五秒だけでいい、ぼくに集中してくれないか

「へぇ、名前さんと言うんですか。純白の似合うあなたにふさわしい名前だ」
「まぁ、お上手だこと」

ベルモットからもらったドレスを纏った名前は、安室の作戦通りに対象であるこのホテルのオーナーと接触していた。
ベルモットが彼女に送ったのは真っ白なレース地の膝丈ドレスだった。胸とスカートの部分以外はただレースを纏っているだけの透けた生地で、首の後ろで止められたそれは大胆に背中が露出され、警察がこんな格好してもいいのか。と、自問を繰り返してしまう程セクシーかつ可愛らしいデザインだ。ちなみに安室は彼女のドレス姿を見ると、顔を真っ赤にしながら「て、手筈通りにお願いしますよ!」と声を荒げ、せかせかと部屋を出て行ってしまった。あの安室が照れて動揺するなんてさすがはベルモットである。


ーーいいですか?貴方が対象の気を引いている間に、僕が周辺を探ります。絶対に危険なことや無茶はしないでください。今日はあくまで情報を探るだけ、ですから。



エレベーターの中で話した作戦は本当に大まかであったが、どうせなら決定的な証拠を抑えるべきだ。と、考えた私は、安室さんに余計なことはするな。と、言われた身分ではあったが、この男の部屋へ潜り込もうと考えていた。シャンパンを片手に、40代後半と思われるこの豪華ホテルのオーナーと会話を楽しんでいるように演じる私は、そのタイミングを見計らう。
ーーこれでも刑事。何かあったって、自分の身ぐらい自分で守れるんだから。
お酒も入り、気の良くなった男が名前の腰に手を回し始めたところで、名前はようやく行動に出た。

「なんだか酔ってしまったみたいだわ…。ごめんなさい。そろそろ部屋に戻ってもよろしいかしら?」
「おや、本当だ。足がおぼついているじゃないか。君に何かあったら大変だ。部屋はどこだい?私が送り届けよう」
「お気遣いありがとう。頼もしいナイトがいてくれたら私も安心だわ。部屋番号は……あら?鍵が……落としてしまったのかしら…」
「無いのかい?それなら私の部屋で休むといい。今日はスイートに泊まる予定だったからね。特別に君に貸そうじゃないか」
「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。本当に何から何までごめんなさいね」
「いやいや。君のような美人を放っておくことはできないさ」

ーーよし、成功。
このまま部屋に入って、ハンドバックの中にある阿笠博士に作ってもらった腕時計型麻酔銃を彼に打ち込めば、何らかの情報は掴めるだろう。安室に恩を売れば名前も彼に色んなことを頼みやすくなる。だから彼女はこのような手段をとったのだ。このオーナーも犯罪に手を染めた悪人。警察の彼女が組織に手を貸してもこの程度なら許されるだろうと、潜入捜査気分にウキウキする彼女は、とうの昔に安室との約束を忘れてしまっていた。


* * * * *


「て、手筈通りにお願いしますよ!」

バタン!と、勢い良くドアを閉めて廊下に出た安室は、バクバクと音を立てる自分の心臓に戸惑っていた。
ーーベルモットめ。あんな露出の多い服を彼女に着させるなんて…。
ハァ…と、盛大なため息を吐いた安室はぶんぶんと頭を振り、脳裏に焼き付いた名前の純白のワンピース姿の残像を揉み消した。

「へぇ、名前さんと言うんですか。純白の似合うあなたにふさわしい名前だ」
「まぁ、お上手だこと」

スピーカーから聞こえるのは名前とあの男の声。安室は対象が彼女に気を取られている隙に、地下のセキュリティセンターへ入ろうと考えていた。
ーー馬鹿な男だ。彼女は純白なんかじゃ無いぞ。グレー…いや、腹黒だ。
ふふふ、と、名前の笑い声がスピーカー独特のズズッ、という音と共に耳に入り、それが彼女の演技だと分かっていても自分の機嫌が悪くなるのを感じた安室は、とっとと終わらせて早く彼女を連れ去ろうと決め、いざ出動。……しかし、セキュリティセンターの入り口は警備員が5.6人体制で固めていた。事を起こすことのできない安室は、しばらく様子を見よう。と、物陰に潜む。

「それなら私の部屋で休むといい。今日はスイートに泊まる予定だったからね。特別に君に貸そうじゃないか」
「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。本当に何から何までごめんなさいね」
「いやいや。君のような美人を放っておくことはできないさ」

ところがその時聞こえた声に、気がつけば安室は踵を返して階段を駆け上がっていた。
ーーったく。危険なことはするなと言ったのに、何を考えているんだ。
安室は汗ばんだ拳をぐっと握りしめ、彼女の元へと走り出した。



13.五秒だけでいい、ぼくに集中してくれないか
title by moss
2016.01.30

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