嘆きのパトリオット

「被害者は男性で、現在身元確認中です」
「そう。それで第一発見者は…」

米花町の現場に到着した。あたりは既に野次馬でいっぱいで、遺体は運ばれた後のようだった。鑑識から詳細を聞いているところに、ふと聞き覚えのあるソプラノが響いて思わず肩を震わせる。

「ぼくたちだよ!名前さん!」
「わー!名前おねーさんだー!」
「ねーちゃんにあうのひさしぶりだな!」
「ちょっと元太くん!歩美ちゃん!名前さんは、刑事さんですよ!お姉さんではありません!」

ーー嗚呼またあんた達か。死神少年共。
聞こえてきた声の方、つまり、足元の少年探偵団(哀ちゃん不在)に、しゃがみこんで目線を合わせる。そのすがすがしい顔といえば、殺人事件を目撃した小学一年生の顔ではない。と、突っ込みを入れたいほどであった。

「…色々聞きたいんだけど、貴方たち。こんな時間に子供だけ?保護者の方はいないの?」
「いるよ!さっきまで一緒だったんだけど、電話が入ったみたいで……。あ!ほら!あの人だよ!」

コナンくんの指を目線でたどると、そこには今私が一番会いたくない男がこちらに向かって歩いてきているような気がして、目をこすった。しかし、それはどうやら幻ではないらしい。

「おや…こんなところで会うなんて。奇遇ですね、名前」
「……ハァ…」

あの胡散臭い笑顔を向けられて私はついに頭を抱えた。神様、どうしてこんな展開になってしまうのでしょうか。今までの愚行の天罰でしょうか。物思いに更けていたその時、とどめを刺すかのように天使のような声色で、悪魔の囁きが3人の少年少女から聞こえてくる。

「安室のにーちゃん、名前ねーちゃんのことしってんのか?!」
「しかもいま名前って呼んでましたよね?!」
「ラブラブさんなんだねー!」

ーー違う。違うのよ君たち。
もう何も考えたくなくて私は額に手を当てて空を仰ぐ。どう言い訳をしようか考えても、なかなか言葉が見つからない。刑事のくせにこんなことで動揺していてどうするんだと、自分に喝を入れ、漸く否定のために口を開いた。

「ちが…」
「そうなんだ。僕たち一緒に住んでるんだけど、この通り名前は恥ずかしがり屋でね…」
「ちょ、ちょっとあなた…!」
「ほら。顔が赤いだろう?」

ほんとだー!なんて、キラキラした目で私を見つめる歩美ちゃん。そんな彼女の純粋さに、胸が痛くなった。何を考えているんだ、この男は。どうせ一緒に住んでることはバレるから先手を打つってやつなのか?それにしても、だ。

「違うわよ、みんな。誤解しないでね。安室さん、いたいけな少年少女を騙す大人は関心できませんよ」

そう言ってギロッと安室さんを睨むと、あははは!なんて声を上げて笑ってるではないか。いちいち気に食わない男だ。ジンがいけ好かねぇ野郎だって言ってたのに納得。激しく同意である。安室さんのバイト先である、喫茶ポアロで安室さんにケーキをご馳走してもらったらしい探偵団は、安室さんに家まで送ってもらう途中だった様子。たまにはいいことするではないか。と、感心していると、ふと服を引っ張られる感覚を覚えてそちらに目を向ける。コナンくんが何やら真剣な表情で私を呼んでいて、彼の顔の高さに自分の顔をあわせると、彼はひそひそと私の耳に手を当てた。

「おめぇ、あいつと知り合いなのか?」
「あいつって、安室さん?……ってコナンくん、顔怖いわよ。顔」
「んなことよりどーなんだよ。一緒に住んでるとかいってたじゃねーか」

何やら尋問されているような気分になり、眉をしかめる。もしかしてコナン君ーーもとい、工藤君は、彼の正体を知っているということなのだろうか。

「……あの男は、黒ずくめの男達の仲間だぞ?わかってんのか?」
「なんだ、知ってたの。だから哀ちゃんがいないのね」

そう言って、事の発端を話せば、コナン君は私の顔を見てハァ....と、呆れたような、安堵したようなため息を吐いた。ちなみに、コナン君は私が裏でハッカーをやっていることも、組織と少しつながりがあることも知っているし、コナン君の正体も哀ちゃんの正体も暴露されている。協力しろ、と言わんばかりに組織のことをよく聞かれるが、それではアンフェア。自分で調べなさいと言っていつもやんわり距離を取っているのだが、こちらも組織同様、なかなか諦めてくれない。

「…おめぇも大変だな」
「そう思うなら私と変わってちょうだい」

そう言ってコナン君の額にデコピンを食らわす。何すんだよ!なんて怒りだすコナン君が可愛くてクスクスと笑っていたところで、遅れて到着した目暮警部に呼ばれ、コナン君達と一度離れる。ーーそうだ。ここは殺人事件の現場。今は安室さんの発言に振り回されている場合ではないのだ。ちゃっちゃと終わらせてちゃっちゃと帰ろう。時刻は19時半。帰ったら安室さんにご飯作らせて早く寝る。そう決めて捜査に力を入れていた私は、安室さんが私に妙な視線を送っていることに気が付かなかった。



4.嘆きのパトリオット
title by ジャベリン
2016.01.27

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