音柱様に恋柱様、とっても力持ちですね

雲ひとつない真っ青な空のもと、その空と同じような色の瞳を持った女性が1人、美しい着物を身に纏って街を訪れていた。
結われた髪の下から覗く白い項がなんとも扇情的で、小さな唇に引かれた紅がその肌の白さを引き立たせる。
行き交う人の目を奪う後ろ姿に吸い込まれるよう、その華奢な肩に手を置いた。

「よっ、名前。街に出てくるたァ珍しいじゃねえの」
「まぁ、宇髄さん!ご無沙汰しております」

まぁご無沙汰じゃねえんだけどな。と、漏れ出そうになった声をすんでのところで飲み込んだ。
時透無一郎と同じ布団で仲良く眠っている彼女の姿を目撃したのは記憶に新しい。正直言うと、アレには派手に驚いた。時透の殺気を感じてそそくさ帰っちまったが、これはなかなか面白い情報を入手したと帰宅後は愛する妻たちといろんな見解を勝手に話し合った。
他の柱連中に言えば次の柱合会議ではド派手な殺し合いが見られるかも知れないと、1人ニヤける口許を抑えきれないまま名前に向き直る。今日も平和を象徴するような柔らかな笑顔だった。

「んで?今日はどうしたってこんな所に?」
「甘露寺さんの診察がございまして。こちらへはお土産の品を求めて参ったのです」
「なるほどなァ。それでこんな大荷物抱えてるって訳だ」

名前の小さな両手から複数の風呂敷を掻っ攫い、右手でそれをひょいと肩に担ぐ。それから左手には名前を抱えこんだ。その身体の羽のような軽さに不安を感じていると、彼女の方からも動揺の声が聞こえてくる。

「う、宇髄さん…!おろしてください…っ、」
「俺がド派手に甘露寺のとこまで連れてってやるぜ、感謝しな!」

腕の中で顔を紅く染めながら鈴の鳴るような声で降参とでも言うように感謝を述べる名前を前に、自身の鼓動が早まったことに気が付いた。
そう言えばこんなに間近で彼女の顔を目にするのは初めてだが、信じられないほど整った顔立ちをしている。そう、この俺様の次に。

そうして暫く走っていれば、その鼓動も元の速さへと戻っていた。目当ての邸が見えて、この柔らかな熱を手放してしまうのを名残惜しく感じている自分には今度こそ気がつかないふりをする。

「ついたぞ。土産は使用人にでも渡しとけ」
「宇髄さん、本当に有難うございました。今度何か御礼の品をお送りさせていただきます」
「おー、楽しみにしてるわ」

ヒラリと片手を振って街への道を戻りながら、あの柔らかな熱を思い出す。
天元は今の柱達を支えているのはあの愛らしい女の存在である思っている。みんなの疲れや荒んだ心を癒し、活力を与える存在。
今なら何となく、霞柱があそこまで彼女に溺れる理由がわかる気がした。それに。

「あんなに可愛い顔見せられたら、礼なんざいらねぇっつうの」

1人髪を掻く天元の言葉を吸い込んだ空は、今も尚、彼女の瞳と同じように美しく澄み切っていた。





△ ▽ △ ▽





「問題ないですね。おでこの傷も痕が残らないと思いますよ」
「うわぁ、よかったぁ!安心したわ〜!」

蜜璃は額の包帯に触れながら肩を撫でおろしつつ、名前のその美しい顔面から目を離すことができずにいた。
同性である自分がこんなにもドキドキしてしまうほど整った顔立ち。柱たちは皆彼女のことをお館様と同じくらい愛しており、蜜璃も例外なく名前の全てが好きだった。

どこか懐かしい柔らかな雰囲気も、鈴の鳴るような優しい声も、彼女の全てを受け入れてくれる抱擁力も、一度触れて仕舞えば毒のように脳をどろどろと溶かされ溺れてしまう。
あの乱暴な不死川や協調性という言葉を知らない冨岡ですら絆されてしまうのだから、どんな血鬼術よりも強い威力なのではないかと、蛇柱に何度も自身の見解を展開していた。

「あの鬼にやられそうになった時、真っ先に名前ちゃんの顔が浮かんだのよ…!んもう、全身痛くって、悔しくって、早く癒されに行きたい〜!って思ったら頑張れちゃったの」
「まあ、嬉しいお言葉。蜜璃さんがお怪我をなさるのは珍しいので心配していたんですよ。大事に至らず本当によかった」

件の上弦の鬼との戦闘は久し振りに劣勢を強いられ、本当に死ぬかと思った。というか痛くて痛くて堪らなかった。
背中を貸してくれた隠の子の脚が遅くて(こんなこと言ってごめんなさい)最終的には彼を抱え、泣きながら羽屋敷へ走ったことは記憶に新しい。
無事でよかったと優しく手当をしてもらいながら、無理して走るのはダメだとちょっぴり怒られもした。思い出しただけで恥ずかしくて汗が止まらない。

「そ、そういえば無一郎くんはもう元気になったのかしら?」
「えぇ。彼なら今も私の屋敷にいらっしゃいますが、もう問題ないですよ。不死川さんと一緒に稽古もなさっております」
「よかったわぁ〜!無一郎くん、名前ちゃんにだけとっても素敵な笑顔見せるから、私キュンキュンしちゃったのよ!」

これは本当のこと。羽屋敷での3日の療養生活は同じ戦いで負傷した無一郎と一緒だった。彼もまた、隠の脚の遅さにネチネチ文句をつけながらやってきたが、驚いたのはその怪我ではなく彼の態度の方。失ったものを取り戻した彼が、見たこともない可愛い笑顔で名前を見つめるものだからついついこちらまで恥ずかしくなってしまった。私は無一郎くんの恋路を心の底から応援している。

「それと…念のためにこちらの薬をお渡しいたします。きっといつか役に立つと思いますよ」
「ありがとう名前ちゃん…!また羽屋敷に行くからお話ししましょうね」
「えぇもちろん。蜜璃さんとお喋りする時間はとっても楽しくて時間を忘れてしまいますわ」

名前の瞳と同じ、澄み切った蒼色の小包を受け取って、それから近くまで無一郎が迎えにきているらしいという彼女を邸の外まで見送った。
1人になった蜜璃は頂いた桜餅をぱくりと頬張る。いつも食べているものと何ら変わりはないはずなのに、甘くて優しい味がして胸の奥がジンと暖たまるのを感じた。

そうして次の日の緊急柱合会議では、彼女にもらった薬のお陰で滝のように滴る冷や汗を一瞬で止めることができた。
名前ちゃんって未来も見通すことができるのかしら?どこまでも素敵だわ…!

20201202
音柱様に恋柱様、とっても力持ちですね

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