復讐の色に染まった人間

「ん〜気持ちい〜!森林浴最高!」
「本当。空気も美味しいし、癒されちゃうね」

太陽がさんさんと照り、木漏れ日が私たちを照らす。森の中を歩くのは左から真純ちゃん、コナン君、蘭ちゃん、園子ちゃん、そして私。3日前、この子たちに気分転換も兼ねて長野にあるコテージへ行こうと誘われてやってきたのだが、うん。蘭ちゃんの言う通り、東京とは全然空気が違う。

「ありがとうね、世良さん。誘ってくれて」
「いや。僕もみんなと来られて楽しいよ。名前さんも、来てくれてありがとな」
「私も楽しみにしてたのよ、森林浴だなんて小学生ぶりだし」

あの日、泣き疲れてそのまま眠ってしまった私は、零さんと一緒にソファで朝を迎えた。まあ特に何があったわけでもなく、そのまま警視庁を訪れ、心配をかけた美和子や高木くん、目暮警部に謝罪をしに行ったんだけど。頭を下げた時、みんな涙目になりながら私を迎えてくれて、すごく嬉しかった。それから1週間の休暇をもらったので長野へ来ることができた。安室さんも誘ったけどポアロの連勤が重なっていて今回はお留守番だ。

「でも意外だよね。世良のねーちゃんが森林浴だなんて」
「まあ、ここへはある依頼を受けて来たんだけどな」

あの後、警察に捕まった彼は私の要求もあり、証人保護プログラムを受けてアメリカへ旅立った。10年前の殺人事件は迷宮入と称されているが、それも私が頼んだこと。父を殺そうとしていたことは許せないけど、その分アメリカで組織についてみっちり吐いてくれるようだ。零さんは彼がアメリカ警察の手に渡ると聞いた時、凄まじい顔をしていたけど、それをカモフラージュするためにも、自分が男を始末した、と、組織に報告を入れていた。本当にそういうところ抜かりない幹部なんだから。ジンたちも彼を逃したっていう罰が悪い部分があるし結構疑わずにバーボンやるじゃねぇかみたいな感じになってた。うん、本当一件落着。

「依頼されたのは本当は僕の兄貴なんだけど、その兄貴の高校時代の友人がこれから行く貸別荘の謎を解いてくれ、って頼んできたんだ。でも兄貴、なんか今忙しいみたいでさ…。んで、女子高生探偵の僕が、代わりに行ってくれって頼まれたってわけ」
「じゃあ、お兄さんも探偵なの?」
「いや?高校の時、よくクラスで起きた事件とか謎とかを兄貴がチャチャっと解決してたらしくてね…」
「あれ…?でも世良さんのお兄さんって亡くなったんじゃ…」
「あぁ」

真純ちゃんが1番上のお兄さんが亡くなったと話す。そのお兄さんが赤井さんだと知っている私は複雑な気持ちでそれを聞いていた。まあ2人もお兄さんがいることは知らなかったから、私も蘭ちゃんと同じ疑問を抱いてたけど。コナン君が3人の名字が何故違うのかを質問する。やはり、赤井さんと真純ちゃんの関係を疑っているようだった。

「赤い…」
「え?」

園子ちゃんの声に一斉にみんなが振り向く。一点を見ながら、園子ちゃんは再び口を開いた。

「赤い人…さっき、木の向こうに赤い人いたよね?」
「う、うん…。赤いブーツに赤いレインコートを履いた、髪のながい女の人がさっきまであの辺にいたように見えたけど…」

続いた蘭ちゃんの証言に思考を巡らせる。長野。山奥。赤。女の人…。
ーーもしかして…。

「赤女…」

真純ちゃんの声に、私以外の全員が「えっ」と、小さな声を漏らした。


* * * *


「ありがとうございました」

お客さんを見送ってから、ふぅ、と息を吐く。名前は今頃長野の別荘…か….。ポアロのシフトが入ってなかったら一緒に行くつもりだったが、赤井の妹がいると聞いて少し気が引けた。まあ彼女には何の罪もないが、確実に嫌な顔をしてしまうだろうと思ったからだ。

「名前さん、長野に行ってるんですよね」
「え…?」

テーブルを拭いていると、後ろから梓さんの声が聞こえて振り向く。お盆にお客さんが食べ終わった食器を乗せた彼女はどうやら僕に話しかけているようだった。

「えぇ…でも、どうして梓さんが知ってるんです?」
「昨日蘭ちゃんに聞いたんです!てっきり安室さんも行くのかと思ってました」
「え?なんで…」
「だって、長野って…」

バイトが終わり、急いで車に乗った。行き先はもちろん長野だ。梓さんの話を思い出して、アクセルに込める力を強めた安室。ハンドルを握る手は、すでに汗をかき始めていた。時刻は午後10時。今から行けば明日の朝には確実に到着できるだろう。

「だって、長野って、名前さんの初恋の人がいるって前に聞きましたよ?」
「はっ、初恋?!」
「名前さん、久しぶりにその人に会いたいって言って蘭ちゃん達の誘いに乗ったみたいだったから…って安室さん、聞いてますか?」


初恋という言葉を聞いて若干放心状態になった僕は梓さんににやにや笑われながらポアロを飛び出してきた。明日のシフトも既に梓さんに代わってもらったし、問題はない。
キラキラと星が輝く夜。安室は彼女が巻き込まれている事件のことなんか知る由もなく、ただ名前を迎えに行く為だけに車を走らせた。



32.復讐の色に染まった人間
2016.04.17

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