「これか…」
地下にある資料室。やっと見つけた埃まみれのそれは、マル秘マークの付いた重要書類。この資料室は、公安の人間のみが知る場所で、ここに隠されていたこの資料は、彼女が探し求めているピースを埋める可能性が、大いにあるものだ。
「(注射器についての記述……)」
彼女が現場で言っていた、"注射器"というワードに引っかかり、ここへ来てみたが、めぼしい情報は出てこない。やはり、一筋縄では行かないようだ。
そして、病室で聞きそびれてしまった彼女の意味深な発言。
ーー彼女は僕に何を言おうとしていたのだろうか…。
安室は、机の上に広げていた資料を一通り眺めながら、眉を寄せる。大した情報も出てこなかったので、その資料を戻そうと、椅子から腰を上げたその時、ひらり。と、資料の中から1枚のメモが舞い落ちた。
「っ!これは…!」
* * * *
「じゃあ苗字さん。必ず3日後に検査を受けに来てくださいね。それが退院を早める条件ですから」
「えぇ。我儘を聞いて頂いてありがとうございます。短い間でしたが、お世話になりました」
きっちり、お世話になった看護師さんに頭を下げてから、迎えに来てくれたジンの車に乗り込む。本当は安室さんが迎えに来てくれるはずだったのだけど、どうしても外せない用事が入ったとかで、代わりにジンたちが来てくれたのだ。キャリーバックは既にウォッカが運んでくれていたので、そのまま後部座席に座る。トランクに荷物を詰め込んだウォッカが運転席に戻ってきてから、ようやく車が進み出した。
「名前。無事で何よりだったな」
「ありがとう、ウォッカ。入院中の差し入れのスコーンも、とっても美味しかったわ」
「フンッ…。運が良かっただけだろう」
「私はまだ死ねないってことなの」
タバコを咥えながら話すジンに向かって頬を膨らませば、再び鼻で笑われる。何こいつ。超むかつく。
「…それで、どういう風の吹き回しで、ジンが迎えになんて来てくれたのよ」
「その答えは、オメェが1番よくわかってるんじゃねぇか?」
そう言われ、バックミラー越しに、ニヤッと笑うジンと目が合う。それを見て、私の口許も彼と同じように緩んだ。そう。私にはジンに聞きたいことがあったのだ。
「田之倉ってあのおばさん、組織の人間でしょう?」
腕を組みながら、確信めいた口調で話す名前。その姿を見たウォッカは、黙り込むジンをちらっと盗み見る。名前はそれを見逃さなかった。
「その様子じゃ、差し詰め組織に潜り込んでたスパイ…ってところかしら?」
口許に弧を描く名前。ジンは眉を寄せ、チッ、と、舌打ちをすると、ようやく口を開いた。
「わかってんならわざわざ聞くんじゃねぇ」
そういったジンから語られた真実は、私の頭の中のパズルを埋める、1つのピースとなった。
*
25.僕らがひとつずつの存在になるとき
title by ジャベリン
2016.03.11
ウォッカはバレンタイン企画でクッキー作っちゃったりしたから、私の中ですごい女子力高いんだと思う…。そういう設定。
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