている。それを見て、すべてを瞬時に悟った。
ーーああ、こんなことがあるのだろうか。

「例の報告書です。決裁お願いします」
「ああ。ご苦労様。…少しこの部屋を使うと良い。私はコーヒーを飲んでくるよ」

俺の震える声を聞いた上司は、事を悟ったようで、気を利かせて部屋を出ていってくれた。静まり返る狭い部屋。目の前に立つ彼女の顔を覗けば、うるうると瞳を揺らし、ハの字に眉を寄せて、この状況をうまく理解しきれていないような顔をしている。もう、その顔を見れば、躰は勝手に動いて、女を腕の中にきつく、強く閉じ込めていた。

「…ふるや、さんって、貴方、なの…?」
「名前?本当に君は名前?」
「…バー、ボ…ーーっ!」

昨晩のように彼女の唇をぐっと自分のそれで塞ぐ。涙を流し、震えながら、俺のそれに応える名前が愛おしくてたまらない。
ーー好き、好きだ。好きすぎておかしくなりそうだ。

「名前。俺の名前は降谷零。2人の時はそう呼んで。もう、君の前では何も偽らないから」

そう言えば、ふるふると震えながら俺の躰に縋り付く名前。きっと彼女も自分と同じ気持ちだったのだろう。自分の置かれている立場に、悩み、苦しみ、悲しんだ。そんな日々も今日で終わり。歓喜に震えて、泣いてるのに笑っている彼女は、俺が愛した、これからも俺が愛する女。これからは誰がなんと言おうと、彼女のそばにいることができるのだ。

「…零…さん……」

愛おしそうに、俺の名前を紡いだその唇に、勢いよく喰らいつく。
ーー絶対に離さない。
そう強く心に想いながら、幸せに満ち溢れたキスを、名前が立っていられなくなるほど彼女に施した。

「名前。愛してる」

やっと離れた唇でそう言えば、彼女は初めて見せた笑顔で、ぎゅっと俺に抱きついて、私も、愛してる、と、小さく答えた。



計算尽くめのアンプロンプテュ



(側にいることが許されるのなら、俺は一生お前を離さない)
(人生で1番幸せな瞬間はきっといつ思い返したってこの時だった)



2016.02.17
計算尽くめのアンプロンプテュ
title by scald

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