僕だけが知っている彼女の寝顔

蘭ちゃんと園子ちゃんに誘われてカフェへと向かっていた。どうやら私の恋バナを聞きたいらしい。ほんと、高校生ってこの手の話に目がないっていうか、なんというか。

「…で。どうしてここなのよ」
「私、ポアロのケーキ食べたかったんです!」
「ていうか本人いたほうが話聞きやすいじゃない!ねぇ、安室さん?」
「いらっしゃいませ、みなさん」

目をキラキラさせた若者2人と笑顔の仮面をつけた安室さんを前にして、頭を抱えた。
ーーなんでこうなるのよ…。
奥のボックス席に案内され、女子高生2人を前にして座る。お冷を持ってきた安室さんにケーキセットを頼むと、彼は爽やかな笑顔を残して去って行った。ようやく落ち着ける、そう思ったのも束の間、すぐに彼女達から恋愛相談という名の尋問が始まった。

「それでそれで、名前さんは安室さんのどこが好きになったのよ!」
「やっぱり優しいところ?それとも、気がきくところとか?」

うん。2人とも。声のボリュームを抑えてほしいな。2人の質問が起こるたびにドキドキハラハラしながらカウンターの奥にいる彼をチラッと盗み見て小さく答えていた私。もうこのやりとりも5.6回目で、彼の死角に縮こまっていた私の言葉はおそらく目の前の2人以外に聞こえてはいないだろう。

「ちょっと名前さん!聞いてるの?!」
「えっ、えぇ…そうね……好きなところ、かぁ…」

そういえば、あまり深く考えたことのない質問だった。気が付けばいつも私のそばにいてくれて、美味しいご飯を作って私を待っていてくれて、命を助けてくれて、一緒にいるのが当たり前になっていて。ただ、私の心の安らぎがあなただったのだから、無意識というものは恐ろしい。

「お待たせしました」
「あっ、安室さん!」

丁度いいのか悪いのかわからないタイミングでコーヒーとケーキを運んできた彼ーー安室さん。何の話で盛り上がっているんですか?何て言う彼の一声に、園子ちゃんがにやにや笑いながら口を開いた。
ーーな、なんか嫌な予感…

「実は今、名前さんに安室さんのどこが好きなのか聞いてたところなんですよ!」
「そ、そのこちゃ…!」
「ほぉ……それは僕も気になるなぁ…」
「ちょっと!貴方まで何言ってんのよ!」

嫌な予感とやらは見事に的中。お店が空いているのをいい事に安室さんは私の隣へと腰をかけ、意地悪げな表情を浮かべている。
ーーああもう!一体これはなんの仕打ちなの?!

「名前さん!もったいぶらずに教えてくださいよ!」

渾身の一撃だった。蘭ちゃんにそんなキラキラした目で言われて仕舞えば仕方がない。全てを諦めきった私から出た、そのか細い声は目の前に座るJK2人にも届くか届かないかの狭間並みに小さなものだった。

「……ぜ………全部、好き……なの…」

悪い?そう言って首を傾げた名前さんを見て、その場にいた全員の顔が真っ赤に染まった。名前さんは顔を両手で覆って無言だし、安室さんは安室さんで通路の方へ顔を反らし、右手で口元を覆っている。私と園子はそんな少女漫画的展開の2人を目の前にドキドキとにやにやが止まらない。この甘ったるい無言にどう耐えようか考えていたその時、安室さんが名前さんの耳元に口を寄せ、何かを囁いた。その途端、名前さんの顔が沸騰しそうなほど赤くなって、安室さんはご機嫌な顔をしてカウンターの奥へと戻ってしまった。

「ちょっと名前さん!なんて言われたの!」
「教えてください名前さん!!」

この後、ホットコーヒーがすっかり冷たくなるまで、名前さんの正気が戻ってくることはなかった。

「帰って2人きりになったら、もう一回今の言ってもらうからね」

耳元に残る彼の熱を、名残惜しそうに指でそっと撫でた名前。ちらりと仕事中の彼を愛おしそうに視界に捉えた彼女を見て、蘭と園子は目を合わせて優しく微笑んだ。



番外編「僕だけが知っている彼女の寝顔」
2016.06.11

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