僕に与えられた残像

「貴方の監視役になりました。コードネームはバーボン。今日からこちらに住まわせてもらいますので、よろしくお願いしますね、名前さん」

いつも通り帰ってきた家に、いきなりこんなことを言い出す男がいれば、彼女が怒りだすのも無理はない。僕と彼女の始まりは、とてもいい関係とは言えなかった。

「……美味しい」
僕の作った料理を美味しそうに食べる彼女。

「なぜ私の家に住む程で話が進んでるのよ」
僕の発言にむすっとする彼女。

「違うわよ、みんな。誤解しないでね。安室さん。いたいけな少年少女を騙す大人は関心できませんよ」
怒って僕を睨む彼女。

「第一発見者は…」
事件解決の糸口を見つけるため、真剣に仕事に取り組む彼女。

「私はいつまでも若いからお姉さんでいいのよ」
少年探偵団に優しく微笑む彼女。

どんな行動をとっても、どんな表情でも、彼女は美しい。そしてその美しさはおそらく、裏で別の顔を持つグレーな部分から来ているのだろう。
組織での仕事は公安にいるよりもずっと単純且つスムーズだった。だがその仕事のやりやすさの裏にはある人間からの情報提供があると言う事実をベルモットから聞き、そこで僕は初めて彼女の存在を知った。僕は探偵。情報収集に長けている分彼女のことを調べるのは容易ではなかったが、難しくもなかった。しかしそこで気になること。彼女が20歳になる以前の情報、そして彼女の家族の情報が全く掴めないのだ。
ーーここまで綺麗に白紙にされているということは、誰かが意図的に情報を消し去ったということか…。
それからは彼女のことで頭がいっぱいだった。調べれば調べるほど深まる謎は、僕の探究心を擽り、ますます苗字名前という女の存在が僕の探偵としての性を掻き立たせる。そんな時に降りた僕への監視命令。この女を探れと、神が告げている気がしてならなかった。
監視生活が始まり、2日目にして彼女の部屋の鍵をピッキングして侵入した。写真など、彼女の過去を示唆する類がないかを確認したくて入ってみたが、これといってめぼしい物は出てこない。それどころか、仕事に関するものは一切置かれていなかった。警察関係のものも、情報屋のものさえも。どうせ部屋に入ったことは彼女にバレるだろうと思い、部屋を掃除してわざと侵入した痕跡を残し、彼女の帰宅を待ったのは記憶に新しい。そして僕の足を踏んで余裕の笑みを浮かべる女性が現れたのも、初めてだった。逆にそれが僕を熱中させるのだが。
ーー名前。僕は君に夢中だ。
君にどんな過去があるのか。君がどんな人間なのか。時間をかけてゆっくりと暴いていくさ。フッと片口の端を上げ、事件に没頭する彼女を視線で辿る。

「…………?」

しかし、僕は彼女を見つめてるうちにある疑問にひっかかり、眉間にしわを寄せた。



5.僕に与えられた残像
title by ジャベリン
2016.01.27

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