真夜中をはんぶんこ

さらさらーーと、冷たい何かが私の頬を掠る感覚に瞼を上げる。白い天井と、オレンジ色の優しいライトが目に入り、部屋の大きさからしてここが安室さんに貸した彼の部屋だということに気づく。どうしてこの部屋に私がーー記憶を掘り起こそうにも、頭痛が邪魔をして思うように頭が働かない。

「気分はどうです?」

声の聞こえた方に頭をぐいっと傾けると、ぐらりと目が回る感覚。そして目に入ったのは、ベッドの縁に腰を下ろして、私の頬や髪を撫でる安室さん。どうやらあのヒヤッとした感覚は彼の手だったらしい。

「………なにしてるのよ…というか、どうして私がここに?」

力の入らない体をもぞもぞと動かしながらそう言うと、彼は呆れた顔をして口を開く。

「お風呂で寝るのは禁止してください。リビングに入るなり、お風呂の熱に侵されてぶっ倒れたんですよ」

少しは僕の気持ちも考えてくださいと、言いながら、彼は私を撫でる手を止めてベッドの中に入ってきた。安室さんの手、冷たくて気持ちよかったのになぁ…と考えてからはっとする。
ーー待って。ベッドに入った…?

「ちょ、なんで入るの!」
「ここは僕のベッドですから」
「だったら私も部屋に戻……って、離してよ!」

部屋に戻ろうとベッドに片肘をつき体を起こそうとすると、私の右側に横たわる安室さんにぐいっと抱き寄せられる。熱に侵され、抵抗する力もない私は、まんまと彼の腕の中に納まってしまう。

「今日はもう動かない方がいい。君はここで寝るべきだ」
「…貴方って本当に強引ね」

口を開くたびにクラッとする頭。額に手を当てながら今日はもうこのままでいいか。と、安室さんへの抵抗を諦め、彼の腕枕と、向かい合う形で寝ていることに、若干の不満を持ちつつも、再び目を瞑る。

「…名前」

腕枕の張本人に名前を呼ばれてゆっくり目を開く。目線だけを彼に送ると、安室さんは初めて見る程真剣な表情で私を見つめていた。シングルベッドに2人。私たちの間には5センチの距離があるかないか。安室さんは私の前髪を優しくかき分けてそこに自分の唇を寄せ、さらに私を強く抱き締める。
ーーその距離、0センチ。
そして彼はいつもよりも低く、少し余裕のなさそうな声で言った。

「ーーあまり僕を心配させるな」

彼も男なんだ。と、私の体がそう頭に再認識させた夜の出来事だった。それをいやだと思っていない自分がいることに、私はまだ気が付けない。



7.真夜中をはんぶんこ
title by ジャベリン
2016.01.27

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