ノーザンライツよどうか輝け

「名前。紅茶とコーヒーどっちにする?」
「んー、紅茶の気分、かなぁ」
「わかった。アッサムでいいかい?」
「えぇ。ありがとう」

安室という監視役が名前の家に来てから2ヶ月が過ぎた。この頃になると、数週間前には面々に出していた彼への敵意も薄らいで、今では行ってきますやお帰りなさいはもちろん、おはようからおやすみまで言いあうようになっていた。彼女曰く、まだ完全に信じきったわけではない、との事らしいが。安室の方はというと、彼女の前で"安室透"の仮面を取り繕うことなく生活するほど彼女に気を許していた。彼女と家の中で2人きりの時は、降谷零として彼女の側にいる。いや、そうで居たい、という方が正しいのだろうか。
本来の目的「監視という名の護衛役」も、しっかりと果たしていた。彼女が誰かから尾行されたり、監視されているのは確かなようだ。2人でデパートへ買い出しに行ったある日、物陰に潜みながら彼女を睨みつける輩を見つけ、その日から安室は念のために彼女を警視庁の前まで車で迎えに行っている。彼女は例の事件を調べようにも、アクションを起こすことができない状況にいるらしい。警視庁内でも目立たないように、射撃や推理力を隠して行動していると言っていた。そんな彼女を安室は何とかしてあげたいと思っていたが、彼女が何かを頼んでくるまで例の事件のことは知らぬ存ぜぬを通すことに決めていたので、余計な口出しはできなかった。

「そうだ。今日の迎えは結構よ」
「何かあるのかい?」
「えぇ…ちょっと、女子会に誘われてるのよ」
「女子会?」
「そ。知り合いの女子高生たちとね」
「あんまり遅くなるようなら迎えに行くけど…」
「大丈夫よ、米花町内だし。気持ちだけありがたく受け取っておくわ」
「そうかい。何かあったら連絡してくれ。すぐに行くから」
「…過保護ね。貴方、監視役じゃなくてボディガードのようだわ」

むすっと頬を膨らましながら目の前で朝食のパンを頬張る彼女はリスのようで、思わず笑いが込み上げる。安室はそんなこんなでいつもより少し機嫌の悪い彼女を、いつも通りの優しい笑顔で見送った。もう日課になってきたこの毎日が、ただ平和に過ぎてゆくことに安室はどこか不安を感じていた。


* * * *


「……ねぇ。これはどういうことなの」

名前は困惑していた。
自分の置かれている状況を飲み込めず、目の前の鏡に映る自分を見つめる。

「よし。予想通りね」
「本当!名前さん、とっても似合ってる!」

一緒に鏡に写る2人は私を真ん中にして、キラキラした瞳で鏡の中の私を見ていた。
大人の女に恋愛相談に乗ってほしい、とのことで園子ちゃんと蘭ちゃんに呼び出された私は、定時に仕事を引き上げて毛利探偵事務所にお邪魔していた。ところが事務所に着くなり3階の蘭ちゃんの部屋に連行され、あれよあれよといううちに着ていたスーツを脱がされてしまった。ーーこれ、JKじゃなかったら犯罪よ。
しかし、問題はそこじゃない。その後私に着せられた服だ。ボタンが2.3個開いた白いワイシャツの上には、緩く結ばれたネクタイ。白いカーディガンをはおり、膝上20センチほどの超ミニスカートをはかされた私は、まさにJKである。名前さん、ほとんどすっぴんでそんなに綺麗なの?!本当に26歳?!、何て言われながら、メイクまでさせられる始末。鏡に映る自分は17歳の彼女たちと何ら変わらないJKだ。もしかしたら現役の2人よりも着こなしてるんじゃないか、なんて思ってしまう。
そんなことより私は一体どうしてこんな格好をさせられているのだろうか。

「さあ名前さん。いざ、出陣よ!」
「しゅ、出陣ってどこに連れて行く気よ…」

園子、張り切りすぎ…と、あきれる蘭ちゃんの横で、園子ちゃんは右手の人差し指を立て、自分の唇に当てると、ウインクをしながら語尾にハートマークをつけて言った。

「決まってるじゃない。合コンよ!合コン!」



15.ノーザンライツよどうか輝け
title by ジャベリン
2016.01.31

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