殺せもしないナイフだけ持って

昨日の敵は今日の友という言葉があるが、今、私の置かれている状況は、昨日の友は今日の敵、である。何が悲しくて博士の家で小学生に拉致されているのだろうか。

「なにがどうなってんのか、全部吐いてもらおうか」
「貴方、仮にも小学1年生でしょう。言葉遣いをなんとかしなさい」
「俺は真面目に聞いてんだよ!!」
「……まったく…」

一向に譲らない両者だったが、ついに私は折れた。まあ、あれだけ協力して貰っておいて、私はベルモットのように"A secret makes a woman woman"なんて言える訳もなく。仕方なしにここ最近の出来事を、眼鏡少年と、赤みがかった茶髪の少女と、気の良さそうなおじさんに説明する。淡々と話す私に対して、3人の顔は徐々に曇っていった。

「ーーってわけ。まあ、ほとんどは察していたでしょうけど」
「でも、あなたが無事で本当に良かったわ」
「そうじゃのぉ…。生きていたのが奇跡ぐらいじゃわい」
「いや、奇跡じゃないよ。…だろ?名前さん」

キラリ。眼鏡を光らせるコナン君にそう言われた私は、彼と同じように口許に弧を描く。悪戯っ子の笑みは、毎度おなじみと言ったところだろう。

「ほんっと、名探偵には敵わないわね」

不敵に笑う2人に対して、眉をひそめる博士と哀ちゃん。どういうことよ、と声を発した哀ちゃんに対して、私も口を開いた。

「…田之倉は、私を殺す気は無かったのよ」
「「え?」」

きょとんとした顔の2人を前に、私とコナンくんの口角は徐々に上がって行く。ドヤ顔で推理をし始めるコナンくんの横で、私はあの時のことを思い出していたーー。


「…さぁ。そろそろお別れの時間ね。家族のところへ逝かせてあげる」


たのおばさんが私へ向けたトカレフ。後頭部に押し付けられたそれは、どう足掻いても避ける事はできない。覚悟を決めようと目を閉じたその時、後ろで、彼女がぼそりと呟いた。

「ーー苗字さん……」

それが、私の父親の事だということは、すぐに理解した。彼女の視線の先、つまり、私の視界の延長線には、父の写真が飾ってあったからだ。組織の人間が、写真に収まる事は避けるべき事であったが、2人が亡くなった後、私がボスに頼んで、ここに飾ってもらうようお願いしたのだ。それを、たのおばさんは苦しげな声を発しながら、見ていた。
カチャリ。音の感覚で、標準が、私の後頭部から、心臓へ向けられたことを察した私は、彼女の手が震えている様子を目に浮かべた。
ーー大丈夫。心臓に当たらなければ、きっと助かる。
ふぅ、と、深呼吸をした私は、ぎこちない笑みで目の前の零さんに向かって口を開いた。この人の弾なら避けられると、本能が察知したからだ。大きく開かれた彼の瞳を視界にとらえた直後、私の胸に焼けるような痛みが走り、私は意識を手離した。そして、病院で目が覚めたというわけだ。
何故彼女があの時動揺したのか、それは一昔前の私なら絶対に理解できない理由だっただろう。しかし、今の私は違う。あの人と出会ったことで、彼女の気持ちを少し。少しだけど理解できる。すうっと息を吸って吐く。コナン君が2人へ私の代わりに説明を終えてくれたところで、私は博士の家を後にする。今日は安室さんはポアロのバイトがあるので、この時間、家にはいない。私はスーパーで夕飯の買い物、文房具屋さんで便箋と封筒を購入して、ある決意を胸に、自宅へ戻った。



27.殺せもしないナイフだけ持って
title by ジャベリン
2016.03.29

BACK

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -