貴方のつよさが時々さみしい

「ん…もう朝か……」
「おはよ、零さん」
「あぁ、おは…………」
「…お化けでも見たような顔しないでくれる?」

呼吸器を付けていてもわかるくらいにムッとする名前を見て、安室は震える手を彼女の頬に添える。
ーー全く。君はいつもそうやって僕の隣に帰ってきてくれるんだ。
昨晩のうちに、一般病棟の個室に移された名前。入室許可を得ていた安室は、コナンや世良を見送ってから、名前のベッドに顔を突っ伏して寝ていたようで、顔に服の跡が付いている。
名前は安室がしたのと同じようにシワのついた彼の頬に、ゆっくりと手を添えた。

「…戻ってこないかと思った」
「大丈夫、って、言ったじゃない」
「そんなのわからないじゃないか」
「…私はまだ死ねないもの」

にっこり笑う名前を見て、安室は彼女の手を握り締める。そして、それを自分の額に当て、目を閉じた。安室の震える肩が見えた名前は、空いている方の手でそっと彼の頭を撫でる。麻酔が回ってるから傷口はそんなに痛まないけど、身体を動かすことが辛い。だけど今、彼に触れていたかった。そう思った身体は勝手に動いてしまう。
ーーああ、私、やっぱりこの人のこと…。

「無事でよかった」
「生きててくれてよかった」

重なった声。顔を見合わせて笑う2人。安室は名前の寝ているベッドに片膝をつき、名前の躰が痛まないよう、ふんわりとその躰を抱きしめた。

「…零さん、そろそろ離して」
「やだ。あと少し…」
「…もう……」

子供が縋るように私を抱きしめる安室さん。そんな彼の普段とは一変した姿を見れば、どれだけ私を心配してくれていたかがわかって、自分でもわかるほど優しい笑みが溢れる。
安室は名前の温もり、匂い、声、柔らかい髪の毛。すべてを感じて漸く彼女無事を確認する。

「名前、守れなくてごめ…」

ごめん、そう言おうとすると、ゆっくりとしか動かせない様子の名前の手が、優しく自分の唇に当てられた。

「…どうしてあなたが謝るのよ」
「だって…」
「私が挑発したのよ、零さんのせいじゃないわ。…それに、あの人が私を殺せないこともわかってたし」
「え?」

どういうことだい。そう聞こうとした時、ゴホンッ、という咳払いが聞こえ、ハッ、と、名前から離れてドアの方へ視線を向ける。そこには担当のドクターと、阿笠博士率いる少年探偵団が顔を紅らめて立っていた。

「…安室さん。彼女が目覚めたなら、ナースコール押してくださいよ」

あわあわする少年達に、手を口許に当て、キラキラした目でこちらを見る少女。
苦笑いを零して、すみません、と、ドクターに謝り、彼女の容態について説明する。
その間に、子供達は、名前のいるベッドの周りに駆け寄って、何やら楽しそうに会話を始めていた。



2016.03.03
24.貴方のつよさが時々さみしい
title by ジャベリン

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