きみがさいごにほしがったもの

コナン、もとい新一は3日前から名前の携帯へ電話を鳴らしていた。その数合計79回。しかし数秒のコール音に続いて耳に届くのは機械の声で、彼女が出てくれることはなかった。

「名前さん…なにやってんだよ……」
「家にも2.3日程帰ってきていないようだ」

工藤邸で沖矢さんの格好をした赤井さんと共に名前を探そうと試みるが、一向に掴めない彼女の足取り。1時間ほど前に高木刑事にも連絡を入れたが、名前さんは無断欠席で警視庁にも赴いていないようで、彼も佐藤刑事と共に彼女の行方を探っているようだった。

「ーーっ!まさか、名前さん…!」
「あぁ。どうやら決着がつきそうだな…」

きらり。昴さんの眼鏡が光る。奥に眠る彼の緑色の瞳が開かれた。

「例の事件の犯人、と…」


* * * *


昨夜から降り続いていた雨は1時間ほど前にあがっていた。見上げれば厚い雲が切れ、澄んだ青い空が顔を出し始める。周りの店の屋根からは水滴が未だに勢いよく地面へ落ちていた。

「降谷さん、お待たせしました」
「…あぁ。ありがとう」

米花町の路地裏で降谷が後輩から受け取ったのは、警視庁の極秘資料。公安は西多摩市強盗殺人事件について、ある有力な情報を手にしていた。それはこの10年間隠されてきたもので、信頼できる後輩の彼に極秘でそれを探してもらっていたのだが。

「なるほど…。やはりそういうことか」

俺がこの資料の存在を知ったのは組織に潜入する2年前の事だった。俺の教育係だった先輩が例の強盗殺人事件について調査していたこともあり、彼がそれを探していることを知った。しかしその彼は俺が潜入捜査を始めた頃に正体不明の男に射殺され、殉職。先日倉庫で見つけたメモには彼からの遺言が書かれていて、それにこの極秘資料の在り処が記載されていたのだ。

「降谷さん、乗り込む気なら…」
「あぁ。大丈夫だよ。念には念を…だろ?」
「え、えぇ…」

色々な人の手助けのお陰で大事な人を救えるかもしれない。後輩の肩をポンと叩いて、路地を後にする。もう、大切な人を失うなんてごめんだ。降谷はスマホのあるアプリを起動させ、その画面を見て口許に弧を描く。FDに乗り込むと、普段よりも速いスピードで車を発進さた。


* * * *


ポケットの中で携帯のバイブが震えているのを感じてそれを取り出す。画面を見る前にわたしはその電源を切った。名前が居るのはいつかに彼と潜入したホテル。大きなその建物を見上げて名前はふぅ、と溜息を吐く。繁華街から少し離れた位置にあるこのホテルは身を隠すにはちょうど良い。暫くここに滞在する準備を済ませていた名前はエントランスへと入り込み、チェックインを済ませた。
目暮警部だけには伝えてきた今回のこの逃亡劇。10年かけてようやくたどり着けた結末を確かめるために決行した。零さんやコナン君たちから距離を置いたのも、彼らに被害が加えられないようにするため。私が生きていることがバレれば、その時点で色々まずいことになってしまう。おそらく、たのおばさんも殺される立場になってしまうだろう。
わたしのために用意された部屋で準備を済ませた私は地下へ向かう。さっき言った、このホテルに身を隠す理由にはもう一つ訳があった。私は物音を立てないよう、慎重に慎重に足を進めていく。

「……こんなところでなにをしているんだい?」

背後から聞こえたその声に名前の身体がピクリと動く。名前は息を吐いてからまるでその声の主がここに来ることを知っていたかのように口を開いた。

「…お久しぶりですね」

くるっと体を回転させて後ろを向く。そして、2メートルほど離れた位置に立つ男の脚を視界に捉えた。

「このホテルのオーナーでもあり、元組織の一員…」

名前を取り巻く空気が恐ろしいほどに殺気を帯びる。閉じていた目を開き、その視線を男へと向けた。

「そして、西多摩市強盗殺人事件の主犯だった」

視界に捉えた男。その顔を見て私の血液が頭に上っていく感覚を覚える。殺気は名前から放たれていた。

「……岳本武蔵さん?」

ニヤッと、男の口許が歪んだ。



29.きみがさいごにほしがったもの
title by ジャベリン

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