いつから終わりを予想していた

「それで、何か情報は掴んでるのかい?」
「まあ、あるにはあるんだけど、今日は少し確かめたいことがあるのよ」
「確かめたいこと?」
「えぇ。私が両親の遺体を発見した時と当時のテレビ映像とで、何かこう、違和感を感じたのよ。それが何なのか、行けばわかると思うんだけど…」

"違和感"
それは10年前、両親の遺体を発見した時に感じたもの。いつもなら絶対に家に無いような、そんな物が、あの時、あそこにあった。それに気付いたのは事件発生から3年経ったある日の事。在米中にネットで見た事件のニュースによってそれは違和感から疑問に変わった。事件当時は本当に記憶が曖昧で分からなかったが、日にちが経つにつれて、フラッシュバックのように当時の現場の状況が蘇ってきた。悪夢のようにうなされる日もあったくらいに。

「ここよ」
「…本当に事件当時のままなんだね」
「えぇ。近所の人達は、みんな引っ越したと聞いているわ」

閑散とした地域にぽつんと建つ小さな民家。玄関には鍵がかかっているが、窓ガラスが割られていて、そこから見える家の中は荒らされたままだ。2人はその窓を跨いで中に入った。

「学校から帰ってきて、部屋に入った瞬間に鼻につく嫌な臭いがしたわ。それでここに両親が倒れているのを見つけたのよ」

淡々とした声で話す名前はどこか遠い所を見ているようで、そばにいるのにいないような気がした。本人は気付いていないようだが、フルフルと、少し躰も震えてる。僕は彼女の肩に自分のジャケットをかけ、小さな彼女の肩をふわりと抱く。

「…大丈夫かい?」
「平気よ。心配しないで」

にこり。小さく微笑んだ彼女の顔は、やはりまだ過去に囚われた少女のものだった。

「それで、違和感の正体はわかったのかい?」
「えぇ。確か、この辺に…」

キョロキョロと床を見ていた彼女は、ある一点で立ち止まる。つられて自分でもそこを見てみるが、そこには何もない。何もないみたいだね、と言って名前の顔を覗けば、彼女はいつかに殺人現場で見たときと同じ、刑事の顔をしていた。

「……注射器」
「え?」
「あの日、ここに注射器が落ちてた…。そうよ。確かにここにあったわ」
「注射器?」

怪訝な顔をする安室に対して、どうして今まで気づかなかったの、と悔しそうな顔を浮かべる名前。名前はそれを思い出した瞬間に、コナンとの会話のピースが1つ埋まったことに気が付き、口を開く。

「知り合いが調査してくれたおかげで、10年間見せてもらえなかった両親の司法解剖の結果を見ることができたの。少量だけど睡眠薬を摂取した跡があったわ」
「なるほど。犯人がその注射器で、ということか…。でも、何故睡眠薬を入れる必要があったんだ?」
「多分…」
「あら?名前ちゃん?」

話の途中でいきなり聞こえた声にはっ、と後ろを振り返れば、玄関と居間の間の扉に手を掛けた50代後半とみられる女の人がいて首をかしげる。
ーーわたし、こんな人知ってたっけ…?

「えっと…」
「隣に住んでた田之倉よ。覚えてない?」
「…たのおばさん…?」

覚えていてくれたのね、といいながらニコッと人のいい笑顔を見せるたのおばさん。私はその笑顔を見ても彼女のことを名前しか思い出せず、記憶が曖昧で名前しか覚えていないということを彼女に説明する。そして安室さんにも挨拶をするたのおばさんを見た彼は、何故か血相を変えて、私の腕を掴んだ。

「あ、安室さん…?どうし…」
「いいから、はやく!」
「ちょっ…」

いきなりのことでバランスを崩した私はその場に倒れこむ。私よりも前を歩いて、割れた窓ガラスに向かおうとしていた安室さんは、瞬時に私の躰を抱き起こし、また歩みだそうとするが、カチャリ、という音が聞こえて私たちの動きが止まった。

「どうしたの?怖い顔して」
「……た、のおばさ…」
「名前ちゃんの連れの人、名前ちゃんよりも勘が鋭いのね」

機械的な音を発した物は私の後頭部に押し付けられていて、安室さんは私の右腕を掴みながら後ろにいるたのおばさんを睨みつけている。
ーー考えてみれば、開くはずのない玄関の前にこの人がいたのはおかしいし、引っ越したはずのこの人がここにいるのもおかしい。
瞬時に事を悟った安室は、ぐっと唇を噛みながら名前の腕を掴む手に力を込める。

「どうして…」
「ある人にここの監視を頼まれていたのよ」
「っ…!」
「さぁ。この事件から手を引くか、ご両親のところに逝くか、どっちがいいかしら、苗字名前刑事?」

田之倉は口許に弧を描きながら、名前の後頭部に押し付けたトカレフのセーフティを外した。



21.いつから終わりを予想していた
title by moss
2016.02.26

BACK

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -