ルージュが彩る鮮血模様

辿り着いたのは真っ赤に塗られた玄関のある小さなログハウス。さっきコナン君が落ちかけた底なし沼があるような森の中に、貸し別荘があるなんてなんだか少し不気味だけど、見た目は割と素敵だ。

「あっ、もしかして世良くんの妹さんとお友達?」

最初に私たちを呼び止めたのは黒髪ショートヘアの活発そうな女性だった。彼女は私たちを見て、人の良さそうな笑顔で口を開く。

「わざわざ来てもらってありがとう。私は峯岸珠美。今回は色々よろしくね。えーっと…どちらが世良くんの妹さん?」
「僕が妹の真純で、この2人がクラスメイトの鈴木園子くんと、毛利蘭くん」

ぺこりと笑顔で頭をさげる園子ちゃんと蘭ちゃん。それから真純ちゃんはコナン君の方を向いてにっこり笑った。ほんっとこの子はショタコンなんだから…。

「んで、この子が蘭くんの家で厄介になってる江戸川コナン君。僕なんかより頭がキレる探偵さ」
「へぇ〜。コナン君、小さいのに凄いんだね」

いや…と、苦笑いを零すコナン君。真純ちゃんの言葉をうわ言のように捉えたであろう珠美さんの笑顔を見て、事の真相を知っている私も内心では彼と同じような笑みを零していた。

「そして、この美人が僕たちの付き添いとしてきてもらった苗字名前さんだよ」
「はじめまして。苗字です」
「本当に美人ね!私たちと同じ歳…くらいかしら?」
「今年で27になります」

珠美さんが28歳だという話になって親近感を持たれた私。真純ちゃん達に、私が刑事だということは伏せてもらっている。だって、いきなり刑事が来たらびっくりしちゃうでしょ?依頼があるって聞いてたし。
珠美さんが事件のことをよろしくと真純ちゃんに頼んでいると、そこにスタスタと歩いてきた人影。珠美さんがその影の正体を見て、澄香!と呼びかけた。名を呼ばれた女性は顔を上げると、真澄ちゃんに白い封筒を差し出す。突然のことにみんなが首を傾げた。

「…これ、プリントアウトした写真。頑張って」
「あ、あぁ…」

彼女は真純ちゃんにそれを渡すと、そそくさと別荘へ消えていった。珠美さんとは全然違うタイプの澄香さんは、どうやら人見知りで初めての人にはいつもあんなかんじのようだ。

「おっ、世良の妹のJK探偵。マジで来たのか!」
「あれっ?任田君と薄谷君、一緒だったの?」

突然聞こえた声に後ろを振り返ると、そこにはガテン系と、小太りの男性が立っていた。どうやら2人は森の中でばったり出会い、ここまで一緒に来たらしい。任田と呼ばれた男は背中に細い棒のようなものを背負っていて、これまたなんでも気になっちゃう少年がその物体がなんなのかを尋ねた。任田さんはそれを背中からおろして、ああと言いながらファスナーを開ける。

「バッドだよ。撃退用に毎年持ってきてるんだ」
「でもそれ、随分細っこいバッドだな…。そんなんでボール打てるのか?」
「だから、撃退用だって」
「撃退用…?クマでも出るのかしら?」

私の問いに任田さんの汗が増す。言葉を濁す彼の様子を見て私は確信を持った。
ーーやっぱり、これって…。
私はこれから起こるかもしれない事件を想像して身震いしそうになったが、得意のポーカーフェイスでそれを隠して珠美さんたちの後に続いて別荘の中へと入った。


* * * *


一方、安室はかれこれ2時間も埼玉県にあるサービスエリアに滞在していた。トイレに行きたくなって寄ったこのSA。用を足して車を発進させようとしたその時、タイヤに釘か何かが刺さってパンクを起こしてしまったのだ。生憎、代わりのタイヤは持っていなくて、公安の部下である風見に持ってきてもらうことになっているのだが、こんな事に彼を使ってしまうなんて…全く。飛んだクソ上司だ僕は。

「…ついてない……」

まさしくこの一言が似合う現場だった。もう2.3時間後にここに着くという彼からの連絡を受けた安室は本日2本目のコーヒーを自販機へ買いに行った。


* * * *


「しっかし、よく見たらこの辺埃だらけじゃない!」
「お昼食べる前に少し掃除しとけばよかったね」
「まあ、さっき聞いたような事件が近くであったから借りる人もいないんでしょうね」
「もう名前さん、思い出させないで下さいよ!」

