ポケットにせかいをとじこめて

「名前さん!」
「コナンくん…」
「えっ、あ、安室のにーちゃん…」
「おい!本当なのか?!名前さんが撃たれたって…」
「…あぁ。見ての通りだよ」

ガラス張りの小部屋の中。色々な機械に繋がれて目を閉じている名前の命が助かる可能性は、五分五分だと医師が言っていた。即死じゃなかったのは、体内に入り込んだ弾丸が奇跡的に止血の役目を果たしてくれたから。しかし、静脈が傷付いているので危険な状態には変わりないようだった。医師や看護師以外、病室に入ることを許されていないため、触れられないのがもどかしい。佐藤刑事から名前が撃たれたという事を聞きつけてやってきたコナンと世良はグッと眉を寄せ、名前の弱々しい姿を見て口を開いた。

「…何でこんなことになってんだよ。アンタ、名前さんの側についてたんだろ?」
「……」
「何とか言えよ!!」
「世良のねーちゃん、落ち着いて。ここ、病院だよ」

安室の胸ぐらを掴んだ世良を宥めるコナン。重い沈黙が続いているそこへ、佐藤刑事と高木刑事が駆け付けた。

「名前の容態は?」
「……助かるかは五分五分だそうです」
「そんな…名前さん…」

その場にいる全員がグッと息を飲んで、隔りの向こうにいる名前を見つめる。
いまにも泣きそうな顔をしている世良、佐藤。そんな佐藤を、困った顔をしながら支える高木。何かを考えるような顔をするコナン。安室は白くなるほどに拳を強く握り締めている。その手には名前の血液がまだ残っていた。
ーーこんなにも君を心配してくれる人がいるんだ。名前。戻ってきて。またいつものように、僕の隣で笑って。

「…名前……」

ここから呼んだって、聞こえるはずのない彼女の名前を呼んで、安室は名前の痛々しい姿を見つめる。どんどん無くなっていく名前の体温を感じた時、彼女との生活がフラッシュバックして安室を襲った。名前がお風呂でのぼせて倒れた時のあの熱さと、全く違う先程の体温を思い出して、震えが止まらない。
今まで大切な人の死に立ち会った事が無いわけじゃないが、こんなにも失いたくないと思ったのは初めてで。溢れる血液の量に比例して冷たくなる躰、何度呼びかけても目を開けない名前を前にして、何も出来ない自分が悔しくて堪らなかった。非力な自分への苛立ち、彼女の変わり果てた姿を見て視界に広がる涙。安室はガラスの隔たりに凭れながら崩れ落ちる。そんな彼の普段とは別人と言えるほど弱々しい姿を見て、コナンだけではなく、そこに居た全員が察した。
ーーこの人、本当に彼女の事…。
個々が様々な感情を浮かべながら俯く。
そんな中、安室はゆっくりと立ち上がって再び隔たりの向こうに横たわる名前の姿を見つめた。
ーー会いたい。あの笑顔でいつものように戻ってきてほしい。

「…名前、お願いだから戻ってきてくれ…」

そう言ってグッと安室が目を強く閉じた瞬間、名前の指が、小さく、ピクリ、と動いた。



23.ポケットにせかいをとじこめて
title by ジャベリン
2016.02.27

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