君と僕のスタンス・ドット

カーテンの隙間から漏れる、柔らかい朝日の光に照らされて目を覚ます。まだ重たい瞼を擦る。自分の左腕に重みを感じてそちらを見ると、スヤスヤと気持ちよさそうに僕の腕で眠る彼女。そんな彼女の表情を見て、自分でもわかるくらい優しい笑みが溢れ、彼女の髪の毛に指を通す。すると彼女はそれに応えるかのように僕の胸に頬を擦り寄せた。
彼女が突然倒れたことにはひどく驚いた。まあ原因は分かっていたので彼女を抱えて自分のベッドに寝かせた。部屋の温度を下げて彼女の身体にこもる熱を逃がしてやり、幾分頬の紅色が薄くなったところで布団をかけてあげたのだが。熱に侵された彼女の顔を見たことと、倒れた彼女を持ち上げた時の熱、感触、香り、女性らしい華奢な身体。彼女の全てに身体が支配されたような感覚に陥り、彼女を手離したくない、そう思ってしまった僕は強引に彼女を自分のベッドに寝かせてしまった。
ーーまったく。この僕が監視対象に、出会って一週間でこんな感情を抱いてしまうなんて。

「…本当に貴方は恐ろしい方だ」

朝日に溶け込むように吐き出された自分の言葉は、酷く甘くて優しいものだった。名前の体が熱を導いて、安室は彼女と触れている部分が熱くなるのを感じる。当の本人は楽しい夢でも見ているのだろうか、とても幸せそうな顔で眠っている。こんなに無防備な彼女を見られるのは今日が特別だ。と、自分に言い訳をして、彼女の紅く、ぷるん、とした唇に自分のそれを近付けた。触れるか触れないかのところで自分の唇と彼女の唇が重なった瞬間、それが身体の中で最も高い熱を帯びる。
ーー…いけないな。
大きく深呼吸をして、身体の奥から湧き上がる熱をなんとか落ち着け、じっと彼女の顔を見つめる。彼女は目が覚めたらどんな顔をするのだろうか。 彼女の存在がすでにこんなにも自分を毒づけていることに、僕はまだ気付かない。早く彼女と言葉を交わしたいと思う反面、この甘く穏やかな時間が永遠に続けばいいのに。と、自分にしては甘過ぎるような矛盾を抱えたまま彼女をぎゅっと強く腕の中に閉じ込める。僕は彼女のシャンプーの匂いに誘われるようにまた、夢の中へと堕ちていった。


* * * *


普段と違う布団の温度に、夢と現実の狭間へ導かれる。
ーーあったかい…。
その熱を逃がすまいと、彼女がそれに近寄ると、髪の毛を梳かされる感覚がしてゆっくりと瞼を開ける。
ーーあれ?私、この感覚知ってる…。
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返し、漸くその温度が安室のものだと気付いた名前は、はっと我に返って、彼から距離を取る。と言っても、シングルベッドに2人。頑張っても15センチほどしか離れることができないじゃないか。

「おはようございます、名前」
「お、おはようございます…」

ーーそう言えば、お風呂で逆上せて安室さんに介抱されたんだっけ。
曖昧な記憶を辿りながらも名前は普段よりも近い距離にいる彼に向かって口を開く。

「…昨日は迷惑をかけてごめんなさい」

私がそう言うと、安室さんは私の頭の下敷きになっている腕で、私を自分の方に寄せ、もう大丈夫そうですね。と言って私の額にちゅっ、と、キスを落とした。というかこの人、昨日からスキンシップが激しい気がするのだけど。これでは恋人の戯れである。

「今日は非番でしたよね?」
「…何で知ってるのよ」
「昨日警部と話しているのを小耳に挟んだものでして」

ーーまったく。油断も隙もないわ。
いつもならここで文句の一つや二つを言ってやるところだが、彼女はそれどころじゃないことに気付いてしまった。それなら今日は僕と出掛けましょう、と言い出した安室の言葉を遮るように、安室さん。と、頭上の彼を見上げながら彼を呼ぶ。彼女の行動にきょとん、とした顔をする安室だったが、彼女が自分を見上げている体制…所謂、上目遣いにドキッとしながら彼女に目線を合わせる。そんな安室に気付かずに名前は小声で言葉を発した。

「……お腹すいた…昨日の夜から何も食べてない…」

安室はそんな彼女の言葉に1度目を見開いてから、ふふっと優しく笑って、では昨日買ったホットケーキを焼きましょうか。と言って、最後に彼女の頭を撫でてから、彼女と一緒にキッチンへ向かった。



8.君と僕のスタンス・ドット
title by moss
2016.01.28
※2016.01.31加筆&修正


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