とりあえず手を繋ぐことから始めようか

合コンは意外と楽しめた。相手の大学生達も私からすれば餓鬼だけど、イケメンの部類に入る人たちだったし。カラオケなんて久しぶりで、たまにはみんなとワイワイするのも悪くないわね。なんて思ったくらいだ。まあ年下に名前ちゃん、なんて呼ばれて、敬語を使わなきゃいけないという理不尽な状況に何度も腹を立てたが。今回の合コンを蘭ちゃんと園子ちゃんは、「中々帰ってこない工藤君と京極さんを嫉妬させちゃおう会」と名付けていた。26歳には到底理解不能な乙女の世界である。

「いやー!楽しかったね!みんな、送っていくよ」
「え…いいんですか?」
「お願いしちゃおうよ!」
「じゃあ2人だけ送ってあげてください。私は家遠いので結構です」
「え、名前ちゃん家どこなの?」
「もう遅いし俺が送…」
「彼女は僕が連れて帰るので結構です」

カラオケを出て、めんどくさいことになる前になんとか1人で帰ろうと口を開けば、後方から知った声が聞こえて動きが止まる。まさかとは思いながらも、その声の方を振り返ると、そこにはものすごい笑顔なのにものすごく怖い顔の安室が立っていた。
ーー最悪。制服姿見られた。

「なんでここに…」
「君が心配で迎えに来たんだよ。ほら、帰ろう。今日は名前の好きなクリームシチューを作ろうと思ってるんだ」
「ちょ、ちょっと、ここでそういう話…」
「え!名前さん、安室さんと?!」
「嘘!まじで?!」

ナイスタイミングで来てくれたけど、余計なことまで言わないでくれ、と、内心涙を流す。そして私は、この場をなんとか乗り切ろうと言葉を探した。しかし、監視のために一緒に住んでるなんて言えるはずもないのでなかなか言い訳が見つからない。さて、どうしたものか。私が彼女達の言葉を否定できないのをいいことに、安室さんはアタフタする私の肩を抱き始める。そして自分の腕の中へ私を閉じ込めて、ちゅっ、と、みんなに見せつけるよう、私の頬に唇を落とした。

「えぇ。蘭さん達のご察しの通りですよ。……ところで、君たちは…」
「あ、いえ、その…じゃ、じゃあな、園子ちゃん!また連絡するよ!」

安室さんの大胆な行為を見て照れてしまった彼らは、その後安室さんが見せたブリザード級の冷たい無言の圧力によってそそくさと帰ってしまった。優男喫茶店探偵のキャラも崩壊寸前である。そして、この状況に照れてしまったのは彼らだけでは無く、目の前のJK2人と、いつの間にか蘭ちゃんと手を繋いでいる存在感ゼロだったコナン君もだ。3人とも顔を真っ赤にしてこっちを見ている。
ーー安室さん、そろそろ離して。

「ご、ごめんなさい安室さん!!私達その…何も知らなくて……名前さんに代わりに出てもらおうってなって…それで…」
「いいんですよ、蘭さん。彼女は僕に夢中ですから、全く心配ないですし…。まあ、これから誘わないで頂ければ。ね?名前」
「…え、ええ……」
「なによ!超ラブラブじゃない!!!ていうか、名前さんも彼氏できたなら報告してよね!!」
「まあ、お二人のお陰で名前の制服姿も見れたことですし、今回はこれでチャラということにしましょう」

安室さんが普段の優しい笑顔で私の頭を撫で始める。
ーーこいつ、絶対に調子乗ってるわ。
それを見てさらに顔を赤くした未成年達は、あわあわと口を開く。

「本当にすいませんでした…名前さん、今度話聞かせてくださいね!では、邪魔者はこれで失礼します!」
「名前さん、お幸せに!」
「あ、安室のにーちゃんと名前さん、またね!」

手を振りながら嵐の様に帰ってゆく3人の後ろ姿を暫くぼーっと見つめる。何故こうなってしまったのだろうか。本当なら蘭と園子の恋愛相談を聞くだけだったのに、いつの間にか女子高生のコスプレをさせられ、合コンに連れていかれ、安室さんの彼女だと勘違いされて…。厄日だわ。これを厄日と言わないでなんというのよ。
ーー疲れた。仕事よりも疲れた。
身体に力が入らなくなってしまった私は、未だに私を抱きしめていた安室さんに凭れながら安室さんの車に向かった。

「…随分なコスプレだな」
「ほおっておいて。早く帰ってクリームシチュー食べたい」
「可愛くないな。褒めてるのに」

車に入り、助手席に座ってはぁ、と、息を吐いた名前のスカートから覗く、すらっとした白い脚の上に自分のジャケットをかけてやると、安室は車を発進させる。暫くすると名前の方から小さな声が聞こえてきて、安室は耳を傾けた。

「…………り…と…」
「え?」

運転しながら彼女をチラッと見ると、女子高生姿の彼女は安室を気まずそうに見つめていた。どうしたものかと思っていると、彼女は小さく、でも、しっかりと口を開いた。

「…迎えに来てくれてありがと。零さん」
「ーーっ、」

そう言った彼女は恥ずかしそうに微笑み、膝にかけられた安室のジャケットを掴んでそっと目を閉じた。その姿は、本当にただ無垢で純粋な女子高生のようだった。



17.とりあえず手を繋ぐことから始めようか
title by 金星
2016.02.01

おまけ コナン君との車の中

「…ここも違うか……」
「そもそも今時喫茶店で合コンなんてするのかなぁ?」
「え、合コンといえば喫茶店じゃないのかい?」
「...ぼ、ぼくにわかるわけないよ!(何年前の話してんだ…?)」
「こんな事になるなら普段から発信機でもつけておくべきだったな…」
「(おい公安)」

夢主たちを探すために3時間も車を走らせた安室さんとコナン君。安室さんは今時の合コンの定義わかってなくて喫茶店ばっか探し回ってた。だって安室さん29歳なんだもん。
やっと見つけたのはカラオケ前の広場。間に合って(?)よかったね、安室さん。




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