澄香さんに任された1階の掃除。蘭ちゃんと園子ちゃんと女3人で手際よくリビングを掃除していると、蘭ちゃんが声を荒げる。それを聞いて、私と園子ちゃんは顔を見合わせて笑った。上からは澄香さんが掃除機を動かす音が聞こえていて、キッチンからは珠美さんの声が聞こえる。薄谷さんはトイレとお風呂の掃除をすると2階に消え、任田さんは山の麓のスーパーへ買い物に行ったようだ。真純ちゃんとコナン君は、お昼を食べていた時に聞いた話について調べるため、森の中へ入っていった。
思い出すのは、先ほどの昼食時の会話ーー。

「そういえば、皆さんなんの集まりなんですか?」
「高校のアウトドア部」
「まあ部員は5人だけだったけど、楽しくやっていたわよ」

蘭ちゃんたちがへぇと声を出す。アウトドア部なんて楽しそう。高校時代の友人って10年経ってもこうして集まるのね、なんて感心していれば、蘭ちゃんが、じゃあ!と話を切り出した。

「5人ってことは、さっき森で見かけた赤い女の人がもう1人の部員さんなんですか?」

っ、と息を飲む音が聞こえ、蘭ちゃんの不思議そうな顔が目に飛び込む。珠美さんに至っては水の入ったコップの乗ったトレーを落としてしまうほどに動揺していた。それを見て、コナン君と真純ちゃんが眉を寄せる。

「そっ、それどこで見たの!?」

澄香さんが声を荒げる。動揺しているのは4人とも一緒で、園子ちゃんがさっき森の中で見たということを告げれば、彼らの顔色がさらに悪くなる。全身赤い服を着ていたことも伝えると、薄谷さんは席を立ち上がって怯えを露わにした。

「うそだ!そんなわけない…!聡子が…聡子が生きているわけないじゃないか!」

いや、と、任田さんが彼の言葉に疑問をつける。そしてついに、彼らの口から「殺人事件」というワードが聞こえてきた。
彼らの話をまとめると、こうだ。
15年前、この近くの別荘で殺人事件があった。殺害されたのはどこかの会社員で、浮気相手とその別荘にお忍びで旅行に来ていた所に包丁を持った奥さんが乗り込んできて、騒ぎを聞いて警官が駆けつけた時には部屋の中は辺り一面血の海。奥さんが来ていた白いレインコートが真っ赤に染まるくらい、何度も何度もご主人を刺し続けていて、ついた呼び名が「赤女」。赤女は駆けつけた警察官を切りつけて森の中に逃走し、現在も捕まっていない。その3年後、任田さんたちがこの別荘に遊びに来ていた時、もう1人の部員、聡子さんが赤女を見たと言うので、みんなで探しに森へ入ったのだが、探してる途中に聡子さんだけが逸れてしまい、暗くなってきたから警察も呼んで捜索してもらったが、見つかったのはその1週間後。底なし沼にはまって亡くなっていた彼女が見つかったそうだ。近くには、例の殺人事件で使われた包丁も落ちていたようで。それを見て、誰もが思ったそうだ。聡子さんは、森に逃げ込んだ赤女に追いかけられ、沼にはまってしまったのではないか、と。

「でも、この辺の別荘にいたずらしてる人と赤女って同一人物なのかな?」
「そりゃそうでしょ。だって、赤い花びらで水道詰まらせたり、リンゴをいっぱい投げつけたり。全部赤女を連想させる赤い色じゃない」
「そ、そうね…」

2人の顔が曇るのを見て、私はパンパンと手を叩く。ビクッと肩を揺らした2人の純粋な目が私を捉える。

「さあ、早く終わらせて澄香さんとお風呂入りましょう。せっかくいい場所に来てるんだから。ね?」

私の言葉で、不安げな顔だった2人の顔に日が差した。テキパキと掃除をこなしていたこの時の私には、安室さんが今どんな大変な状況に陥っているかなんて、知る由もなかった。



33.ルージュが彩る鮮血模様
title by scald
2016.04.20

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