さきに死んだほうが負けよ

「…もしもし」
「やぁ、名前。久しぶりだな」
「…私、幽霊から連絡が来るようなオカルト、信じてないんだけど?」
「フッ。お前のその性格も相変わらず、といったところだな」

非通知の連絡は、FBI捜査官、赤井秀一からのものだった。しかし彼は3ヶ月ほど前に、組織に潜入しているCIA局員によってあの世に送られた筈。赤井とは彼が組織に潜入していた頃からの知り合いである。お互いを探るために一夜を過ごしたこともあったくらいの仲だ。まあ彼も私も口を割らなかったけど。
アメリカ留学中に腕を買われてFBIにスカウトされた私は、日本に戻ってからも組織とFBIの双方から図々しいほどの勧誘を受けていた。それもあってどちらかというとこの男は苦手な部類に入る(しつこくて怖かった)。結局私はどちらにも寝返らなかったのだけど。

「やっぱり図太く生きてたのね。赤井さん?」

ーーまぁ、おおよその見当はついていたけどね。
"彼ら"のからくりにはなんとなく気が付いていた。赤井秀一が死んだあと、少年の周りに現れたあの人と赤井の仕草にどこか共通点を覚えていた私は、2人が同一人物であることを仮説立てていたが、どうやらそれはたった今答えあわせができる状態になってしまったらしい。
ーーやっぱり私って天才。

「で?要件は何なのよ」
「あぁ。お前が今、バーボンと一緒に住んでいると坊やに聞いてな…そっちの生活はどうだ?」
「…特に何もないわよ。彼は貴方のように出逢ったその日に私を喰べちゃう様な躾の悪い"犬"じゃないし」
「ホゥ…言ってくれるじゃないか。お前だってあの夜は普段からは予想もできないほど恍惚とした表情を浮かべていただろう?」
「さぁ。なんのことかしら?」

電話の向こうで彼がクツクツと笑うのが聞こえる。こんなことを言うために電話をかけて来るとは、FBIもただの暇人である。仕事をしろ、仕事を。用がないなら切るわよ、と言い捨てれば、彼はそんな私をまじめな声色で制した。

「お前があの坊やに頼んでいた資料だが…子供の力だけじゃどうにもできない、と相談されてな。俺が手を貸した。きっと明日にでも坊やが資料を持って警視庁に出向くだろう」
「…さすがはシルバーブレット。頼りになるわね」
「お前…子供にあんなことを頼むなんて、一体何を考えている?」
「子供かどうかなんて問題じゃないわ。彼の頭脳は貴方がよく知ってる筈じゃないのかしら?」
「フッ…そうだ、な…」

コナン君に頼んでいたのは、あることについて調べておいてほしい、と言うことだった。私が動くとまた命を落としかねないので、コナンくんに頼んでいたのだが。私は多分、庁内でも1位2位を争うくらいの狙撃術を持ち備えてるし、コナンくんの推理なんて用無しよ。ってくらいの推理力も持ってる。しかし、目立てば目立つほどいざという時に動きにくくなる私はそれらを隠して生活していた。私は例の件のために刑事になったのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

「それからー…」

しばらくの沈黙の後、赤井は再び口を開く。

「お前、奴のことを"犬"と言っていたが…調べたのか」
「それを貴方に言う必要はないと思うけど?」
「名前。わかっているだろうが…」
「えぇ、大丈夫よ、赤井さん。分かってる」

思い出す、パソコンに表示された"公安警察"の文字。彼等が私の追っている事件に関わっているということは間違いない。だが、直接あの事件に関わっているわけではないのだ。言い方からして、安室さんの正体を知っている赤井さんは、執念に駆られた私が何か行動を起こすのでは、と、心配しているのだろう。

「ならいいさ。まあ何かあったらいつでもあの家に来てくれ。話くらいなら聞いてやる」
「ふふ。その紳士的な振る舞いは沖矢さんから来るのかしら?」
「……わかっているだろうが、それは口外するなよ。お前ももう自分の周りで血が流れるのを見たくはないだろう?」
「……本当貴方って嫌な男」

喉を鳴らして笑った赤井さんは、資料の礼は来週の夜にでも期待しているぞ、と言って電話を切った。
ーーあのど変態FBIめ。いつか銃刀法違反で捕まえよう。うん。そうしよう。
私は大きなため息を漏らしてから、安室さんとの約束のためにようやく身支度を始めた。



11.さきに死んだほうが負けよ
title by moss
2016.01.29

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